二十九話:善良な市民とは
「ふぅ……それで、わざわざ『お嬢様』まで連れてきたということか。やってくれるねピューイくん」
ピューイさんからの説明を受けた如月さんは、ややうんざりしたように息を吐いた。
「文句があるなら自分でやるピュイ」
「はじめまして、警視庁特殊二課の如月です。それで、お嬢様がわざわざなんの用かな?」
如月さんは不満げに言葉を返すピューイさんを無視して月城さんに向き直ると、例の挑発的な口調でそう言った。
「あら、初対面の挨拶としては随分ですわね」
月城さんも余裕の笑みを崩さずに返す。
僕に対する丁寧な態度とは随分違うな、と僕は内心で首を傾げた。
「善良な市民とそれ以外で分けているだけですよ」
僕の疑問を察したのか、如月さんがこちらに向かって微笑む。
「私が善良な市民ではないと?」
「それは君が一番わかっているだろう?」
「なるほど、心を読むというのは本当のようですわね」
二人の間に、目に見えない火花が散った気がした。
月城さんは一体、如月さんに何を読まれたというのだろうか。
「まぁいいさ、『これ』は法的根拠にはならないからね。それよりも……だ」
如月さんはふっと表情を緩めると、再びこちらを見て微笑む。
「いいことを思いつきました」
「あの……よければ僕に対しても普通に話してもらえませんか、ちょっと落ち着かなくて……」
僕はたまらず口を挟んだ。
丁寧に接してくれるのはありがたいのだけれど、露骨に態度を変えられると、正直居心地の悪さが勝ってしまう。
「そうかい?それは構わないが、善良な市民に対してこのような口の利き方をするというのはやや気が咎めるね」
「気持ち悪いってことだよ」
伊吹さんが横から身も蓋もない通訳を入れる。
「いや、そういうわけじゃないんですが……」
「どっちでもいいさ。市民の要望に応えるのも警察官の役目だからね」
如月さんはあっさりと承諾してくれた。
さすがに気持ち悪いとまでは思っていないのだけれど。
「はぁ……助かります」
「さて、日向さん。せっかくだからその姿を活用してみるというのはどうかな?」
なにが『せっかく』なんだろうか。
こっちの気も知らないで……いや、知ってるんだろうな……




