五十一話:悪の組織VS元勇者
イベント広場の裏に、隠し階段があるのを見つけた。
うん、情報通りだね。
このイベント広場は、以前はヒーローショーなんかが行われていた場所だ。
悪の組織の秘密基地への入り口としてはなかなか洒落が利いていて、趣味が悪い。
やけに長い階段を進むと、薄暗い通路に繋がっていた。
通路の先には少しばかり古めかしい木製の扉があって、扉の上にはこれも木製の看板が掲げられている。
『秘密結社ブラッククラウン』
どういうセンスなのかな?
隠したいのか、誇示したいのか、どっちでもいいけどさ。
世界征服みたいなことを企む人たちのすることを理解するのは難しいよね。
扉を開けて進むと、やけに天井の高い広間に出た。
こんな広い空間を勝手に地下に作るなんて、建築基準法をなんだと思っているんだろう。
おっと、危ない危ない。
知らず知らずのうちに、あのクソ悪魔に影響されてるのかな。
近くにいる人の口調や考え方が移ってしまうことはよくあることだけど、ああはなりたくないし、気を付けないといけないね。
ところで、奥の方に3つほどの人影が並んでいる。
人影と言っても人間にはちょっと見えなくて、上半身がライオンみたいになっている人と、大きな蝶の羽みたいなのを背負った人と、あとはなんだろう、あれ。ヒトデかなぁ……上半身が気持ち悪い人の3人組だ。
「ようこそ、愚かな侵入者よ!」
上半身がライオンの人……いわゆる怪人ってやつだね。
その怪人が仰々しく歓迎してくれる。
ちょっと滑舌が悪いのは、上半身がライオンだからだろうか。
「その佇まい、只者ではないと見受けられるが、我らが居城になんの御用かな?」
武人系キャラか。
こういうところで問答無用じゃないのはちょっと珍しい。
ならこちらも、ちゃんと仕事をしなきゃいけないね。
「警視庁特殊二課です」
懐から折り畳まれた書面を取り出し、怪人たちに向けて広げ、提示する。
「旧テーマパーク地下における無許可掘削および地下施設の建設、建造物等損壊、逮捕監禁、傷害、殺人、違法な人体改造等の被疑事件について、捜索差押許可状が発付されています」
「…………」
「警察だと?」
ライオンの怪人が困惑したような顔で近づいてきた。
結構大きいね。2メートル以上ある身長をかがめながら、書面を確認する。
「ぬぅ……」
彼は低いうなり声をあげて、押し黙った。
もちろんこれは裁判官が正式に発付したものだから、ちゃんと法的な拘束力がある。
どう対応すればいいのかわからないって感じだ。そりゃあこんな経験ないだろうし。
でもこっちとしてはこんな茶番はめんどくさいだけだから、さっさと話を進めよう。
「秘密結社ブラッククラウンの責任者……竹中博士にお取り次ぎいただけますか?」
そう告げると、ライオンの怪人が大きく飛び退き、毛を逆立てる。
「き、貴様……!なぜ大首領の本名を……!?」
「調べればわかることですよ」
人間というのは、完全に他人と関わらずに生きられるようにはできていない。
どこでどうやって生きてきたのか、必ず記録が残る。
ましてや人体を改造して怪人にするような高度な科学技術を持つ人物だ。
組織の実態を掴むことができれば、特定するのはそれほど難しいことじゃない。
「ぐぬぬ……おのれ!大首領に会いたくば、我ら三幹部を倒して進むのだな!」
そうそう。そんな感じなら話が早い。
それにしても幹部が三人じゃあ、世界どころか市町村だって統治できないと思うけど。
そんなことを考えているうちに、咆哮を上げながらライオンの怪人が床を蹴った。
その巨体からは想像しにくい速度でこちらに踏み込んでくる。
時速80kmは出てるね、結構な圧力だ。
同時にヒトデかなにか……まぁヒトデでいいか。ヒトデの怪人もその影に隠れるようにこちらに迫ってきているのが見えた。
一歩下がりながら、ライオン怪人の爪を横にずれてかわす。
直後に襲ってくるヒトデ怪人の触手を手刀で弾こうとする……けど、なんだか汚いな。
毒でも持ってそうだし、後ろに飛んでこれも避けよう。
おっと……触手が触れた床が溶けちゃってる。
コンクリートに見えるんだけど……避けて良かったなぁ。
それにしても、なかなかいい連携だね、仲良しなのかな?
