第百三十三話:魔法少女 坂口小春と『ヒーロー』
あの子が転校してきた時、ひと目でわかった。
この子が私の『運命』なんだって。
春の光が差し込む教室で。
窓際の席に座ったその子の、黒い、角度によっては紫色にも見える不思議な色合いの髪が、光を受けて輝いていた。
そして――見たことがないぐらい、綺麗な瞳。
その瞳が私を見つめるたびに、心が躍った。
理由なんてわからない。
でも、ずっと前から知っていたような気がして。
いつか、『どこか』へ。
この子の隣を歩いて、たどり着くんだと――そう確信していた。
なのに、いなくなってしまった。
ひよりちゃんと、ともかちゃん。
2人は『転校した』と、先生が言っていた。
でも、そんなの絶対嘘だ。
だって、突然2人が学校に来なくなって、2人ともが転校したなんて――そんな不自然なこと、あるわけない。
私に黙っていなくなるなんて、絶対絶対あるわけない。
私を独りに――するわけないよ。
「佐倉には佐倉の事情があるんだろうよ、しょうがねぇさ」
「詮索するのはよくありませんわ」
玉田くんと白峰ちゃんは、口を揃えてそう言うけれど。
そんなの納得できるわけない。
2人とも、ひよりちゃんのことが好きだったくせに。
どうしてそんな簡単に受け入れられるの?
私は絶対、納得しない。
それから――
私は連日、夜の街へと繰り出していた。
「この2人を、見たことない?」
人気のない、高架沿いの道路脇。
街灯の白い光が、ひび割れたアスファルトを照らしていて、遠くを走る車の音が聞こえた。
誰かが来る前に、用を済ませないと。
半身を氷漬けにされて、動けなくなった怪人にスマホの画面を見せる。
画面に映されているのはもちろん、ひよりちゃんと、ともかちゃん。
この怪人は頭とお腹の両方に顔があって、どちらが本物の顔なんだろうと思っていたけど、4つの目がスマホを見ているから、どっちもちゃんと機能してるみたいだ。
そんなのどうでもいいけど。
「し、知らない」
声を出したのは、お腹の方だ。
嘘をついているような気配はない。
――それならもう、用はない。
「マジカル・アイスランス」
冷気が集まり、私の前に1本の氷の槍が生まれる。
これは初歩の初歩の魔法だけれど、私が最も信頼する攻撃手段でもある。
厳しい戦いの中で鍛え上げ、練り上げた魔法の槍。
街灯の光を浴びて輝くと、一直線に怪人へと迫った。
それは音よりも疾く、総てを貫く。
なのに――とどめに放った『最強の矛』は、次の瞬間、紅の光に阻まれて霧散した。
甲高い悲鳴を上げて。
「またお兄さんなの?」
「ああ、また僕だ」
うんざりしながら声を上げた私と怪人の間に、青いメタリックなアーマーを付けた『ヒーロー』が立っていた。
この変な人は、最近やけに付きまとってきて、あれこれと邪魔をしてくる。
最初に会ってから、もうかれこれ4度目か、5度目か……とにかく鬱陶しい。
「監視してるのかな、私のこと」
「まぁね。子供だけで危ないことはさせられないからさ」
「ふうん……」
「そいつは改造人間だからね、殺すと殺人になる。あとは警察に任せて帰りなさい」
その言葉を聞いて、黙っていられなくなった。
だって――
「警察? 警察がなにしてくれるって言うの?」
「……市民の安全を守るのが警察の仕事だよ」
「うるさい! 邪魔しないでって言ってるの!」
本当に腹が立つ。
『警察』の言うことを素直に聞いて、大人しくしていたんだよ私は。
大人に任せた方がいいって。
私が勝手なことをしない方がいいって。
だから言われた通りにしていた。
そしたら――ひよりちゃんも、ともかちゃんもいなくなった。
引っ越しなんて絶対嘘だ。
絶対『なにか』が起きたんだ。
だから、もう誰も頼らない。
誰かがなんとかしてくれるなんて思わない。
絶対絶対見つけてみせる。
ひよりちゃんも、ともかちゃんも。
他のみんなも守ってみせる。
だから私が、悪い奴らは倒さなきゃ。
「するよ、邪魔は。君を犯罪者にするわけにはいかないからね」
「私に勝てると思ってるの? いつも最後は逃げるくせに」
「そうだね。戦いは僕より、こ……君の方がうまいから、勝てないと思う」
……こ?
なんだったんだろう。
でも、どうでもいい。
「ならいい加減――どいて!」
話している間に展開していた魔法術式を解放する。
『ヒーロー』の周囲。
頭上、背後、左右。
暗闇の中に、次々と冷気が集まり、氷の槍を形作る。
詠唱も『魔法の言葉』も、魔力を操るための道具にすぎない。
私ぐらいになれば、そんなものがなくても『魔法』を発動することができるのだ。
いつもわざわざ『魔法の言葉』を口にしているのは、こういう時のためのカモフラージュも兼ねている。
さあ、逃げ場はどこにもないよ。
いつもみたいに逃げられる?
私の意志に従い、『ヒーロー』に向かって――24本の氷の槍が殺到した。




