第百三十二話:日向浩と最愛の友達
月曜日。
「見つけたぞ、『孤独』のソリタス!」
グリーマルが、邪魔力をしばらくためたいということで、『仕事』を休んでいる。
その結果現れたのが――こいつだ。
場所は以前と同じ。
都心から少し離れた、整えられた住宅街。
レンガ調のタイルが敷き詰められた広い歩道に街路樹が並び、駅前の方には大きな商業施設らしい建物も見える。
前回と違うのは、周囲に完全に人がいないことだ。
最近手に入れた宇宙の道具で、『結界』や『マジカル・フィールド』のような効果を発生させている。
まぁ、割と遅い時間で、陽が完全に落ちているからってのもあるんだろうけども。
「あ、え……? 誰ですか……?」
ソリタスはグリーマルほど魔力の感知能力が高いわけではないのだろう。
どうやら僕のことがわからないようだ。
ま、どっちでもいいけど。
「『孤独』のソリタス。お前には2つの罪がある」
「急になんなんですかぁ……ボクがなにしたって言うんですかぁ……」
「まず1つ目は、陰湿な方法で邪魔力を集めている罪!」
「そして2つ目は、上司の娘の写真を勝手に使い、SNSで自己顕示欲を満たしている罪だ!」
「な、なんでそれを!?」
「問答無用! SNSアカウントを削除させてもらうぞ! 変身!」
僕の身体を光が包む。
そして、次々とアーマーが装着され――変身完了。
特にヒーロー的なコードネームとかはないんだけどね。
「そ、そんなー!」
ソリタスが生み出した邪界獣は、グリーマルのものよりだいぶ弱い。
今の僕なら、武器を使うまでもなくワンパンだ。
「さぁ、スマホを出すんだな。痛い思いをしたくはないだろう?」
「いやですよ! なんでアカウント消されないといけないんですかー!」
「うるせぇ! 自分の胸に手をあてて考えてみろ!」
――殺気だ。
「マジカル・アイスランス!」
『聞き覚えのある声』
聞き間違えるわけがない。
大切な友達の――声。
直後、凄まじい魔力をまとった氷の槍が、ソリタスに向かって飛来する。
まずい、あれじゃ即死だ。
「スターゲイザー!」
間に割って入り、氷の槍を切り払う。
紅の刃が一閃し――鉄よりも硬い氷の槍が、甲高い音を上げて消失した。
「宇宙警察の人が、どうして邪界人を庇うのかな?」
――やっぱり。
暗闇の中から歩いてきたのは、小春さんだ。
『魔法少女』の姿をして、髪には2本のリボン。
片方は僕がプレゼントしたもの。
そしてもう片方は、まるで蒼穹を編み込んだような――見覚えのあるリボンだ。
少しだけ色の違う2本のリボンで、青い髪をいわゆるハーフツインテールみたいな感じでまとめている。
思っていた通り、彼女にあのリボンはこれ以上ないぐらいに似合っていて……率直に言うと猛烈に可愛い。
そんな彼女が、僕を――これまで僕に向けたことのない目で見ている。
猜疑心と、敵意。
彼女の目には、それだけが。
「邪界人だって、一応異界のとはいえ人間だからね。無闇に殺させるわけにはいかないよ」
「警察らしい綺麗事だね。でも、私には関係ないから――どいてくれる?」
小春さんのお願いなら、なんだって――喜んで聞いてあげたい。
でも、だめだ。
彼女を人殺しになんて、できるものか。
「断る」
「あっそう」
小春さんが、1歩下がった。
そして――凄まじい魔力が収束していく。
それが、肌で感じられるのだ。
空気が震え、凍り付く。
まだ魔法を使っていないのに。
『最強の魔法少女』だったか……でも、まさかこれほどとは。
朝霧には悪いけど、どう考えたって朝霧に勝ち目なんてない。
以前より成長しているということなのか?
「愛しき無垢なる妹たちよ。我が心、我が祈りを与え、その命を呼び覚まさん。マジカル・アイスサーヴァント!」
周囲を冷気が覆い、いくつもの氷の彫像――小春さんそっくりの彫像が立ち上がり、動き始める。
その数、8体。
まずいぞ、こっちは『魔法少女』に変身するわけにはいかない。
慣れない『ヒーロー』の技だけで、ソリタスを守り切れるか?
なんでこんな奴を守らないといけないんだ、くっそ。
……とにかく、数を減らさないと。
「マジカル・フローズンフォグ」
「マジカル・フローズンビジョン」
とか思ってると、増えた。
周囲が白い霧に包まれ、街路樹も、少し先の建物も一瞬で見えなくなる。
その中に、無数の小春さんが現れた。
なんだそれ、幻影?
どれが本物で、どれが氷像で、どれが幻なのか。
魔力を探ろうにも、冷たい魔力が空間全体に満ちていて判別できない。
……こりゃぁ無理だ、逃げよう。
隣に立ってるソリタスの襟首を掴み、『空』を蹴る。
一旦上空に逃れて……
「うわぁっ!?」
嘘だろ、すでに上空に分身が配置されている。
なんでこっちの動きがわかるんだよ。
氷像が手にした氷の槍が迫り――
「スターゲイザー!」
身体をひねって分身からの攻撃をかわし、一閃。
小春さんの形をした氷像を傷つけるというのは心が痛むが……消滅させて対処。
「ゼドラ、来い!」
そう呼びながら、さらに上空へ。
次の瞬間、飛行形態に変形した『ゼドラ』が僕とソリタスを拾い上げる。
『ゼドラ』は、宇宙警察隊が勲章と一緒に僕にくれた、変形機能付きの車だ。
朝霧の車と同型らしいけど、色が赤い。
特に3倍の速度で動くとかではないけど、呼べば来るのが本当に便利だ。
……そうする間にも、氷の竜巻がこっちに向かってきていた。
以前に――最初会った時に見たのとは比べ物にならない規模の。
周囲すべてを覆うかのような氷雪の渦が、うなりをあげながら迫ってくる。
……こんなのが直撃したら、ビルだって無事じゃすまないぞ。
「ゼドラ、高速巡行モードで、とにかく逃げてくれ」
「リョウカイデス」
次の瞬間、身体が座席に押しつけられた。
『ゼドラ』の最高速度はマッハ5だ。
いくら小春さんがでたらめな強さでも、追いつけるわけがない。
視界の中で、街の明かりも、モノレールの駅も。
すべてが一瞬にして遠ざかっていく。
僕は――最愛の友達から、逃げ出した。
音を置き去りにして。




