三十話:容疑者は12歳
「原口卓也、12歳。現時点で最も有力な容疑者の一人だ」
ホワイトボードに貼られた写真を指しながら如月さんが言う。
「12歳……小学生ですか?」
「その通りだ。もしそうであれば、許しがたいことだがね」
突拍子もない話に理解が追いつかない。
いくらなんでも小学生に化けるなんてできるんだろうか?
「でも、どうやって容疑者を絞ったんですか?姿も……記憶も完全に模倣するって話でしたよね」
「もっともな疑問だね。ピューイくん、説明を」
「わかったピュイ」
そう言うと、ピューイさんが浮き上がり、ホワイトボードに数枚の写真をペタペタと貼っていく。
この人の立場ってどうなってるんだろう、警察官の扱いになるのかな……
誰も説明はしてくれない。
「それじゃ説明するピュイ」
ホワイトボードに貼られた写真は4枚。男性が2枚に女性が2枚だ。
そのうちの1枚に、僕は見覚えがあった。たしか、登録者数が100万人に達した数日後に行方不明になったと一時期ネットで話題になっていた配信者の女性だ。
「この4人は、いずれも突如行方不明になっているピュイ。そして、彼らには明確な共通点があるピュイ」
ピューイさんが短い手で写真を指し示す。
「その共通点というのは、『なんらかの目的を達成してすぐに失踪した』こと、そして『ある時期から突然成績や実績を伸ばした』ことだピュイ」
「朝霧くんの持つ情報と照合した結果、ペプラモトによる犯行とされる事件には、すべて同様の共通点があることがわかったんだよ」
ピューイさんに代わって如月さんが話し始める。
朝霧の情報ということは、過去に宇宙警察が掴んだ情報ということだろう。
「今回の容疑者である少年は、ジュニアサッカーの選手だ。成績優秀、友人関係も良好」
「そして……ここ半年で『まるで別人のように』実力をつけ、地区大会のレギュラーに選ばれたそうだよ」
そう言われると、怪しく思えてくる。
もしも……もしも本当に、12歳の少年を殺して成り代わっているのだとしたら……
そんなおぞましい化け物の存在が許されていいわけがない。
「他の容疑者については、すでに警察の方でマークしている。だが、相手が小学生となると話はそう簡単じゃない。ましてや、学園内での犯行となるとお手上げだからね」
そこまで聞いて、なんだか背筋が寒くなった。
嫌な予感がする。その話をわざわざ僕にするってことは、まさか……
「そのまさかだ。日向さん、その姿なら小学校に潜入してもなんの問題もないだろう?」
冗談みたいな言葉の響きと裏腹に、如月さんは真剣な目で僕を見つめている。
どうも本気らしい。冗談であってほしかったけど。
いやだめだ。流されていいことじゃない。
確かにもし本当にそうであれば許しがたい話だけど、それとこれとは話が別だ。
「……どう考えても問題しかないですよ」
「そうかい?名案だと思うんだけどね」
「そうだ、法的にはどうなんですか。40前のおっさんが小学校に潜り込むなんて、なんらかの法に触れるんじゃないですか?」
法に触れるようなことをしてでもということなら、そもそもこんなことになっていないはずだ。
「日向さん。あなたは本当に『日向浩さん』なのかな?」
「え、そりゃあ……そうですよ」
「それをどうやって証明するんだい?客観的に見れば、あなたは『40前の男性を自称する少女らしき人物』でしかないと思うんだけどね」
急に何を言い出すのか。
そもそもこの人は僕の心を読めるんだから、わかりきったことだろうに。
「それを『客観的に証明』することはできない。証明することができないことを根拠にして罪に問うことはできない」
「そんな理屈で……」
「でも、それが法治国家というものだよ」
「同時に、日向さんの外見が少女に見えるからといって、『少女であること』も証明できない。よって、その点でも心配する必要は無いよ」
まずい、言いくるめられてしまいそうだ。
別に僕は法律に詳しいというわけでもないんだから、反論のしようがない。
「原口少年の『目的』が『レギュラー入り』なのか、『地区大会優勝』なのか、それとも『全国大会優勝』なのか、現時点で我々に知る術はないが……」
「もしも『レギュラー入り』だったとすれば、目的はすでに達成済みだ。いつ何が起きてもおかしくはない。手段を選んでいる間に、次の被害者が出るかもしれない……それだけはなんとしても防がねばならないんだよ」
「他に方法は、無いんですか……」
法的には如月さんの言う通りなのかもしれない。けども……やっぱりいくらなんでもめちゃくちゃだ。
「ヒロシ……頼むピュイ、お前だけが頼りなんだピュイ……」
どう反論すべきか迷っていると、ピューイさんがこれまで見たことないような……必死な、多分必死なんだろう表情で縋るように迫ってくる。
「そんなことを言われても……だいたい、なんでピューイさんがそこまで必死なんですか」
僕が疑問を口にすると、ピューイさんはギュッと拳を握りしめ、悲痛な声で言った。
「原口卓也が通っているのは……『明葉学園小学校』」
「え……?」
聞き覚えのある名前にぞくりとする。
そこは……
「……コハルが通っている小学校だピュイ」




