五十話:月光
『パラッパッパー!』
頭の中に景気のいい音が響いて、目が覚めた。
うう……本当に寝ている時はやめてほしい。びっくりするから。
ピューイさんの予想が正しければ、こんな時間に咲がなにかを倒した……ってことになるんだけど。
そうだとしたら無事でいることを喜んでいいのか、心配していいのか、複雑な気分だ。
いや、地球上でも時差があるんだから、異世界が『こんな時間』なのかどうかなんて、わかるわけがない。
だとすると、今後も夜中に起こされる可能性はいくらでもあるんだよなぁ。
とはいえ最近はちょっと慣れたのか、夜中にこれで起こされても、割とすぐに眠れるようになってきた。
なので今日もそのまま眠ってしまうのが一番なんだけど……
左腕に、かすかな重みを感じる。
見ると、月明かりに照らされた長い銀髪が、ふかふかの布団に沈みながら淡く輝いていた。
月城さんだ。ベッドに突っ伏して、かすかな寝息を立てている。
カーテンの隙間から差し込む白い光が、彼女の髪の上に細い線を作っていた。
部屋は静かで、寝息と時計の音だけが、やけにはっきり聞こえる。
眠っている月城さんには雑に毛布がかけられていて、これは如月さんの仕業だろう。
なんだかんだ言って月城さんが滞在することを許しているし、伊吹さんあたりが言うような、極端に融通の利かない人というわけじゃないと思う。
そういえば、寝る前よりも身体が楽になっているような気がする。
肩も背中も、まだ違和感は残っているけれど、痛みはかなり引いていた。
月城さんは『明日の朝』と言っていたけど、僕が寝ている間にまた回復魔術を使ってくれたみたいだ。
そのまま疲れて眠ってしまったのかもしれない。
本当にありがたい。
でも今後はなるべく怪我をしないように気を付けよう。
月城さんには学校も仕事もあって、本来なら僕なんかに関わっている時間なんてないはずだから。
どうせなら、僕もそういう便利な魔法が使えるようになればいいのにな。
地震を起こすだとか、なんの役に立つと言うんだろうか。
最後の一つはもっとわからない。
なにが起きるかわからなさすぎて、『ちょっと試しに使ってみよう』なんて気にはとてもならなかった。
時計の針は午前3時半ぐらいを指していて、もうひと眠りできそうだ。
でもどうせなら宿題を……とも考えたけど、僕の左手はしっかりと、眠っている月城さんに握られていて、こっそり起き上がるのは難しそうだ。
月城さんにはできれば自分の部屋で、身体を伸ばして眠ってもらいたい。
でも、こんな微妙な時間に起こすのもどうなんだろう。
手のひらが、少しだけ温かい。
規則正しい寝息と、時計の針の音。
遠くで聞こえるバイクのエンジン音は、朝刊の配達かもしれない。
そう言えば、新聞の解約をしていないことを思い出す。
自宅の新聞受けは、ここ1週間ほどの新聞であふれてしまっているはずだ。
でも解約ってどうすればいいんだろうか。
電話での問い合わせはちょっと難しい気がする。
なにしろ声が、完全に子供の声だから。
どうしたものかなぁ。
そんな、益体もないことを考えているうちに目が冴えてきた。
これはまずいぞ。眠れなくなるパターンだ。変なことを考えていないで、眠らないと。
そう思って目を閉じる。
だけど、一度意識してしまうと、時計の音も、遠くに聞こえる鳥の声も、妙にはっきり耳に響いてすぐには眠れない。
目を開けると、月明かりはいつの間にか薄い朝の光に取って代わられていた。
その光が月城さんの髪を、別の色に輝かせている。
月光に照らされて白く輝いていた銀髪は、朝の光を受けて、ほんの少しだけ柔らかい色を帯びていた。
それがなんだかすごく綺麗で、そのままぼーっと見つめていた。
いつの間にか、眠ってしまうまで。




