第十四話:宇宙警察 朝霧流②
タイトルを変更しましたが、引き続きなるべく毎日更新して行く予定です。
よろしくお願いします。
路地をふさぐ氷を砕き、前に出る。
驚いたことに氷は鉄よりも硬く、想定以上に時間がかかってしまった。
それが二枚。このような物質を作り出せるあの少女は何者なのだろうか。
すでにその場に被疑者と少女はいないが、聴覚センサーに意識を集中すると、遠くからガラガラと車輪の回る音がする。
逃走する際に聞こえた音と照合し、同一のものであると判断。直ちに追跡に向かう。
路地を抜け、少し開けた場所に出る。相変わらず人影は無い。
マジカル・フィールドといったか。恐らく人が入ってこないか、退去したくなるような精神干渉系の効果があるのだろう。
本人が動き回った時どうなるのか少し気になるが、その場合はフィールドも移動するのだろうか?……だめだ、考えても仕方ないことに思考が引っ張られている。首を振って思考をリセットする。
いずれにせよ、あの氷を出したのがあの少女であるらしき以上、ここからも障害として立ちふさがるだろう。
宇宙警察の権限は宇宙犯罪者の逮捕・抹消のみに限られ、宇宙連合に所属していない現地知的生命体に対してはどのような執行権も持たない。
いっそ積極的に生命を脅かすレベルの攻撃をしてきてくれれば、正当防衛として反撃することもできるのだが、あの程度の進路妨害では法的に認められないだろう。
もし認められたとしても、だからといって年端も行かない少女に強引な真似をするのは、気が進むものではないが。
気が重いが、ここで凶悪犯を逃すわけにはいかない。
力づくでペプラモトだけを捕縛するか、うまく少女を説得するしかないだろう。
そう思いながら、ヴァイゼンは夜の街を駆ける。
追ううちに、車輪の音が聞こえなくなった。
眼前には公園があり、そこに人間大の生命反応が二つ。自分を待ち構えているのかもしれない。
警戒を強めながら公園に脚を踏み入れる。
その瞬間、周囲の気温が急激に下がる。
スーツのディスプレイにアラートが明滅した。最終的に表示された数字は摂氏マイナス270度――絶対零度に近い。
『警告:外部気温マイナス270度。生命維持装置、最大出力で固定します』
だが、絶対零度というのはほぼ宇宙空間と同様の温度だ。
凍り付いた周囲の大気が鬱陶しいが、宇宙での活動が可能なこのスーツが行動不能になることは無い。
まとわりつく氷を振り払い、歩みを進める。被疑者は見当たらない。
直後、鋭い風切り音と共に氷の槍が飛来し、胸部に叩きつけられる。衝撃で少し後ろに下がることになったが、装甲を貫通したりはしない。
続いて巨大な氷の竜巻に巻き込まれる。だが、これも力任せに腕を振るえば竜巻は霧散する。
視界が晴れた正面。そこに立つのは、青い髪の少女。
彼女は何かを思案するような冷めた表情で、こちらを見ている。
「君が庇っているのは凶悪な宇宙犯罪者だ。抵抗はやめ、被疑者を引き渡してください」
「おじさんは犯罪者ってこと?お兄さんはそれを追ってるんだね」
「そうです。私は宇宙警察……コードネーム『ヴァイゼン』。凶悪な宇宙犯罪者を取り締まり、この星を守る者です」
「ふうん……宇宙から来た人なんだ?だから冷気が通用しないんだね、そっか」
少女はまるで作業手順を確認するようなトーンで呟いた。
「マジカル・フローズンフォグ」
少女のよく通る声。たちまち周囲が濃密な霧に包まれ、少女の姿がおぼろげになる。
「マジカル・フローズンビジョン」
さらに……霧の中にいくつもの少女の姿が現れる。
目くらましか。スーツの対生物センサーを展開すれば、簡単に見破れるだろう。
……しかし、センサーにはありえない数値が表示されている。
『生体反応:32』
「なに……!?」
最新鋭のセンサーが役に立たない。理解不能の状況だ。
幻影を打ち払おうと攻撃を加えるが、一瞬霧散してもすぐに同じ姿に戻ってしまう。
「愛しき無垢なる妹たちよ!我が心、我が祈りを与え、その命を呼び覚まさん!マジカル・アイスサーヴァント!」
先ほどまでとは異なり、少女は高らかに、歌うように言葉を紡ぐ。
――その瞬間、少女の姿がさらに増加する。
先ほどまでと異なるのは……それらが幻影ではないことだ。
多数の幻影が漂う中で、同じ姿の――氷の人形が襲い掛かってくる。
「マジカル・アイスバーン」
足元の地面が瞬時に凍り付く。
「しまっ――」
迎撃のために力を込めていた足が滑り、自重を支えきれず無様にしりもちをついてしまう。
衝撃を完全に殺せず、すぐには立ち上がれない。その隙にさらに複数の人形が殺到する。
一撃で致命傷になるような威力ではないが、こうも連打されれば無視できるものでもない。
なんとか起き上がり、一体の人形に狙いを定めて拳をふるう。
先ほどの壁よりもさらに硬い……何度も打ち付けて粉砕するが、人形はみるみるうちに修復され、攻撃が再開される。
その間も間断なく氷の槍や刃が四方八方から飛来し、確実にダメージが蓄積していく。
恐ろしい連携だ……とても子供の戦い方だとは思えない。
「宇宙犯罪者をこれ以上庇えば、君も罪に問われる可能性がある!直ちに攻撃をやめてください!」
これ以上は本気を出す必要がある。その前に最後の警告を口にする。
「あの男に君が庇う価値など無い!君は利用されているだけだ!」
「お兄さんは強いけど、戦い慣れてないのかな?」
「……何の話だ!」
「価値があるとかどうとか、そういうことじゃなくてさ……」
少女の声音は静かだったが、有無を言わせないような響きがあった。
確かに、この星で捕縛した宇宙犯罪者の数は片手で足りる。
それもあっというまに勝負はついた。こんな激しい実戦の経験など、あるわけがなかった。
だが、それがなんだと言うのか。
「……お兄さんに教えておいてあげる。この世界では『恩知らず』が真っ先に死ぬんだよ」
「だから……命を助けられたなら、命を使って助ける。覚えておいた方がいいよ?」
『恩知らず』だと……?
俺が日向さんから受けた恩がどれほどのものか、知りもしないくせに……!
それを奪った犯罪者を庇いながら……何も知らない子供が、知ったようなことを……!
猛烈な怒りが噴出する。
「はああああああああっ!」
レーザーソードを引き抜くと、気合と共に最大出力を込める。
高熱の刀身がまばゆくきらめき、迫り来る人形の一体を袈裟懸けに切り裂き、完全に蒸発させた。
再生する暇も与えない圧倒的な火力。
「これなら……!」
活路を見出し、怒りに任せて周囲の幻影を一掃しようと踏み込んだ、その瞬間。
「冷気は通用しないけど、物理的な衝撃には無敵ってわけじゃない……そうだよね、お兄さん」
背後で、少女の声が冷たく響く。
「マジカル・アイスバーン」
その言葉に振り向こうとした瞬間、再度足元が滑り……体勢を崩される。
無防備になったその瞬間――凄まじい勢いで上空から飛来した『何か』が背中に直撃した。




