第百三十話:勇者『日向咲』VS人類最強パーティ
深い森の中。
凄まじい竜巻が、周囲の木々を粉砕しながら押し寄せてくる。
風属性っぽい魔剣を持っていた剣士の攻撃かな、多分。
巻き込まれてもどうってことはないんだろうけど、これを目くらましにして展開されている、よくわからない術式が気になるんだよね。
敵は3人。
風の魔剣を持った剛剣士と、めっちゃイケメンの魔法剣士。
それと、最後まで戦いに反対していた黒髪の聖女様。
殺さないように戦わないといけないっていうのは、あんまり得意じゃないんだけどなぁ。
「ラルクス」
『最強の剣』に呼びかけたけど、返事がない。
いつもはうるさいくせに、この戦いにはどうしても反対らしい。
別に私が望んだ戦いってわけでもないんだけどね。
ほんと、やな奴。
仕方ないから、そのへんに落ちている木の枝を拾って――振る。
枝はそれだけで砕けてしまったけど、発生した衝撃波が竜巻を霧散させた。
次は謎の術式。
うん、これは体系だった魔法じゃないね。多分オリジナル。
この世界の魔法の理を解析して、独自の魔法を作り出すほどの大魔法使い。しかも見た感じ魔法剣士って感じだったから、すごいよね。
でも、解析だけなら私もできる。
見た感じ、麻痺と心神喪失の状態異常を仕込んだ不可視の刃ってところかな。
うーん、私に状態異常が通用しないことぐらい、わかってるよね?
なのにこれってことは、なにか魂胆があるはず。
……やっぱりだ。耐性貫通の遺失魔法に近いものが隠してある。
「よっと」
まぁ、意味ないんだけど。
折れた枝を無造作に振り、ちくちくしそうな刃を粉砕して、術式を振り払う。
あれ、驚いたのかな?
フリーズしちゃってる。
あんな美形がそういう顔をすると、なんかまるで機械みたいだ。
もしかして知らなかったのかな。
こういう『問答無用』の効果っていうのは、成功率が『レベル依存』なんだよ。
私のレベルは『96』で、見た感じ彼らは平均『40』ぐらい。協力して七大将軍の1人を倒したって話だけど、私と戦うにはまだ早い。
続いて、剣士2人の奥にいる聖女様が、なにか手を動かしているのが見えた。
おっ、ちょっと身体が重くなった感じ。
やるじゃん。
さらにその直後、遠くで『パン』と破裂音が響き、肩になにかが当たった。
うーん、痛くもかゆくもないんだけどさ。
もう1人隠れていて、銃撃してきたってことかな、これは。
ただでさえ1対3なのに、伏兵までって……徹底してるなぁ。
そう考えているうちにも、聖女様と魔法剣士があれこれと術式を展開している。
いわゆるバフだね。剛剣士と魔法剣士から感じる圧が、あからさまに強くなった。
バフとデバフで彼我の戦力差を埋めて、銃撃による援護射撃と聖女の加護の合わせ技で一本勝ち狙いってところかな。
なるほど彼らは文字通り、『人類最強のパーティ』だ。
――ナメられたもんだね。
「マジカル・チェンジ」
光がはじけ、私の姿が10歳前後の『魔法少女』の姿に変わる。
あ、びっくりした? 手が止まってるよ。
「エレメンタル・トランスファー」
これは上級職『魔界剣士』で覚えた属性変更魔法。
これを使うとどうなるかって言うと――
眩い光とともに、私の衣装の色が青く変化する。
つまり、『氷属性の魔法少女』の出来上がりってわけ。
驚きを隠せない様子のまま、剛剣士がこちらに向かって走り出した。
でも、動きに迷いが見える。
そりゃそうだよね、今の私は10歳かそこらの子供にしか見えないんだから。
「マジカル・アイスランス」
氷の槍を作り出して相手を貫く魔法だけど、ちょうど武器がないから、今回は普通に槍として使わせてもらおう。
なにしろ魔法の氷は鉄より硬いから。
風を纏った剛剣を正面から受けるのは、『魔法少女』の状態ではさすがに不利だ。
どれだけレベルを上げても、『魔法少女』の力は『3』で固定だから。
なので――受け流す。
