第百九話:水臭い人
「そうですね。金銭を対価に魔術を集めるのは、そろそろ限界だと思っています」
「僕の方も、手がかりになりそうな相手とは遭遇できていないです」
定例の、情報交換。
なんで僕の部屋に集まってやるのかはわからないけども。
僕がベッドに座って、月城さんがその隣。
いつの間にか、この位置が定位置になっている。
如月さんはそのへんに立っていたり、僕の学習机の椅子に座っていたり、今日みたいに床に寝転がっていたり……まちまちだ。
今もカーペットの上で、ごろごろしている。
まぁ、如月さんはピューイさんと同じく、はちゃめちゃに忙しいみたいだから、別に家にいる時ぐらい、ごろごろしてればいい。
僕の部屋以外の場所でしてくれれば、もっといい。
……先日、『邪界大帝バーダス』の話をグリーマルから聞いてから、咲のいる世界の特定を目的として、僕と月城さんはそれぞれ動きはじめている。
ただ、僕にできることは今のところ近場での化け物退治ぐらいで、その中で偶然、手がかりになるような『なにか』と遭遇する可能性はそう高くないだろう。
月城さんは引き続き『魔術』を集めているのだけど、魔術なんて超常の力をお金で譲ってくれる人はなかなかいない。
だからって、力ずくで奪うわけにもいかないわけで。
僕の方も、関係あろうがあるまいが、やたら現れる化け物を放置して、誰かが犠牲になるのを見過ごすわけにもいかないものだから、なかなかたいへんだ。
……要するに、現状かなり難航しているというわけなんだよね。
「直近の事件が片付いたらさぁ、溜まってる有給使って、里帰りしようと思ってるんだよね」
「里帰り? すればいいと思いますけど……」
如月さんが、寝転がったままなんか変なことを言い出した。
いやまぁ、最近忙しかったみたいだし、有給は労働者の権利だし、里帰りでもなんでもすればいいんだけども。
……そういえばこの人って、どこで生まれたんだろうか?
「生まれたっていうか、城だよ。ほら、地獄の」
僕がそう考えた途端、如月さんがよいしょって感じで上半身を起こした。
「城……? もしかして地獄の公爵だって話、本当だったんですか?」
「ええ……信じてなかったの?」
「なんか、ノリで言ってるのかなって」
「ひどい……! 結衣嘘つかないもん! どうして信じてくれないの!?」
「自業自得ですわ」
如月さんが両手で顔を覆って、あからさまな嘘泣きを始める。
そんなんだから、本気なのか冗談なのか、わからないんだよなぁ。
ほら見ろ、月城さんが呆れてるじゃないか。
だいたい、この人が悪魔だってのもよくわかんないよね。別に嘘じゃないんだろうけどさ……
一緒に暮らしていると、手のかかる大きな子供みたいにしか思えない。
「えへへ、ママ大好き」
「誰がママだ」
「それで……地獄、ですか。なにか目的があるんでしょう?」
バカバカしいやり取りで脱線しかけていた話を、月城さんが元のレールに戻してくれた。
そもそも僕の思考は月城さんには見えないんだから、それを前提に話すのは2人でいる時以外禁止だって言ってるのに。
ほんと、この人は……
「ん、wikiを見てもらえばわかりやすいんだけどさ。私の能力の1つに、『あらゆる知識を与える』ってのがあるんだよね」
「あらゆる……知識? 如月さんが?」
「わあ、その驚き方はちょっと傷つくなぁ。バカだと思ってる?」
「まぁ……少しは」
「エーン」
「それで、その『知識』の源泉が、地獄にあるということですの?」
すぐ脱線するのが僕らの悪い癖だ。
月城さんがいなかったら、いつまでたっても話が進まない。
「そうそう。私の『本』が置いてある。あれはアカシックレコードに部分的に接触できるものすごい能力なんだけど、つまんないから置いてきたんだよね」
「あかしっく……? ゲームかなにかで聞いたことありますよ、それ」
「アカシックレコードですね。この宇宙すべての情報が記録されていると言われるものですが……実在しますの?」
「するよー。私が触れられるのは、そのごく一部だけど……異世界について、なんかしら有力な情報が得られるんじゃないかな」
異世界。つまり、咲のいる場所のことだ。
僕と月城さんにとって、それは喉から手が出るほど欲しい情報なのだけど、如月さんにとっては関係のない話でもある。
現実として、なし崩しで協力してもらっている部分もあるけれど……
「でも、いいんですか? そこまで協力してもらって。警察の仕事と関係ないじゃないですか」
「えー、そんなこと言う? 今更さぁ。そーゆー水臭いの、ひよりちゃんの良くないところだとおもいまーす」
「それは、そうですわね。水臭いですわ」
「う……」
痛いところを突かれてしまった。
この間、朝霧からも同じことを言われてしまったし……『日向さんは水臭すぎる』とかなんとか。
でもそんなことを言われたってさ、人に頼るのは苦手なんだよ。
まして、『地獄』なんかに行くなんて、結構大変なんじゃないのか?
いや、待てよ……?
「そういえば、『地獄』も異世界なんじゃないんですか?」
「違うよ、ぜんぜん違うよ。地獄はこの世界の一部だよ」
「そうなんです……?」
「うん。まぁ、徒歩で行けるってほどじゃあないけどさ、少なくとも『異世界』なんかじゃない。『世界』みたいなカテゴリは、そもそも神クラスのレイヤーで扱われるものだからね」
「なるほど……?」
よくわからん。
とにかく『異世界』ではないってことか。
どう違うのかはまぁ置いといて、確かに『地獄』や『天国』が別の世界だったら、人が死ぬたびに異世界への扉が開くってことになっちゃうもんな。
それもなんだか変な話のように思える。
「ところで日向さん」
「どうしました? 月城さん」
「お友達へのプレゼントは、喜んでもらえましたか?」
「あ、はい。すごく喜んでくれましたよ。成瀬さんなんか、涙ぐんじゃって……月城さんがお店を教えてくれたおかげです」
「ふふ……それはよかったです」
「へへ……」
月城さんは、僕の話を聞くといつもこうやって柔らかく笑ってくれる。
だけど、小学校での生活で、月城さんになにもかもお世話になってしまっているのは、なんというか……申し訳ないと思う。
こう考えるのも、『水臭い』というやつなんだろうか。
僕にはわからない。




