第百十話:複雑だけど、嫌じゃない
火曜日の昼休み。
「それでね、その子がテケテケに追いつかれそうになって、もうだめだってところで……ニンジャが現れたんだって」
「に、ニンジャ……?」
「うん。真っ黒な服を着たニンジャがどこからともなく現れて、テケテケをやっつけてくれたらしいよ」
「そ、そうなんだ……」
「よかった……ニンジャが出てきたんだね」
……どう考えてもサプライズニンジャのことだ。
成瀬さんがこういう話をどこから仕入れてくるのかはわからないけど、『絶体絶命の時に現れるニンジャの噂』が最近広がっているらしい。
奴に対する小春さんの好感度が高いのは、以前助けられたのだからしょうがないとして。
ノックアウトされた僕としては、なんとも複雑な気分だ。
「でも、必ずニンジャが現れるとは限らないし、あんまり遅い時間に1人で出歩くのはよくないよね。2人とも、気を付けてね?」
「うん……そうだね。気を付けるね」
「ひよりちゃんって、時々先生みたいなこと言うよねー」
「2人が心配なんだよ」
「はーい、ママ」
「誰がママだ」
「あははは」
おっと……どこかで聞いたようなことを言うもんだから、うっかり如月結衣向けのツッコミが出てしまった。
……僕ってそんなにママっぽいか?
実際にはパパなのだけど。父子家庭だったからかな。
まぁ、なんと言われようと心配なのは紛れもない事実だ。
必ずサプライズニンジャが現れるとは限らない。
小春さんは魔法少女だから、いざという時には自分で身を守ることができるだろうけど、成瀬さんはそういうわけにはいかないのだ。
2人の髪には、蒼いリボン。
お揃いなんて、正直言うとちょっと照れくさいけれど、なんだか嬉しくもある。
僕の正体を考えると少しばかり微妙な気持ちになるし、なんだろうな、情緒まで身体に引っ張られているのかもしれないと思うと、それも複雑だけど――嫌じゃない。
だからこそ、守りたいと思う。心から。
放課後。
「白峰さん、ちょっといい?」
「あら、佐倉ひより様。どうされましたの?」
様ときた。
なんかここのところ、僕に対する態度が変なんだよね、白峰さん。
他人行儀っていうかさ。
近づいてきたかと思えば、避けられているような時もあって、よくわからない。
今日も授業が終わったらさっさと帰ろうとしていたし、玄関前でギリギリ捕まえたところだ。
「えっと、白峰さん、これ。受け取ってくれる?」
「あら……なんですの?」
「この間のお弁当のお礼だよ。そんなに大したものじゃないんだけど……」
小さな包みを受け取った白峰さんが、そっと中を開く。
現れたのは、深い赤色のリボン。
実際、それほど大したものじゃない。
2人に贈ったような高価な輸入品とは違って、それこそ子供のお小遣いでも買えるようなものだ。
だからそんなに……嬉しそうな顔をされても困る。
「ありがとうございます。一生大切にしますわ」
「そこまで大切にしなくていいけど……」
「しますわ」
「そ、そう……ありがとう」
強情だなぁ。
月城さんもだけど、お嬢様っていうのはみんなこうなのかな?
妙なところで『絶対に譲らない』みたいなところがある。
別にワガママだとか、嫌な感じではないからいいんだけどさ。
夕暮れが迫る頃。
グリーマルと合流した僕は、朝霧の車に乗り込んでいた。
青い車だ。
いつも乗ってる社用の黒い車じゃなくて、この間UFOにさらわれた時に乗っていたやつ。
これ、変形するんだってね。僕にだけ隠してたの、ひどくない?
「わざわざありがとうございます、日向先輩」
「構わないよ。それで、なんだって?」
僕はもう朝霧の『先輩』ではないんだけどな。
それにしても、シュールな光景だと思う。さわやかイケメンの営業マンが、小学生に『先輩』って。
人に見られたらなんて言い訳するのか、僕にはちょっと思いつかない。
「その前に……そちらの方は?」
「ああ、彼女は『哀惜』のグリーマル。邪界人で、僕の友達」
「情報量が多いですね……わかりました。よろしくお願いします、グリーマルさん」
「よろしくね」
お、どうも朝霧には、あんまり興味がないみたいだ。
『哀惜』の感情と縁が薄いからかな。
「それで?」
「あ、すみません。実は今、少女ばかりを狙う宇宙犯罪者を追っていまして……」
「……囮になれってこと?」
「話が早くて助かります」
うーん、いやだなぁ。
いくら中身が僕だからって……小学生を囮にするとか、宇宙の掟はどうなってんだ。
……とはいえ、少女ばかりを狙っているというのは、ちょっと見逃せない。
今日はテケテケを探すつもりだったんだけど、しょうがないか……




