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異世界転生で奪われた娘を取り戻すために戦う父親は、魔法少女になって娘の親友の銀髪お嬢様に愛される  作者: 古川智明
第一章:魔法少女になってからしばらくの話

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第百十五話:大人なのに

「いーやーだー! やだやだやーだー! ぜったいやだー!」


 なんということだろう。

 大の大人が、駄々をこねている。


 僕の部屋の床に転がって、いやだいやだと手足をばたつかせている。

 いい大人がだ。


 しかもこの人は刑事で、聞くところによると悪魔らしくて、地獄の公爵でもあるという話だ。


「やだー! ずっとずっと私のかわいいひよりちゃんでいてほしいー!」


「『私の』じゃないですけどね」


「だってまだ一緒にお風呂にも入ってないんだよ!?」


「入らないですけどね」


「とにかくだめなものはだめー!」


 だめだ、話にならない。

 うるさいなぁ。今日って満月だったっけ。


「そうワガママを言うものではありませんよ。日向さんが選ぶことですから」


 いつも通り僕の隣、ベッドに腰をかけた月城さんが、少し苦笑しながら言った。

 そりゃそうだろう、こんな姿を見れば。


 なんだろうな。最初の頃……ちょっとだけ――この人にときめいてしまった自分を殴りたい。

 ちょっとだけだよ。


「いいや、違うね。お嬢様もたまにはワガママぐらい言うべきだ!」


「……確かに、この愛らしい姿が失われてしまうのは残念なことですが。それよりも、予想できない結果になった場合のことを考えるべきですわ」


「ぎぇー、真面目人間! 君たちはいつもそうだ!」


 よし、この不真面目人間は無視しよう。

 どっちにしろ、すぐに転職するわけにはいかないんだし。


「少なくとも、『変身能力を持った敵性宇宙人』の事件を解決するまでは、この姿を維持する必要があるとは思っています」


「……そうですわね。お友達の安全を確保する必要もあるでしょうし」


「はい。大会も近づいていますから、特に注意する必要が――」


「結衣のこと、無視しちゃやだー!」


「ぐえっ」


 子供みたいな大人が起き上がり、座っている僕に正面から飛びつくように抱き着いてきた。

 腰のあたりに、ぎゅーっと。


 グリーマルの真似か? ちくしょう、いい匂いしやがって。


 ……中身がこうじゃなかったらなぁ。

 しょうがないので頭をなでてやると、少し満足そうにしている。

 なんなんだよ。


「はぁ……仮に転職したとしたら、どうなるんでしょう」


「ヒーロー、でしたか」


「はい。『EX職』らしいです」


「『魔法少女』に転職した時は、日向さんにとって最も身近な『少女』の姿になりましたわよね」


「そうですね」


 11歳の頃の、咲。

 僕にとって最も身近な『少女』であることは間違いない。


「え……そうなると、『最も身近なヒーロー』の姿になる可能性が……?」


 とある『ヒーロー』の顔が頭に浮かんだ。

 さっきまで一緒にいたもんなぁ……他のヒーローなんて、知らないし。

 月城さんも、同じ『ヒーロー』を想像しているのがわかる。


「だとすれば、朝霧さん……ですわね」


「ええー……」


 ……いくらなんでもわけがわからなすぎるし、嫌すぎる。

 でも、これまでのことを考えるとその可能性が高いのは事実だ。

 今だって、わけわからんどころじゃない状態なんだし、それぐらいのことが起きたってなにもおかしくはない。


「ひよりちゃんはいいにおいだねー」


 うるっせぇなぁこいつ。

 ……僕が不安なのを知ってて、わざとこうしてることぐらいわかってるんだよ。

 そんなに心配しなくても、いいからさ。


「とにかく……そういうわけなんで、まだしばらくはこのままです。それでいいですか? 如月さん」


「わーい、ママ大好き」


「誰がママだ」


 いい加減離れてほしいなぁ。

 腹立たしいぐらい艶やかで、綺麗な黒髪をなでながらそう考えたところで、子供みたいな大人がようやく身体を起こした。


「はいはい。エロい気持ちになっちゃうもんね?」


「いい加減怒りますよ?」


「やーん、こわーい」


「……楽しそうですわね」


 月城さんが、微笑ましそうにこちらを見ている。


 楽しく見えるかなぁ。

 まぁ、どっちでもいいけどさ。

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