第二十三話:勇者 日向咲
『パラッパッパー!』
雷属性を纏った魔法剣が一閃し、巨大なアリの魔物をバラバラに吹き飛ばした瞬間、頭の中に間の抜けたファンファーレが響き渡った。
でも、今はレベルアップを喜ぶ気になんて、到底なれなかった。
「……大丈夫ですか?」
アリの死骸がいくつも散らばる中で、身を寄せ合って震えている二人の女性に声をかける。
うずくまっている彼女たちの足元には、もう動かない、全身傷だらけの剣士らしき男性が倒れていた。
大丈夫なわけないよね……
そう思いながら、魔法使いと僧侶らしき二人の女性にそっと寄り添う。
二人はポロポロと涙を流しながら、自分たちの未熟さを何度も悔いていた。なんでも魔力が尽きてしまった二人を、彼が盾となって一秒でも長く守ろうとしたらしい。
私は、事切れたその男性を尊敬のまなざしで見つめた。
彼を土に埋葬し、私は二人を近くの街まで護衛することにした。
道中での戦いはなんの問題もなかった。後ろから魔法が飛び、傷を癒してくれる人がいるだけで戦いはずっと楽になる。
夜になり、少しだけ打ち解けた私たちは焚き火の前で言葉を交わした。
彼女たちの話によると、三人は同じ村の幼馴染だったらしい。自分たちには大した才能はなかったけれど、剣士の男性はとても強くて、騎士団に誘われるほどだったという。
「なのに……あいつ、私たちと一緒なら魔王だって倒せるようになるって……そんなこと言って、一緒に旅に出ることになったんです……なのに……」
とめどなく涙を流す二人を見つめながら、私はパチパチと爆ぜる炎に目を向けた。
才能にあふれていた人なのだろうと思う。大切な人とパーティを組み、その人たちを守るために戦い、散っていった立派な人だ。
でも、その才能が花開くまで生きていられるかどうかわからないのが、この世界だ。
ステータスやレベルがある、ゲームみたいな世界。けれど、これは絶対にゲームじゃない。都合のいい復活の魔法なんて存在しないし、死んだらそこで、すべてが終わりだ。
「サキさんは……ずっと、一人で戦ってるんですか?」
ふと、涙を拭いながら彼女たちが聞いてきた。
「一人だけど、独りじゃないよ」
私は焚き火を見つめたまま、静かにそう答えた。
二人は不思議そうに顔を見合わせる。そうだよね。
それから数日後、無事に街へたどり着いた時のこと。
「あの……よかったら、私たちとパーティを組みませんか?」
別れ際、二人は少し躊躇いながらも、そう提案してくれた。
それもいいのかもしれないと、心が少しだけ揺らいだ。ここ数日の間、寂しさが紛れていたのは確かだから。
この過酷な世界で、誰かと背中を預け合って戦うことが、どれほど心強いことか。あの剣士のように、大切な誰かとパーティを組むのが、きっとこの世界での正しい生き方なのだろう。
でも――
「ごめんね、それはできないの」
私は申し訳なさを込めて微笑み、静かに首を振った。
そして二人に見送られながら、再び一人で街を後にする。
また魔物と戦い、勝利し、ファンファーレが鳴る。
戦闘を終えた私は、ふと虚空を見つめ、システムのメニュー画面を開いた。
パーティメンバーの欄を確認する。
そこには、『サキ』と『ヒロシ』の名前が並んでいる。
うん……まだ繋がってる。
パーティ状態を解除してしまえば、他の誰かと組むことはできる。でも、絶対にしない。
私は、日向咲。お父さんの娘だ。
『この世界』にいなくたって、確かにこうして繋がっている。何があったって、これが証拠。私は、独りじゃない。
「魔王、かぁ……」
きっと、すごく強いんだろうな。どれだけレベルを上げれば勝てるのか、まだ全然わからない。
でも、魔王を倒せば異世界から元の世界に帰れるっていうのは、セオリーだよね?
「待ってて、お父さん。必ず帰るから」
剣を強く握りしめ、私は一人、荒野の先へと歩き出した。




