第百十二話:邪界巨神
グリーマルの放ったエネルギー衝撃波が、巨大化したマズラ星人へ襲い掛かる。
黄金に輝く破壊の奔流が胸元に直撃し、眩い閃光とともに巨体を大きくぐらつかせた。
「グアアアアアアアア!」
地の底から響くような低い声。
巨大宇宙人の悲鳴が轟き、空気の震えがここまで伝わってくる。
……つっよ、なにあれ。
そういえば、ソリタスの衝撃波もコンクリートを易々とえぐり取るぐらいの威力はあった。
まともにくらえば、跡形も残らないんじゃないかと思うぐらいには。
あいつで『一番弱い』んだから、そりゃあ最強のグリーマルは強いだろうさ。
それはわかるんだけど、これはいくらなんでも……
「グオオオオッ!」
マズラ星人が態勢を立て直し、巨大な拳を振り上げる。
ふと見ると、グリーマルの前にいくつかの古ぼけた品々が並んでいた。
割れた蛍光灯。古ぼけた雑誌。なんだかわからない機械。
そして――何年か前に放送していた、特撮番組のロボットフィギュア。
「悲しみの色。暮れなずむ記憶。癒えることのない傷跡。捨てられしものたちよ」
空気が、変わった。
寒いわけじゃないのに、全身に鳥肌が立つ。
グリーマルの周囲から、とてつもない邪魔力があふれ出しているのがわかる。
それが物理的に干渉したのか。
今まさに振り下ろされようとしていたマズラ星人の拳が、『なにか』に阻まれるかのように――止まった。
「『哀惜』の名において魂と真なる名を与える」
グリーマルの足元で、なにかが光った。
……割れた蛍光灯だ。光を発するはずがないのに。
古びた雑誌のページが風もないのにパラパラとめくれ、よくわからない機械がガタガタと震えだす。
ロボットのフィギュアが、両腕をぐるぐると回す。
「邪界魔法――『残影神顕現』」
そして――どこからともなく、すすり泣く声が聞こえてきた。
いつもの魔法とは、まるで違う。深い深い悲しみに彩られた、声。
胸が締め付けられて、思わず手を差し伸べたくなるような、声。
黒い霧が、『捨てられしものたち』を包み込み――爆発的に膨れ上がった。
「なんだ、あれ……」
黒い霧の中から現れた『それ』は、巨大な人型をしていた。
いや、人じゃない。
何年か前、咲と一緒に見ていた特撮番組に出てきた巨大ロボットの姿。
番組が終わって、新しいロボットのおもちゃが次々と商品棚に並ぶ中、いつしか誰にも顧みられなくなってしまった――『捨てられしもの』の姿。
「邪界巨神、いけー」
『いけー』ですって。
グリーマルの気の抜けた声に従って、巨大な『邪界巨神』が動き出した。
「ねぇ、グリーマル。あれってどういうあれなの?」
「すごいでしょ?」
「うん、すごいよ。朝霧なんて完全に固まってるからね」
「ふふふ」
……得意げだ。こういうグリーマルはあんまり見ないから、なんだか新鮮ではある。
そんなことを話している間に、邪界巨神がマズラ星人へと距離を詰め――その巨大な拳を叩き込んだ。
「グアアアッ!」
マズラ星人の巨体が大きく吹き飛ぶ。
反撃しようと拳を振るうものの、邪界巨神はびくともしない。
……パワーの差は歴然だ。
巨大宇宙人はあっという間に劣勢へと追いやられ――くるりと背を向けた。
「あ、逃げる」
「邪界巨神、逃がさないで」
邪界巨神が右手を掲げると、その手に光り輝く剣が現れる。
そしてその剣を――投擲した。
直撃、そして――爆発四散。
『少女ばかりを狙う、悪質な宇宙犯罪者』は、木端微塵になってこの世から消え去った。
「うわー」
「やったー」
やったーじゃないよ。なにあれー。ほんとになにあれ?
邪界魔法って、なんでもありなの?
っていうか……
「ええー……なにあれ、僕もあれと戦うの?」
「そんなわけないでしょ」
「あ、そうなの?」
「うん。ひよりちゃんとミオがいないと使えないよ、こんな魔法」
はぁ、なるほど。
僕と月城さんと同じ家で暮らしているから、これだけの邪界魔法を使えるってこと?
なんか話が繋がってない気もするけど……
「ほめて」
「あ、うん。すごいね。ありがと」
「ん」
グリーマルが両手を広げて、なにかを促してくる。
まぁ……頑張ってくれたしなぁ……
「わかったよー。好きにしてー」
例によって、とてとてと近づいてきたグリーマルが、そのまま僕をぎゅーっと抱きしめる。
なんだろうなぁ、これ。
このお姫様がなにを考えてるのか、本当にわからない。
しょうがないので、僕もその冷たい身体を軽く抱きしめる。僕より、ほんの少しだけ大きな身体を。
「日向さん……?」
はい。そうくるよね。
朝霧が、なんとも言えない困惑の目で僕たちを見ていた。
そうだよね。アラフォーの先輩が、中学生ぐらいの美少女を抱きしめてるんだもんね。
わかるよ。気持ちはね。
「みなまで言うな、朝霧」
「咲ちゃんが見たらどう思うか……」
……わかってんだよ、この野郎。




