第百二十一話:モブなんていない
今更だけど、2次予選は4チームによる総当たり戦だ。
我らが明葉学園小学校サッカー部が次に戦うのは、先ほど鳳華女学院に負けた公立小学校となっている。
「なんか……大丈夫なの?」
「大丈夫。大丈夫だよ……! 卓也、がんばれえええええ! みんな、がんばれええええええ!」
小春さんが困惑するのも無理はない。原口くんたちが、苦戦している。
決勝トーナメントに進むことができるのは、1位のチームのみ。
すでに1敗している相手チームには、後がない。
彼らだって2次予選まで勝ち上がってきた実力者だ。
全国大会への想いも、彼らには彼らなりの『なにか』があるに違いない。
誰もが、『夢』を背負ってここに立っている。
ただのモブなんて、この世のどこにもいない。
だって、あんなにも死に物狂いで、必死に食らいついて――
敵わぬとしても、彼らは最後まで――諦めることはなかった。
試合結果は4対3。
辛勝だ。
最後に決めたのは真田くん。
徹底的にマークされていた原口玉田のコンビから受け取ったパスを、見事ゴールに導いてみせた。
続く試合は、鳳華女学院の圧勝。
試合結果は6対0。
これで、最終試合は全勝同士でぶつかることになる。
それはつまり、事実上の決勝戦。絶対に――負けられないということだ。
「まずいですわね……」
白峰さんの言う通り、かなりまずい状態だ。
さっきの試合での徹底マークによって、体力を削られた原口くんと玉田くんに、疲労の色が見える。
他のメンバーなら、控えのメンバーと交代することもできるけど、2人に限ってはそういうわけにもいかない。
なにしろ、あの少女を止められそうなのは2人だけなのだから、交代するなんて選択肢は、はなからあり得ないのだ。
対する少女はといえば――元気いっぱいだ。
前の試合で苦戦していなかったのもあるだろうけど、基礎体力がそもそも違うのだ。
それに、白峰さんほどじゃなくても、再生能力だってあるはず。
僕にできることは――彼らを信じることだけ。
もどかしいけど、それしかできない。
試合開始を告げる笛が鳴り――最初にゴールを決めたのは、真田くんだった。
応援席からは大きな歓声。
原口玉田のコンビが2人がかりで少女を抑え、他のメンバーを攻撃の主軸にしてうまく攻め込んでいる。
明葉学園小学校サッカー部は、名門だ。
大会でレギュラー入りしている選手なら、誰もが平均的なチームであればエースになれる実力を持っている。
あの少女1人が突出したチームが相手なら、2対3の戦いでも遅れは取らない。
でも……これは、悪手だ。
2人がかりで少女の体力を削る作戦。本来ならこれは恐らく正しい。
玉田くんが選択するぐらいだから、正しいに決まっているのだ。
だけど――彼女はただの人間じゃない。
どれだけ走っても、疲れない。
どれだけプレッシャーを与えても、ミスをしない。
体力の削り合いになれば――どうしたって敵わない。
敵うわけが、ない。
原口くんは、まだ踏ん張っている。
玉田くんも相手の動きを読み、進行方向へ先回りするように足を踏み出す。
でも――ほんの少しだけ、疲労の影響で出遅れた玉田くんが――抜かれた。
そして、金髪の少女が一気にゴールへ迫り――ゴールネットを大きく揺らす。
これで、1対1。
そこからは、一方的だった。
成瀬さんと小春さんの応援の声が、遠く聞こえる。
白峰さんが僕の手を強く握って、祈るように玉田くんを応援している。
だけど――
最終結果は、1対4。
完敗だった。
「2人とも、ごめん……私がもっと、スタミナ面でも、特訓を……」
「なーんで謝るかね、この子は」
玉田くんが呆れたように、でも少しだけ優しく、笑う。
「俺たちはお前を頼った。お前は最大限応えてくれた。それで負けて、なんでお前のせいなんだよ」
「そうだよ、佐倉。本当に感謝してる。ありがとう」
2人はそう言うけれど、どう考えても僕の失策だ。
玉田くんが合流してからの特訓では、技術面での練習ばかりを優先していた。
でも大会は、何度も試合を繰り返すのだ。その点を完全に失念していた。
技術さえ伸ばせば、苦戦するような相手がいるわけがないと、タカをくくっていたからだ。
僕の浅い考えが招いた、必然的な敗北だ。
「ひよりちゃんは……なにも悪くないよぉ……」
涙でべしょべしょになりながら、成瀬さんが僕を慰めてくれて、少しだけ――救われた気持ちになった。
こんなに泣きながら、悔しがりながら、それでも僕のことを思いやってくれる。
そんな子なのだ。
「そうですわ。それに、次はサッカーの全国大会だってあるのですから、落ち込んでいる暇なんてありませんわ」
「だよね。次はひよりちゃんも出られるんでしょ?」
「う、うん……多分」
サッカーの全国大会は、秋から冬にかけて行われる。
僕がそれまで『ここ』にいるかどうか、正直わからない。
それに、『僕』が小学生に混じって全国大会制覇を目指すというのは、なるべくは避けたい。
だって、子供たちの夢を――僕みたいなわけのわからない大人が踏みにじるべきではないと思うから。
『終わり』は、いつか来る。
それはどうしたって、避けようのないことなのだけど。
寂しいな、なんて――僕は。




