第百十一話:がんばれヴァイゼン
「少女ばかりを狙う悪質な宇宙犯罪者め! このヴァイゼンが許さん!」
悪辣な宇宙犯罪者に襲われた少女の危機に、宇宙警察ヴァイゼンが駆けつけた。
煌めくレーザーブレードの一閃に、全身ピンクの宇宙犯罪者は――
……うんまぁ、僕の仕事はここまでかな。あとは頑張ってくれ、朝霧。
別にいいんだけどさ。やっぱりヒーローが囮作戦って、どうかと思うよ。
ここは街はずれの廃工場。
周囲に人家らしいものは見当たらず、古びた工場の跡地がいくつか並んでいるだけだ。
街灯もまばらで、宇宙犯罪者が現れるまで待っているうちに日が落ちた今、びっくりするほど暗くて人気もない。
ここ、ほんとに東京か?
現在、朝霧と戦っているマズラ星人とかいう宇宙犯罪者が、この辺りを根城にしているらしい。
近づいてきた少女をさらって、なんやかんやされてしまうらしいのだけど……
こんなところに1人でのこのこ訪れる女子小学生なんているわけないだろ、ふざけてるのか?
ああ、でもあれか。肝試しみたいな感覚で来る場合もあるのかな。なんでも決めつけるのはよくないよね。
「がんばれー」
「がんばれー」
2人の少女からの応援を受けながら、卑劣な宇宙犯罪者と戦いを繰り広げるヴァイゼン。
これはヒーロー的には、なかなか燃えるシチュエーションに違いない。
片方は異世界からの侵略者で、もう片方の正体がアラフォーのおじさんであることを考慮しなければだけど。
「はあっ!」
朝霧の拳が、マズラ星人の腹部へ突き刺さる。
鈍い衝撃音とともに、その身体が大きく後ろへよろめいた。
……それにしても、改めて見るとさすがにヴァイゼンはすごいパワーだ。
殴ったり蹴ったりする一撃一撃の重さが、少し離れたところから見ていてもわかるぐらいに。
いいなー、ああいうの。だって鉄をも砕くんでしょ?
僕はなにしろ力が『3』しかないし、純粋な力比べなら一般人にも負けてしまう。
でも、悠長に殴ったり蹴ったりしてないで、もっとレーザーブレードを使えばいいのに。
……うん。よくないな、この考え方は。
僕は姑息な戦い方か、最強の攻撃手段でのごり押しばかりを選ぶ傾向にある。
それが通用しているうちはいいけれど、通用しなかった時に弱い。
口裂け女との戦いで、それは思い知ったはずだ。
あのパンチやキックにどれだけの意味があるのかはわからないけど、朝霧だってなにも考えずに戦っているわけじゃないだろう。
何事も勉強だ。しっかり観察させてもらおう。
……でもあいつ、なんかかっこつけてる感じがするんだよな。
今考えると、特撮番組とか少女が戦うアニメとかを、咲と一緒になって僕以上に楽しんでいた気がする。
本物のヒーローのくせに、フィクションに影響されるってどうなんだそれ。
「とどめだ! はあああああああ!」
おっ、勝負がつくか?
そのセリフは必要か?
大きく踏み込んだヴァイゼンのレーザーブレードが、全身ピンクの宇宙犯罪者を貫いた。
「グオオオオオオオオオッ!」
マズラ星人の断末魔が、人気のない廃工場に響き渡る。
これで終わり――かと思ったその時。マズラ星人の身体が、膨れ上がった。
「……え?」
みるみるうちに、その身体は廃工場の屋根を軽々と越え――ついには、概ね30メートルほどの巨体になった。
「おいー!?」
「巨大化したね」
「『巨大化したね』じゃないよ! 朝霧これどうなってんの!?」
のんきなことを言うグリーマルはともかくとして、朝霧は――
……呆然としてやがる! 想定外か? 想定外なんだな!?
「朝霧! ロボとかないの!?」
「え、あ……いや、そういうのはなくて……」
マジかよ、どうするんだこれ!?
そんなことを言っている間に、巨大化したマズラ星人がこちらへ向き直る。
そして、腕を振り上げ――朝霧をめがけて振り下ろした。
拳が地面を揺らし、その巨体が傍らの建物を押し潰す。
朝霧はギリギリのところでかわしたみたいだけど、これどうにもなんないだろ。
宇宙の技術はどうしたんだよ。
ガラガラと建物が崩れる中、それをものともせずにマズラ星人が再度拳を振り上げた。
……こんなのにこのまま暴れられたら、さすがに隠しきれない。たいへんな騒ぎに……
ああもう、こうなったら!
「マジカル・チェンジ!」
魔法の言葉に続き、光が全身を包み込み――弾けた。
最近は物理で戦ってばかりだったからなぁ……うまくできるだろうか?
練習不足だけど……やってみるしかない。
「遥かなる憧憬、虚空への旅人。悠久の理に背き、彼方への扉を開け! 我が心の住処へと!」
うおおおお、はっずかしいいいいい!
でも、そんなこと言ってる場合じゃない。
魔法はイメージだ。詠唱はそのイメージを拡張し、魔法の力を十全に発揮させる。
ちなみにこの詠唱は僕が考えたんじゃないぞ。勝手に浮かんできたんだ。
そこだけは誤解しないでほしい。
身体の中で爆発しそうな魔力を、必死にコントロールする。
イメージだ。
「マジカル・ゲートオブアザーワールド!」
巨大化したマズラ星人を見据え、そのイメージを一気に解放する。
輝く波動が周囲へと広がり――
次の瞬間、景色が変わった。
『僕の世界』へと。
見渡す限りの草原に、僕とマズラ星人。そしてグリーマルと朝霧。
光源がどこにあるのかわからない、眩しい光が僕らを照らしている。
「こ、ここは……?」
朝霧と、ついでにマズラ星人がきょろきょろしている。
グリーマルもここへ来たのは初めてのはずなんだけど……動じないなぁ、この人。
「僕が魔法で作った世界だよ。とりあえずここなら……巨大化した化け物が暴れても、近所迷惑にはならないから」
息を整えながら、なんとか答える。
要するに詠唱によって『ゲートオブ・アザーワールド』の魔法を強化し、『敵と味方』を強制的に移動させる効果に拡張したということだけど――なんだかすごく、疲れた……
「ひよりちゃん、だいじょうぶ?」
「ん……ちょっと疲れちゃった」
「わかった。休んでてね」
そう言うと、グリーマルが巨大なマズラ星人の方に向き、両手を大きく開く。
そして――交差させるように、高速で振り抜いた。




