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異世界転生で奪われた娘を取り戻すために戦う父親は、魔法少女になって娘の親友の銀髪お嬢様に愛される  作者: 古川智明
第一章:魔法少女になってからしばらくの話

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第百六話:楽しい月曜日

 ゴール前に、原口くんと玉田くん。

 『今度こそ止める』と気合十分なのは原口くんで、肩で息をしているのが玉田くんだ。


「行くよ」


「来い!」


 ボールを蹴り出し、一気に加速する。


 まず僕の前に飛び込んできたのは原口くん。

 僕の進路を塞ぐように身体を入れ、必死に食らいついてくる。


 右へ。


 ついてくる。


 なら左――


「今だ!」


「おう!」


「え?」


 原口くんに意識を向けた、その一瞬。

 反対側から伸びてきた玉田くんの足が、僕のボールを綺麗に弾き飛ばした。


「あ」


 転がっていくボール。


「やったぁぁぁ!」


「へへへ、見たかこのやろう」


 うん、見事にしてやられた。

 素晴らしいコンビネーションだった。


 僕は素早いだけじゃなくてとても器用なので、サッカーの教本を読み込めば『その通り』に動くことができる。

 2人がかりとはいえ、止められるとは思わなかったから、正直驚きだ。


「やるなぁ、2人とも」


「へっ、涼しい顔しやがって。ほんとに人間かよ」


「失礼な。ちゃんと人間だよ」


 いや、わかんないけどね。

 今の僕は『少女のような外見の知的生命体』にすぎないので。


 それにしても、玉田くんは少々口が悪い。


 品行方正な子が多い『明葉学園小学校』では、珍しいタイプだ。

 それでいて頭脳派だというのだから、面白い。


「それじゃ、もうちょっと頑張ってみようか」


「うえー、まじかよー」


「ああ。頼む!」


 それじゃせっかくだし、こっちも新しい技術を試してみるかな。

 玉田くんがなにやら文句を言っているが、限界を超えることが成長に繋がることは、原口くんで証明されている。


「みなさん、そろそろ休憩にしませんか?」


 ボールを蹴ろうとしたところで、練習を眺めていた月城さんが声をかけてきた。

 今日の月城さんは薄い水色のブラウスを着ていて、爽やかな感じのいでたちだ。


 ん-、いいところだったんだけど、まぁ月城さんがそう言うなら。


「あらあら……大丈夫ですか? 玉田さん」


「助かります……お姉さん」


「どうぞ。ゆっくり飲んでくださいね」


 差し出されたスポーツドリンクを一口飲んで、玉田くんがへたり込んでしまった。

 月城さんが汗を拭いてあげている。なんかむかつくなぁ。


「なんだよ玉田、だらしないなぁ」


「そうだよ。いつもならこの3倍ぐらいは……」


「だめですよ、2人とも。玉田さんはまともな人間なんですから」


「まったくだちくしょう……お前らみたいな化け物とは違うんだよ俺は……」


 なんということだ……月城さんに怒られてしまった。


 うーん、しかし困った。

 原口くんと同じ育成メニューだと、玉田くんにはハードすぎるみたいだ。

 どうしたもんかな……


「それじゃ、俺たちは練習続けてるからさ、玉田はしばらく休んでろよ」


「おうおう、そうしてくれ」


 原口くんのやる気が、限界突破している……


 以前はあんなに見とれていた月城さんにもあまり反応していない。

 それぐらい燃えているようだ。


 そういえば玉田くんはあれだな、原口くんと違って月城さんに対して特に見とれたりとか、緊張したりとかはないのかな。

 健全な小学校高学年の男子として、それはどうなんだ?


 まぁいいや。


 それより、原口くんのやる気にこちらも応えねばならないだろう。

 授業開始まではまだまだ時間があるので、もうちょっと追い込んでみよう。




「おはよう、ひよりちゃん。今日も練習?」


「うん。おはよう、小春さん。2次予選も勝ち抜かないといけないからね」


 練習が終わり、シャワーを浴びて少し休憩。

 それから登校。

 そして、チャイムが鳴る少し前に登校してきた小春さんが、僕に話しかけてきてくれる。


 この流れも、なんというかおなじみという感じになってきた。


 ……月城さんは学校の始業時間に間に合ってるんだろうか?