こういう幹部は対立しあっていることも多いから、こういうところで組織の個性が出るよね。
特にヒトデの人は良かったと思う。しっかり気配を消しながら、致命的な攻撃を重ねてきた。
『ヒーロー』さんがやられたのは、もしかするとこれかもしれない。
そのまま連携攻撃を繰り返す2人の上空で、蝶の怪人が羽を震わせると、きらきらとした鱗粉のようなものが宙を舞う。
ああいうのはだいたい麻痺か毒の効果があると相場は決まっているから、これも避けた方が無難かな。
鱗粉が床に触れた瞬間、コンクリートの表面が黒く変色した。
なるほど、もし普通の人間が吸い込んだりでもしたら、ただじゃすまない。
「空中から行動を制限しつつ、前衛2人で押し切る。なかなか考えたね」
「余裕ぶるな!」
ライオン怪人の咆哮が空気を震わせる。
これは常人なら、足がすくんで動けなくなるかもしれない。
警察官に対する殺人未遂。それと、公務執行妨害。
さて。手順は踏んだしもう十分かな。
手を掲げ、蝶の怪人を指さすと、ライオン怪人が一瞬ビクッとして縮こまる。
『なにか』を感じたんだろう。なかなか優秀だ。
でも、もう遅い。
「ラオ・ザイア」
久しぶりに、異世界の言葉を口にした。その瞬間。
眩い稲妻が虚空からほとばしり、広間が一瞬白く染まる。
次の瞬間、蝶の怪人が完全に炭化し、糸の切れた人形のように床へ落ちた。
悪を滅ぼし、全てを砕く神の雷だ。
出力の低い中級版だけど、生半可な怪人が耐えられるわけがない。
「馬鹿な……!」
残された2体の怪人が、明らかに狼狽した。
どうしたんだい。君たちの目標は世界征服なんだろう?
「これが、世界を左右する力だよ」
遠く離れた世界にいても、女神様の加護は失われていない。
呼びかければいつでも、僕の声に応えてくれる。
はいはい。僕も愛してるよ。
僕の手元に、稲妻の残滓が集まると、やがて光り輝く一本の剣になった。
それを見て、ライオンの怪人がさらに一歩下がる。
「さて、降参してくれると楽なんだけど」
「ぐ、ぐおおおおおお!」
ライオンの怪人が吼え、突進してきた。勝ち目がないのを理解しているんだろう、明らかに怯えている。
でも、恐怖を乗り越えて立ち向かってくる相手は時々想定以上の力を出すから――容赦しないと決めているんだよ。
真っ二つになって、炭化したライオン怪人が音もなく崩れ去った。
さて、残りはあとひとり。
「……君はどうする?」
ヒトデ怪人は両手を上げ、首を振った。
もしかして言葉を話せないのかな?
「降参なら、首を縦に振ってくれるかい?」
「……」
そう言うと、ヒトデ怪人は何度も首を縦に振る。
どうやら降参ということでいいみたいだ。
「では、竹中博士に取り次ぎをお願いします」
ヒトデ怪人の先導に従い、迷路めいた通路を進んでいく。
その間、特に他の怪人が襲ってきたりはしなかった。もしかすると、『ヒーロー』に幹部以外は倒されたのかもしれないね。
結構な距離をぐねぐねと歩き回った先で、ヒトデ怪人が足を止める。
そこにはさっきよりも大きな、見上げるほどの古めかしい木製の扉が待っていた。
『大首領室』
これまた木製の看板が掲げてある。
どういうセンスなんだろうね。
扉を開けると、さっきの広間ほどじゃないけど、そこそこ広い部屋に出た。
中央に赤い絨毯が敷かれていて、玉座へと続いている。
ここだけ見れば、魔王城を思い出す。
ただ、大きく違うのは、玉座に座っているのが城の主じゃなくて、城の主の死体だってこと。
大首領ブラッククラウンこと、竹中博士は――玉座に座ったまま胸に大きな穴を空けられて、絶命していた。




