第百二十六話:月城澪と、眠れる魔法少女
愛しい人が、私の胸の中で寝息を立てている。
鬱陶しい悪魔が部屋の外に立っているのが気になるけれど、彼女だって心配なのだろうから、許してあげる。
日向浩さん。
私の愛しい人。
私の命よりも大切な人。
その彼の――大切な友達を、私は殺した。
『分解』の魔術で、跡形もなく消滅させた。
またひとつ彼は大切なものを失って、涙を流した。
それなのに、彼は私を責めない。
そんな素振りさえ、見せなかった。
憎んでくれて、よかったのに。
私を憎んでくれれば、よかったのに。
全部私のせいにして、罵ってくれればよかったのに。
なのに、彼は――なにもかも自分で、背負ってしまう。
彼を、守らなければならない。
この世界の、全ての理不尽から。
彼の身を、心を。
私の持てる力のすべてをもって、守り抜かなければならない。
そして、咲を――彼のもとに帰さなければ。
それが私の、生きる意味。
『あの日』私が感じたように、この世界は咲のための世界だ。
でも、咲は『ここ』にいない。
隣の部屋で、眠り続けている。
そのツケを支払うように――
私の胸で泣き疲れて眠るこの愛しい人が、傷つき続けている。
許さない。
それが運命だと言うのなら、それを定めた誰かを。
神だろうと、悪魔だろうと、何者だろうと――この月城澪が許さない。
引きずり倒して、彼の前で謝罪させてやる。
絶対にだ。
小さな身体が、かすかに動いて――涙をすする、かすかな音がした。
夢の中でまで涙を流す、彼の背中をそっとなでる。
どんな夢を見ているのだろう。
悲しい夢だろうか、寂しい夢だろうか。
今すぐそこに駆けつけて、抱きしめられたらいいのに。
愛しい人。
どうしようもないぐらい愛しくて――少しだけ、憎らしい人。
答えなんて、最初からわかっていた。
でも、それでも私は彼を、慰めたかった。
ひと時の欲望をぶつけるだけでいい。
それで悲しみを、少しの間だけでも忘れてほしい。
彼の涙を止められるなら、私はどんなことだって受け入れるのに。
だって、彼がどう思っていようと、私は――私のすべては、彼のものだから。
私を、好きなように使ってほしい。
失い続けてきた彼の心の穴が、ほんの少しでも、埋められるように。
でも、どうか――この想いにだけは、気づかないで。
静かに眠る、愛しい人。
起こしてしまわないように気をつけながら、ゆっくり顔を、近づける。
そして――そっと、触れるだけの口づけをした。




