↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生で奪われた娘を取り戻すために戦う父親は、魔法少女になって娘の親友の銀髪お嬢様に愛される  作者: 古川智明
第二章:小学校を卒業してからの話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
149/154

第百四十九話:続・気まずいドライブ

「ねえ、あなた邪界人なんでしょ? この子のこと、知ってる?」


 僕が正面を見ている後ろで、小春さんがグリーマルに話しかけている。

 いくら車が勝手に目的地に向かってくれるといっても、やはり正面を見ていないわけにはいかない。外から見えるわけだし。


 ハンドルに軽く手を添えているだけで、窓の外の建物が次々に後ろへと流れていく。

 バックミラーにちらりと目をやると、小春さんが隣のグリーマルにスマホを向けていた。


 というか……見せてるの、3人で撮った写真だよね。

 この間も怪人にスマホを見せていたけど、それあちこちでやってるのかな。


「うん、知ってるよ」


「えっ……?」


 ぐええええ、グリーマルさん!

 グリーマルさーん!

 なに言ってくれちゃってるんですかー!


 思わずハンドルを握る手に力が入った。

 危ない危ない、自動運転でもハンドルを回せば進行方向は変わるのだ。


「毎週戦ってたから」


「……どういうこと?」


 小春さんの声から、敵意を感じる。

 ……僕の、『佐倉ひより』の敵は、小春さんにとっては敵なのだ。

 その気持ちは素直に嬉しい。


 とはいえ、こっちにも色々と複雑な事情があるので、今グリーマルに敵意を向けてもらうのは困る。


「私の一番大切な人だよ」


「は?」


「うっ」


 やべ、つい声が。

 まじでなに言ってんのこの子。


 ミラーの中で、小春さんがこちらを見た。

 僕は前を向いたまま、なにもなかったような顔をする。できているかどうかは知らないけど。


「ぜんぜん意味わからないんだけど、からかってる?」


「からかう? どうして?」


「どうしてって……ちょっとお兄さん、この子意味わからないんだけど」


 こっちに矛先が向いたか。

 まいったな……なんて言えばいいんだ、なにを言ってもボロを出しそうな気がする。


 ……まるで、小学校に転校したてのころみたいだ。


「グリーマルは嘘を言わないよ。一番大切だって言うんだから、そうなんだと思う」


「なにそれ……それじゃ、なんで戦ってたのよ」


「それが私の仕事だったし、あとはひよりちゃんのレベル上げだよ」


「レベル……? なにそれ、ゲームみたいな? ひよりちゃんを強くするためってこと?」


「うん。私はひよりちゃんに死んでほしくないから」


「死……って、どういうこと? ひよりちゃんは死ぬかもしれないようなことをしているの?」


 小春さんの言葉に悲壮な色が混じっていた。

 心配と、焦りと。


 さっきまで僕たちを問い詰めていた声とは違う。

 ミラーに映る小春さんは、スマホを握ったまま、隣のグリーマルを見つめていた。


「……ひよりちゃんの願いは、普通なら絶対に叶わないことだから。でも、ひよりちゃんは絶対に諦めないって、魂が叫んでる。だから私はなんでもするんだよ」


「なによ、それ……なら、どうして……」


 きっと……小春さんの言葉の続きは『どうして私に言ってくれなかったの』だ。

 『ヒロシはアホだピュイ』って、ピューイさんが何度も言っていた通り、僕は……


 信号が赤になって、車がゆっくりと停まった。

 目の前の横断歩道を、買い物袋を提げた人が歩いていく。


 買い物袋の中には、うっすらと野菜が見える。

 キャベツだった。


「私は、コハルが羨ましい」


「なんの話?」


「ひよりちゃんはいつも、コハルの話をしてた」


「私の……?」


「うん。命を賭けて守るって、ひよりちゃんは言ってた。ひよりちゃんは言葉にしたことを、絶対に違えない」


「そんなこと言ったって……ひよりちゃんは……」


「心配しないで。ひよりちゃんはコハルのことを愛してる。絶対にあなたを独りになんてしないよ」


「でも……だって、いないよ……私、ひとりだよ……」


 声が、滲んだ。

 いつも元気な、元気だった小春さんの声が。

 それは、僕の聞いたことのない声で――


 ミラーの中で、グリーマルが小春さんの肩に腕を回した。

 そのままそっと引き寄せると、小春さんは俯き、彼女の胸元に額を寄せた。


「大丈夫だよ。ひよりちゃんはなにがあってもコハルを見捨てない。必ず会えるから。それまで私が、そばにいるから」


「なんでそんなこと言うの、意味わかんないよ、わかんないよ……」


 小春さんの手が、グリーマルのカーディガンを掴んだ。


 それから――小春さんは泣き続けた。

 グリーマルの胸の中で、声をあげて。


 グリーマルは、そんな小春さんの背中をゆっくりと撫でていた。

 慰めの言葉を口にすることもなく、ただ、そうしていた。


 そうか、『哀惜』のグリーマル。

 今の小春さんを、その想いを――彼女が放っておけるわけなんてない。


 そしてきっと、僕のためでもある。

 僕のために、小春さんのために『できること』を、彼女なりに考えてくれたのだ。


 胸が潰れそうになるような、大切な少女の泣き声を聴きながら――なにもできない僕と違って。


 信号が青に変わり、車がまた走り出す。

 僕は前を向いたまま、また流れ始めた景色を見ていることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。