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異世界転生で奪われた娘を取り戻すために戦う父親は、魔法少女になって娘の親友の銀髪お嬢様に愛される  作者: 古川智明
第一章:魔法少女になってからしばらくの話

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第百二十五話:君の思い出

 蒼いリボンを、右手でずっと握りしめていた。

 左手は、月城さんが握ってくれていた。


 芦屋さんたちがやってきて、倒れたままの原口くんを病院に運んで行った。

 『大丈夫ですよ』って、芦屋さんが言うから、きっともう大丈夫。


「帰りましょうか」


「はい」


 月城さんが、僕の手を引いて歩いてくれた。

 僕は、どっちに歩いていけばいいのか、わからなかったから。


 門を出て、右に曲がる。

 しばらく歩くと坂道に差しかかって、そのままゆっくりと下っていく。


 あの道も、この坂道も。

 いつも一緒に、あの子と歩いた。


 もう少しだけ、一緒に歩きたかったけど。


 駅まで一緒に、歩きたかったけど。


 もう一緒には、歩けない。



 月城さんの家にたどり着くと、グリーマルが駆け寄ってきた。


 僕の右手を握ろうとして――ほんの少しだけ躊躇する。

 握りしめていた蒼いリボンに気づいて、その上からそっと自分の手を重ねた。


 それから月城さんと2人で、僕の部屋まで手を引いてくれた。


 大人の男の姿なのに、僕だってわかるんだ。

 不思議だけど、少しだけありがたいと思った。


 部屋に入って、ひとりになった。


 僕の部屋は、月城さんの手で可愛らしく飾り付けられている。


 ぬいぐるみだとか、フリルのついた枕だとか。

 ここには、『佐倉ひより』のための品々が溢れている。


「マジカル・チェンジ」


 大きくなった僕の身体には、少しベッドが小さいから。

 だから、『魔法少女』に――『佐倉ひより』に変身する。


 この姿なら、ちょうどいいサイズだから。


 ふかふかのベッドに倒れ込んで、枕に顔をうずめた。


 ともかちゃん。


 僕の、大切な友達。


 もう、いない。

 守りたかった人、大切な人。

 戦う理由に、なった人。


 涙が――溢れてきた。

 それはきっと、この身体のせいだ。


 とめどなく涙が零れてくるのは、心まで小学生みたいになってしまっているからだ。


 だって僕は、そんなに弱くないはずだから。

 涙は、あの時あの場所に、置いてきたはずだから。


 だからこれは、この身体のせいで――


 いつの間にか、月城さんがいた。

 ベッドに入ってきて、そのまま僕を胸元へ引き寄せる。


 そして強く――抱きしめられた。


 もう、止まらなかった。


 月城さんの胸にしがみついて、声を上げて泣いた。

 子供みたいに、何度も息を詰まらせながら、泣き続けた。


 月城さんは何も言わなかった。


 僕の背中に手を回して、ただ、頭をなでてくれた。

 いつも僕の手を握ってくれる、細くて綺麗な指で。


 いつか――僕が、ともかちゃんにしてあげたみたいに。


 少しだけ落ち着いた頃、月城さんがともかちゃんの話を聞かせてほしいって言うから、僕はたくさん話した。

 大切な、大切な友達のことを。


 初めて会った日のこと。

 原口くんへのプレゼントに、一緒に根付を買ったこと。

 魚が好きだったこと。

 水族館の飼育員になりたかったこと。

 料理が得意で、僕の好きなものを聞いてくれたこと。

 ゲームが得意だったこと。


 ちょっとしたことですぐ涙ぐんでしまうこと。


 それから――このリボンを、すごくすごく喜んでくれたこと。

 3人でお揃いだって、泣いちゃうぐらいに――喜んでくれたこと。


 夕陽に照らされて、煌めいていた海が――とても、とても綺麗だったこと。


 ひとつ話すたびに、いろんなことを思い出した。

 大切な、君の思い出を。


 また少し、涙が出た。

 そしたら月城さんが、もう一度ぎゅっと僕を抱きしめてくれた。


 ちょっとだけ苦しい。

 でも、離れてほしいとは思わなかった。


 そうしてしばらく、月城さんに抱きしめられていた。

 僕も彼女にしがみついたまま、ずっとそうしていた。


「日向さん」


「……はい」


「もし、あなたがそれで慰められるなら……私の身体を、好きに使っていただいて構いません」


「……なに言ってるんですか」


「抱いてくださいと、言っています」


「冗談は――」


「冗談に、聞こえますか?」


 僕も、そこまで鈍くない。

 月城さんが本気で言っていることくらい、わかる。


 こういう時の月城さんは、なにを言っても引き下がらない。

 だけど――そこまで、自分を犠牲にしてほしいなんて、僕は思っていない。


「だめですよ、そんなの」


「……そうですか」


 それだけ言うと、月城さんは僕をますます強く抱きしめた。


 僕の身体は小さくて、月城さんの力にはかなわない。

 そのぬくもりに包まれて、少しずつまぶたが重くなっていった。


 右手には、蒼いリボンが握られたまま。

 僕はいつの間にか――眠りに落ちていた。

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