第百四十七話:坂口小春と怪しいお兄さん
買い物に出かけた先で、怪人を見かけた。
しばらくすると、変なロボットみたいなのが現れて、戦いを始めた。
気配を消して物陰からそれを見ていると、わけわかんないぐらいかっこいい男の人と、白峰ちゃんがやってきた。
男の人は見覚えのある『ヒーロー』に変身して、怪人を塵にした。
ロボットは変身を解除した男の人としばらく話した後、去っていった。
で、白峰ちゃん。
どう見てもあれ、あの人のこと……好きだよね。
いつものちょっと偉そうなところが1ミリも感じられなくて、ちょっと小さくなってはにかんでみせて。
男の人を見上げて、名残惜しそうに手を振って。
「ねえ、白峰ちゃん。その人、知り合いなの?」
物陰から出て声をかけた途端、白峰ちゃんが文字通り『飛び上がる』ように驚いて、固まってしまった。
振っていた手を引っ込めて、私と男の人を交互に見る。
そんなに驚くことなのかな。
もしかして、なにか後ろめたいことでもあるのかな。
「え、あ……えっと……」
白峰ちゃんが言葉に詰まって、『男の人』を見た。
「えっと、これはですね……」
「私は白峰ちゃんに聞いてるんだけど」
男の人が、『聞き覚えのある声』で話すのを遮る。
だって、大人の人と話したら丸め込まれるかもしれないし、どうせなら明らかにキョドっている白峰ちゃんから話を聞いた方がいいもんね。
「この……方は、警察の方です……わ」
「どうして警察の人と白峰ちゃんが一緒にいるの?」
「そ、それは……えっと、えっと……赤マント、そう、赤マントですわ!」
急になにかを思い出したみたいな感じで、声が大きくなった。
そんなに大きな声で言わなくても、聞こえるよ。
『赤マント』か……白峰ちゃんが前に言ってたアレだよね。
さっきの怪人は確かに赤いマントを着ていたし。
「白峰さんから通報を受けて、退治しに来たんですよ」
「ふぅん……? 私を追い回す以外にも仕事があるんだね」
「生活がありますからね」
白峰ちゃんは何度も頷きながら、お兄さんの説明に同意している。
どう見たって、『それ』だけじゃないと思うんだけど。
でも、なんとも言えないなぁ。
白峰ちゃんって惚れっぽいところがあるし、『ヒーロー』の中身のお兄さんがこんな感じだったなら、すぐに好きになっちゃってもしょうがないのかな。
でも……さ。
白峰ちゃんはさ、ひよりちゃんのことが好きだったはずだよね。
『あの子』がいなくなって、そんなにすぐに他の人を好きになれるものかな?
絶対無理だと思うんだけど。
だって、あの子の笑顔が、今も私の心に焼き付いている。
白峰ちゃんだって、絶対同じはずだよ。
そんなの絶対、おかしいよ。
「わ、わたくしは用事がありますので、これで失礼しますわ」
「あ、僕も次の現場があるので、そろそろ行かないと……」
「へぇー、2人とも忙しいんだね」
白々しい。
なにか隠したいって顔に書いてあるんだよね、2人とも。
そんな風に話を打ち切ったら、余計に怪しいって思わないのかな。
「はいはい、行けばいいよ。どうせ私には秘密なんだよね?」
「秘密だなんて、そんな……ねぇ?」
「そ、そうですわ。秘密なんてありませんわ!」
顔を見合わせながら、そんなことを言う。
仲良しなんだねぇ?
白峰ちゃんはもう一度手を振ると、白峰ちゃんの『お屋敷』のある方へ歩いていった。
お兄さんも、白峰ちゃんとは別の方向へと歩き出す。
私はその場に立ったまま、2人を見送る。
さて、追いかけますか。
『次の現場』だかなんだか知らないけど、こっちばっかり色々知られてるのは、不公平だもんね。
白峰ちゃんが角を曲がったのを確かめてから念のため、建物の陰に入る。
「マジカル・チェンジ」
白峰ちゃんの前で魔法少女に変身するわけにはいかないからね。
周囲に人がいないのは、多分お兄さんの能力か、機械か……そんなところだと思う。
あの2人が来てから違和感みたいなものが広がって、急に人がいなくなったから。
前から思ってたけど、あのお兄さんはちょっと抜けたところがある。
切り忘れてるよね、これ。
お兄さんが歩いていった方へ目を向ける。
姿が見えなくなっても、違和感がどこへ動いているかはわかる。
定期的に時間を止めながらこの違和感を追いかければ――簡単に、ね。




