第百三十六話:魔法少女 坂口小春VS聖魔界人 プーモ
「なっ、なに!?」
立ち上がった『影』が、3人の魔法少女たちに蛇のように絡みつき、速やかにその『口』をふさぐ。
必死で振りほどこうともがいてるけど、『マジカル・シャドウサーバント』の魔法は、『少女』が腕力で振りほどけるような甘いものじゃない。
私の扱う氷の魔法への対策はしてきたみたいだけど、びっくりさせちゃったかな。
さて、殺気すら隠せない未熟な『魔法少女』が、詠唱なしで魔法を操るのは難しいんじゃない?
つまり、もうなにもできないってこと。
とどめを刺すのは簡単だ――でも、あのお兄さんがなんて言うかな。
あんな人の言うことなんてどうだっていいんだけど。
どうだっていいんだけどね。
「無力化をお願い」
『影』が3人の口から体内に入り込み、全身に浸透していく。
『それ』が完了するまで――約10秒。
じたばたもがいてちょっと苦しそうだけど、大丈夫だよ。
浸透してしまえば、もうなにも感じないから。
「な、なんでコハルが『闇』の魔法を……?」
「さぁ、なんでだろうね。自分で考えなよ、聖魔界人は魔法の専門家なんでしょ?」
『魔法少女』への変身というのは、魔術的なアセンションだと、前にピューイが言っていた。
『アセンション』って言葉の意味がわからなかったから、ネットで調べてみたんだけど……やっぱりよくわからなかった。
だから私なりに、自分に起きていることを解釈してみた。
私には『変身』前からすでに魔力があるけれど、それを『魔法』として扱うことができない。
ということは、『アセンション』とは、『魔力』に指向性を与えることのできる高次元存在に進化することだと、私は結論付けた。
なら、『指向性』の向きを変化させれば?
結果は、これだ。
黒を基調とした、ヒラヒラの服。
ほとんど光を反射しない、ジェットブラックの宝石があしらわれたステッキ。
髪の色も黒に近い紫になって、ひよりちゃんによく似ているのが、少し嬉しい。
「聖魔界人はこの世界の人間じゃないし、私を殺しに来てるんだから……手加減する必要ないよね」
「ハッ、手加減?」
茶色い毛玉が鼻で笑う。
どこに鼻があるのか、わかんないけど。
「最下層民のピューイと同じだと思ってもらっちゃ困るプモ。プーモはエリートだから、魔法少女なんか敵じゃないプモ」
「ふうん。ならますます、遠慮しなくていいね」
そんなことを言いながら、『マジカル・シャドウランス』の『魔法』を発動させる。
空中に3本、『影』の槍が現れ、毛玉に狙いをつけた。
そして――発射。
音もなく虚空を切り裂いた影の槍が命中する直前。
上空から落下してきた『なにか』が、地響きを立てて立ちふさがった。
『影』の槍が『それ』に阻まれ、霧散する。
立ちふさがっているのは、全身が鎧に覆われた『巨人』。
5メートル近くある巨体が、赤い単眼を光らせて、私を見下ろしていた。
「……なに?」
「さぁ、聖魔守護神ワーチャムよ! 思い知らせてやるプモ!」
へぇ……『聖魔守護神』ね。
そんなのがあるんだ?
茶色い毛玉の勝ち誇った口ぶりを考えるに、さっきの『魔法少女』たちよりも強いんだろうね。
「マジカル・シャドウボール」
『魔法の言葉』に応え、空中に2つの真っ黒な球体が現れる。
これは『闇』の力を純粋な『破壊』に転化したもので、触れる物すべてを破砕しながら突き進む。
なのに――『球』が鎧に触れた瞬間、さっきの槍と同じように、霧散した。
「バカな奴だプモ! 聖魔守護神ワーチャムに、攻撃魔法は通用しないプモ! そのまますりつぶされて死ぬがいいプモ!」
「ふふっ」
わざわざ切り札を説明してくれるなんて、親切だなぁ。
命を賭けて戦ったことがない『エリート』らしくて、思わずちょっと笑ってしまった。
「なに笑ってるプモ!」
「ごめんごめん。バカだなぁって思っただけだよ」
「なっ! プーモをバカにするんじゃないプモ!」
『聖魔守護神』が、不快な金属音をあげながら、ゆっくりとこちらへ向かって歩み寄ってくる。
ゆっくりといっても……歩幅が大きいからゆっくりに見えるだけで、結構な速度なんだけど。
そっかぁ、『攻撃魔法』は通用しないんだね。
なら――
「星なき夜に。声なき静寂に。隔て、閉ざし、永劫を刻む秒針を虚空へと。刹那の瞬きよ、永遠の孤独となれ!」
「マジカル・タイムストップ!」
『これ』は、『闇』の最上級魔法。
次の瞬間――『聖魔守護神』は、跡形もなく虚空に散った。
「な、なにが……ワーチャムはどこに行ったプモ!?」
バカだなぁ、わざわざ説明するわけないじゃない。
でも、混乱してくれてるのは助かるね。
そのまま死んでもらおう。
「小春さん! なにやってるんですか!」
はぁ……来ちゃった。
さっき、『怪人』を連れてどこかに消えていったメタリックブルーの『ヒーロー』が、私とプーモの間に割って入っていた。
「見ての通りだよ。襲ってきた『魔法少女』と、『児童福祉法違反』の犯罪者を迎え撃ってたんだけど、それがどうかしたの?」
「……今、殺そうとしてましたよね」
「それのなにが悪いの?」
「悪いに決まってるじゃないですか!」
「なにが悪いのよ! こいつらはひよりちゃんを殺すつもりなんだよ!?」
「え……」
感情が、爆発してしまった。
ひよりちゃんの名前を出しちゃうなんて。
この人の前では、やっぱり調子が狂う。
本当に鬱陶しいのに、なんだか……ほっとしてしまって――




