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異世界転生で奪われた娘を取り戻すために戦う父親は、魔法少女になって娘の親友の銀髪お嬢様に愛される  作者: 古川智明
第一章:魔法少女になってからしばらくの話

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第百十七話:坊主頭の彼

 木曜日の朝。


「うがー、勝てねぇー!」


「2人がかりでこれだもんなぁ……」


 今日は、2次予選に向けた最後の追い込みだ。

 明日と明後日はなるべく身体を休めて、ベストコンディションで試合に挑むことになる。


 見た感じ、2人ともなかなかの仕上がりと言っていいだろう。


「でもすごいよ。たった数日で見違えるほどよくなった」


「そうですね。素晴らしいですわ」


 ほら、月城さんもこう言ってる。

 本当に大したもんだ。


「んでさぁ、この地獄の特訓はなんのためにやってんの?」


「え、なんのためって、全国大会優勝のためだよ」


 玉田くんは変なことを言うなぁ。

 当たり前のことなのに。


「そうじゃねぇよ。なんか理由があるんだろ。優勝したら原口が成瀬に告るとかさ」


「なっ! なんで!? 玉田おまっ……ええっ!?」


 原口くんが見たことないぐらいにうろたえている。

 いや、玉田くんすごいな。そんな話、まったくしてないのに。


「なんでもなにもねーだろ。お前が必死になることなんて、成瀬以外にねーし……」


「あ、おう……」


「で、佐倉はそれに協力してるって?」


「う、うん……そうだね。成瀬さんのためにね」


「ふぅん……」


 なんて鋭い男だ。


 試合では司令塔をこなし、勉強の成績も学年上位の男、玉田くん。

 月城さんもだけど、頭がいい人っていうのはすごいなぁ。


「でもよー、別にそんなの関係なく告りゃいいんじゃねぇの? どう考えても勝てる試合だろ」


「い、いや……わかんねぇだろ? 灯火は幼馴染だし、色々支えてくれてるけど……そういうのじゃないかもしれないし……」


 うーん、なんでそんなに自信がないかな。

 これは完全に玉田くんの言う通りで、恐れることなどなにもないと思うのだけど。


「そういうもんかねぇ。なにを怖がってんだか」


「お前にはわかんねぇよ。告白するってのは、そんな簡単なことじゃないんだぞ」


 告白かぁ、したことないからわからないけど、確かに勇気の必要なことなんだろう。

 原口くんでさえこうなんだからさ。


「ん? 別にできるよ。俺、佐倉のこと好きだぜ」


「へぁ?」


 変な声出た、玉田くんが? 僕を?

 なんで?


「ははっ、『へぁ?』じゃないんだよ」


「いや、初耳だよ? なんで? そういう感じじゃなかったでしょ?」


「だからさぁ、お前自覚しろってずっと言ってんだろ」


 自覚ってなに。

 確かに前から言われてたけど、本当になんの話をされているのかわからない。


 そんな風に混乱しているうちに、玉田くんが僕の前まで歩いてきた。

 坊主頭の彼が、真っ直ぐ僕の目を見つめてくる。


「まず佐倉はさ、自分がめちゃくちゃに可愛いって自覚を持て」


「あ、うん……はい」


 そんなこと言われたって……そりゃ見た目は咲なんだから可愛いに決まってるけどさ。

 それを自覚するっていうのは正直難しいよ、『僕』じゃないんだから。


「それだけじゃない。転校してきて、あっという間に部活でもクラスでも中心になってさ。お前っていつも『みんな』のこと見てるだろ?」


「そう……かな?」


「ああ。誰かが困ってないかよく見てる。誰にでも分け隔てなく優しくて、元気でさ」


「うぐ……」


「学年の男子の半分ぐらいは佐倉のこと好きだと思うぜ? 自覚して行動してもらわないと困るんだよな」


「はい……」


 確かに学校では何度も告白されたけど、そういうのはだいたい『かわいいから』みたいな理由だった。

 こんな風にストレートに、真っ直ぐ目を見ながら褒められたことはないので、なんというか……困ってしまう。


「ただ、俺が好きなのはそういう表面的な部分じゃなくてさ」


「え?」


「お前の目だよ。すごく綺麗な。だけど時々、遠くを見てて……時々、ひどく寂しそうな」


 咲の、瞳。


 不思議な色をしていて、吸い込まれてしまいそうな、瞳。

 それがとても綺麗なことは、僕だってわかっている。


 だけど、これはそういう話じゃない。

 僕は……そんな目をしていたんだろうか。

 どうして彼に、それがわかるんだろうか。


「多分、お前はどこか別の世界からやってきたんだ。そして、なにかを探してる」


「え?」


「それはきっと、誰にもたどり着けないぐらい遠いところにあって……でもお前は足が速いからさ。きっといつか、そこに走って行っちまう」


「どうして……」


 朝のグラウンドで、玉田くんはまだ僕の瞳を見つめている。

 言っていることは抽象的で、僕の事情をどこまで察しているのかはわからない。


 隠していることなんて、山ほどあるから、なんて答えればいいのかもわからない。

 だけど彼の目は真剣そのもので、僕は目を逸らすことができなかった。


「なに言ってんだこいつって思ってくれても構わないぜ? でも、そう感じるんだ。だからさ」


「うん」


「俺はそんなお前が好きだぜ。でも、お前の隣にいるべきなのは俺じゃない。なんとかしてやりたいけど、それはきっと俺の役割じゃない」


 『役割』


 その言葉が、不思議なぐらい胸に残った。


 玉田くん自身にだって、もしかすると理由なんて説明できないのかもしれない。

 それでも、この子はなにかを感じ取っている。


 そんな気が、した。


「だから俺は……俺にできることは、お前が『そこ』にたどり着けることを祈るだけだ」


「うん……ありがとう」


 取り繕うこともできない僕には、そう答えるしかできなくて。

 少しだけ、『演技』が崩れてしまった気がする。

 僕はとても『器用』なはずなのに。


 彼の目には、この世界はどう映っているんだろうか。

 きっと、僕とはぜんぜん違う景色を見ているんだろう。


 そんな彼が僕なんかに好意を持ってくれたことを、素直に光栄だと思った。


「よし、告白終わり」


 玉田くんはあっさりそう言うと、原口くんの方へすたすた歩いていった。

 僕の答えなんて、最初からわかっているのだと言うように。


「あ、おお……すごいな、玉田」


「だからよ、原口。なんてこたねぇんだ。自分の心を言葉にするだけだ。お前ならできるよ」


「それができたら……いいんだけどな。俺には真似できそうにないよ」


「そうかい。そんじゃ、優勝するしかねぇな」


 原口くんの言う通りだ。

 玉田くんはすごい男だけれど、誰もがそうじゃ……ないんだから。


「よーし! そんじゃ最後にもう1本やろうぜ!」


「お、おう!」


「うん、わかった」


 こうして、最後の特訓は終わりを告げた。


 目指すは全国大会。

 勝負の時は、日曜日だ。

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