第十九話:鑑定
「なんだいなんだい、下等な化け物とはずいぶんだね。私はこれでも地獄の公爵と称された大悪魔なんだがね?」
如月さんの口調が唐突に変わる――公園で朝霧に対して話していたものと同じだ。
先ほどまでと同じ声なのに、なにもかもが決定的に違う。
そんなことより、化け物?大悪魔?如月さんが?
そう混乱していると、ぐるりとこちらを見て聖母のように微笑む。それまでの言葉も表情も嘘か幻だったかのように……
「さて、日向さん。ここ数日の……ご自身の変化に困惑しておられるものと思いますが、この伊吹がお力になれるかもしれません」
……さっきまでの如月さんだ。瞬間的に態度が180度変化する姿に、本当に同じ人間なのかとすら思う。
いや、そもそも人間なのか?大悪魔って言ってなかったか……?
「それだけどさ、如月さん。率直に言わせてもらうと、気持ち悪いよ」
「気持ち悪い、だって?私は善良な市民に対する口の利き方というものをわきまえているんだよ。君とは違ってね」
互いに皮肉をぶつけ合う二人を眺めながら、次々に飛び出す妙な言葉を飲み込もうとしてみる。
まずいなぁ、なんだかずっと流されてばっかりだ。
「ご安心ください。私は確かに悪魔ですが、そうである前に警察官です」
先ほどまでと何も変わらない……こちらを安心させるような微笑み。
でもこの状況で『何も変わらない』ままでいることなんて可能なのだろうか?
「そんなこと言われたって信用できないよね。悪魔なんてのはどいつもこいつも嘘つきだからさ」
いや……どうだろう。
ここまでごく短い期間、それも取調室なんて非日常的な空間でのやり取りしかしていないけれど……
なんだか、彼女のことは信用できるように思う。
少なくとも、『法に従う』意志だけは、とてもポーズに見えない。
「ありがとうございます、日向さん。少しでも信用して頂けるだけで、報われます」
「信用だって……?如月さん、まさか……日向さんの心を操ったんじゃあ……ないだろうね?」
心を、操る……?そ、そんなことまでできるのか……!?
だとしたら、僕は……いつの間にか……
「やれやれ……どうしようもなく愚かだね、伊吹くんは」
「『内心の自由』は、日本国憲法19条で保障されている。これは常識だと思うんだがね?警察官であるこの私が、国民の権利の中でも最も大切なものの一つを、みだりに踏みにじると思うのかい?」
如月さんとの会話を諦めたのか、伊吹さんがこちらを向いて少し真剣そうな目をする。
「……本題に入ろうか。日向さん、僕は異世界に転生し、その後現世に戻った帰還者だ」
異世界に、転生……ときたか。まあ、如月さんも悪魔だっていうし、それぐらいのことはあたりまえに起きるんだろう。
「そこで僕は多くの力を手に入れたんだが……そのひとつに『鑑定』のスキルがある」
「これは、相手の情報をかなり詳細に把握できるスキルなんだけど、これを……日向さんに使わせてもらいたいと思っているんだ」
鑑定、か……それで自分の現状がわかるなら、願ってもないことだけど……
「それは、僕が許可しない限り使用しないということですか?」
「もちろん。僕も警察官だからね、如月のような法律バカじゃないが、さすがにプライバシーをあからさまに侵害したりはしないさ」
「わかりました。ぜひお願いします」
「……心得た」
伊吹さんの目が細まり、こちらをじっと見据える。その瞬間――
『パラッパッパー!』
夕方以来の……あの鬱陶しいファンファーレが鳴り響いた。
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