バフの効果もあってすごいパワーだけど、剣筋が真っ直ぐすぎるよ、お兄さん。
「穢れ無き流水、形無き水煙。集い、併さり、鏡となれ」
詠唱しながら切り結ぶ。
おっと、魔法剣士もこっちに向かってくるみたい。
でも、遅いよ。
「真実を映し、あまねく偽りを打ち払え。マジカル・トゥルーミラー」
次の瞬間、冷気を伴う一陣の風が吹き荒れ――周囲を覆っていた魔法の力が、消えた。
私の動きを鈍くするデバフも、剣士たちを強化していたバフも。さっきから攻撃の機会を伺っていた人工精霊たちも。
そして、私自身の『魔法少女』への変身も解除されて、元の姿――17歳の『勇者』に。
「このへんでやめにしない? やっぱりあなたたちじゃ私に勝てないと思うよ」
「……そういうわけにはいきません。なんとしても、共に戦っていただかなければ」
「はぁ……そう。めんどくさいなぁ」
ほんとうにめんどくさい。
この剛剣士とは絶対仲良くなれないと思うんだよね、なんか融通が効かない感じがさぁ。
なんでもこの3人……いや、4人か。
この人たちは、私を魔王討伐のパーティに参加させたいらしい。
私としてはそんなのまっぴらだから断ったんだけど、『私の方が強いから必要ない』って話が、いつの間にか『私を倒せばいい』って話になっていて――こうなったってわけ。
しょうがない。ちょっと腹も立ってるし、やっつけるか。
だってさ、4対1ってやっぱりずるい。
私はいつも正々堂々、1人で戦ってるのにだよ?
「マジカル・チェンジ」
再度変身し、少しだけ距離を取る。
バフデバフが解除された今、普通に正面から戦っても負けはしない。
でも、どうせなら完全に納得してもらった方が、後腐れなくていいよね。
「愛しき無垢なる妹たちよ。我が心、我が祈りを与え、その命を呼び覚まさん」
詠唱する私に、剣士が2人がかりで追いすがる。
でも、うなる剛剣も正確無比な斬撃も、私を捉えられるわけがない。
「マジカル・アイスサーヴァント」
周囲が冷気に包まれ、氷の彫像が次々と立ち上がる。
その数は10体。
いずれもレベルは『77』で、私の8割程度――要するに『魔王軍七大将軍』よりもちょっと強いぐらいってことになる。
さて、勝てるかな?
「殺さない程度にね」
私の指示に従い、分身の1体が剛剣士を殴り飛ばす。
さらに2体が魔法剣士を包囲し、蹴り飛ばした。
お、聖女のバフで2人の動きが格段に良くなったね。
でもまぁ……時間の問題だ。
残りの7体も、それぞれに動き始める。
5体は剣士2人への攻撃。2体は銃撃してきた相手の捜索。
うーん、さすがに一方的すぎかな。
分身はいくらでも増やせるんだけど、あんまり数が多いとうっかり殺しちゃうかもしれないし。
「いつでも降参していいからねー」
そんなことを言いながら見物していると、なんか様子がおかしい。
剣士たちが徐々に後退して、聖女様の近くに移動しているんだけど――なんか攻撃が届いてないなぁ。
壁みたいなのに阻まれて、進めないみたい。
逆に壁の内側からの攻撃は素通しで、竜巻だとか炎だとかが分身たちを襲っている。
聖女様の作り出す絶対障壁ってやつかな。
ずっるいなぁ。
そんな程度で分身は壊れたりしないけどさ。
『マジカル・トゥルーミラー』ならそれも解除できるんだろうけど……分身も消えるし、仕切り直しで似たようなことになるだけだ。
……多分、その気になれば障壁ごと粉砕することは可能だと思う。
でも、そうするとさすがに中の人は無事じゃすまないよね。
「はぁ……しょうがないか」
右手を前へ差し出す。
「おいで、『切り拓く物』」
呼びかけに応え、『神器』が私の手中に現れる。
幻想的に、まるで銀河を閉じ込めたように輝く刀身は、文字通り――『総てを切り裂く』。
最硬の金属。
最硬の宝石。
究極の防御魔法。
あまねく世界、その総てを。
そして、時空さえ。
運命の、糸ですら――




