第百四十八話:気まずいドライブ
「お待たせ」
「うん、お疲れ様」
3駅ほど離れたところでグリーマルと合流し、人気のない高架下で『ゼドラ』を呼ぶ。
頭の上を電車が通り過ぎる頃には、赤い車が僕たちの前に停まっていた。
『ゼドラ』は宇宙の技術で作られた超すごい変形機能付きの車なので、呼べばあっという間に現れる。
駐車した場所まで戻らなくていいというだけでも、たいへんありがたい。
「それじゃ、行こうか」
グリーマルを助手席に座らせ、僕も運転席に乗り込もうとする。
今日のグリーマルは、いつもの軍服風のゴスロリファッションではなく、白いシャツに薄手のカーディガン、膝丈のスカートといういでたちだ。
……こうしていれば、どこにでもいる中学生ぐらいの女の子に見える。
まぁ、顔色が青白かったり髪が緑だったりするから見た目はそこそこ目立つんだけど。
少なくとも、異世界から来た侵略者には見えない。
彼女も僕の『仕事』を手伝っていて、それなりに収入がある。
こちらの世界の服なんかも、自分で選んだり澪に選んでもらったりして、積極的にオシャレを楽しんでいる。
まぁ、なんだかんだでちゃんと女の子なんだなぁと思わなくもない。
仕事の上では特に、彼女の魔力感知能力にたいへんに助けられている。
というのも、僕には独特の魔力を溢れさせている白峰さんや、ベリアルみたいな規格外の化け物の気配を察知するぐらいしかできないけど、彼女は普通の人間でさえ、正確に位置を把握できる。
壁の向こうに何人いるのか。
捕まっている人が、どの部屋にいるのか。
そういうことがわかるのだから、施設への潜入や人質の救助にはうってつけだ。
特殊二課としてはなんとしても確保したい人材らしいのだけど、彼女は僕としか仕事をしたがらない。
結果として、実を言うと僕の仕事を手伝うというよりも、彼女の仕事に僕が付き添うみたいな形になっているのが現状だ。
「ねえ、魔法少女がついてきてるけど、いいの?」
「え」
そんな彼女が、開いた助手席のドアから身を乗り出して、少し離れた柱の方へ目を向けた。
魔法少女というと、小春さんか?
グリーマルの視線の先に目をやると、柱の陰から、黒を基調とした衣装の『魔法少女』が姿を現した。
少し色の違う2本のリボンをつけた、可愛らしい魔法少女。
つまり、小春さんだ。
……時間を止めながら僕を追ってきたのか、それとも他に追跡に使える魔法でもあるのか。
とにかく、つけられているような気配はまったくなかった。
念のために3駅も、気配を殺して高速で移動してきたのに……
「……白峰ちゃんの次は、邪界人? お兄さんはいったいなんなのかな」
小春さんが、僕と助手席のグリーマルへと、交互に視線を走らせる。
さっきも白峰さんと僕をそんな風に見ていたけど、今度はさらに目つきが険しい。
「え、あー……彼女は仕事仲間だよ」
「そう。私は彼の仕事仲間だよ、警察の仕事をしてるの」
もちろんこれは嘘じゃない。
色々と説明を端折っているけど、これについてはなにもやましいことはないし……
「……異世界からの侵略者が警察の仕事って、どういう冗談なの?」
「冗談じゃないよ。お金があると便利なんだよ」
なんの話だ。
まぁお金は大事だよね、うん。
小春さんは、まったく納得していない顔をしている。
そりゃそうだろうけど。
「一般的には知られていないけど、そういう制度があるんだよ。彼女は邪界人だけど、別に犯罪行為に加担したわけじゃないし」
「なにそれ……馬鹿みたい。でも、その子中学生ぐらいだよね? 私が戦うのは邪魔するのに、その子はいいの?」
「……そりゃできればそうさせたくはないけどさ、必ず僕が付き添うことにしてるから」
さすが小春さんだ、結構痛いところを突いてくる。
確かに僕だってグリーマルを戦わせたいわけではないのだ。
でもこの子、なに言っても聞かないし……
今のところ、僕が一緒にいて気を付けるぐらいしか、できることがない。
「私は異世界の人間だから、年齢を証明できないんだよ。だから合法だってユイが言ってた」
「ユイって……如月結衣のこと?」
「そうだよ?」
「ふぅん……」
小春さんの目が、少し細くなった。
そう言えば、如月さんと小春さんは会ったことがある。
というか……彼女とピューイさんを引き離したのは如月さんだから、なんかしら思うところがあるのかもしれない。
僕に向けられる警戒心が薄れるような名前では、少なくともなかっただろうな。
「ねえ、そろそろ向かわないと」
グリーマルに言われて、スマホで時刻を確認する。
ああ、もうこんな時間か。芦屋さんとの合流に遅れてしまう。
「あ、そうだね……小春さん、ごめんね。本当にそろそろ行かないと遅れちゃうからさ」
遅刻はいけない。
遅刻は絶対にしてはいけないのだ。
「待ちなさいよ、話は終わってないよ」
「じゃぁ、一緒に行く?」
「え?」
なにを言い出すのか、このお姫様は。
一緒に行けるわけないだろ、これから行くのは悪の組織の巣窟なんだぞ。
「わかった、行く」
「ちょっ……」
「うん、乗って」
そう言うと、グリーマルが助手席から降りて、小春さんの手を引いた。
そのまま後ろのドアを開け、2人で『ゼドラ』の後部座席に乗り込んでしまう。
ちょっと、ほんとに困るんですけど。
法的にどうなんだってこともあるけど、小春さんがいると『魔法少女』に変身できない。
なんだかんだいって僕は魔法をはじめとした、魔力を使った戦い方に慣れているから……『魔法少女』に変身できるのとできないのとでは、対応力に大きな差が出る。
もちろん、ヒーローの姿で戦うことが魔法少女と比べて弱いのかというと、そんなことはない。
さっきだって赤マントを退治したばかりだ。
でも、これから何が出てくるかわからないのに、使える手札が減るのは困る。
「ほら、ヒロシ。遅刻しちゃうよ」
後部座席からグリーマルが急かす。
その隣では、小春さんが睨みつけるようにこちらを見ていた。
「……わかったよ」
ああもう……しょうがない。
遅刻するよりはマシだ。
運転席に座ってドアを閉める。
シートベルトを締め、後ろの2人がシートベルトを締めるのも確かめた。
こういうことはしっかりしないとね。
急にUFOに襲われることだってあるからさ。
「ゼドラ、目的地まで頼む」
僕の命令に従い、『ゼドラ』が静かに走り始めた。
ハンドルがひとりでに回り、車は高架下の日陰から、明るい道路へと出ていく。
どうでもいいけどこれ、運転席に座る意味って別にないよなぁ。