 最近は、しょっちゅういるんだけど。


「頑張るなぁ。でも、次もひよりちゃんは試合に出れないんでしょ?」


「そうだけどね。ワンフォーオールってやつだよ」


「えっと、ワン……なにって?」


「ん-、『ひとりはみんなのために』みたいな感じの意味だよ」


 正確な意味までは覚えてないけど、そんな感じだったと思う。

 改めて聞かれるとちょっと詰まっちゃうね。


「なんか、スポーツマンっぽいね」


「あはは。でしょ?」


「うんうん」


「あ、そうだ小春さん。放課後にさ、ちょっと成瀬さんと小春さんに渡したいものがあるんだよね」


「え? なんだろ」


「それは放課後のお楽しみ」


「ええー、教えてよー」


「ふふ、だめー」


 どうせなら、一緒に喜んでほしいからね。

 ここで教えるわけにはいかないのだ。


 まぁそもそも、始業前に教室でプレゼントを渡すわけにもいかない。

 先生にバレて没収なんかされてしまったら、せっかくのプレゼントにケチがついてしまうからね。


 そして、放課後。


「ともかちゃん、こっちこっち」


「え、あ……うん」


 小春さんが、隣のクラスから廊下に出たばかりの成瀬さんを捕まえ、僕の前まで連行する。

 成瀬さんにも昼休みのうちに、放課後渡したいものがあると伝えてあるので、やや戸惑いながらも期待の表情だ。


 ぬぬう、そこまで楽しみにされるとプレッシャーが……


「えっと、ね……これなんだけど」


 2人にそれぞれ、小さな包みを差し出すと、なんというかこう……

 すごくキラキラした目をしながら受け取ってくれた。


 喜んでくれるといいな。


「ありがとう……ひよりちゃん」


「ありがと! ねぇねぇ、開けてもいい?」


「うん、もちろん。気に入ってくれるといいんだけど」


 そう言うと、待ちきれないといった感じだった小春さんはごそごそと、成瀬さんは丁寧に、包装を開封し始める。

 もちろん先に開封が終わるのは小春さんだ。


「え、これって……ええーっ?」


「え、すごい……待って待って」


 小春さんの手元を見て、成瀬さんも開封を急ぐ。


 そして、同じもの。

 蒼いリボンが入っていることを確認して、目を輝かせた。


「わあー、いいの!?」


「ひよりちゃん、覚えててくれたんだ……」


「う、うん。3人でまったくお揃い……とはいかなかったけど、よく似たのを店員さんに選んでもらったんだ」


「でもこれ……絶対高いよね?」


「そ、そうだよね……?」


 うん、まぁ。

 小学生がお小遣いで買う価格ではない。


 僕がサラリーマンをしていた頃の食費で換算すると、2週間分ぐらいだろうか。


「まあまあ。いつもお世話になってるからさ、これぐらいはね」


「うー、男前なことしてくれるなぁ」


「ありがと……すごくうれしい」


 また成瀬さんが涙ぐんでいる。

 こんなに喜んでもらえると、僕としても嬉しい限りだ。


「せっかくだから、結んであげるよ。成瀬さん、後ろ向いて」


「う、うん……!」


 リボンを受け取って、成瀬さんの長い黒髪を手に取った。


 全部まとめてしまうより……そうだなぁ。


 後ろの髪を少しだけすくってまとめ、その結び目に蒼いリボンを結んであげる。

 僕の『器用さ』にかかれば、超絶に可愛く結ぶのも容易いことだ。


「はい、次は小春さん」


「う、うん。私に似合うかな?」


「もちろん」


 小春さんに似合わないわけがない。

 ん-、髪の長さは同じぐらいだし、僕と同じポニーテールにしてみるか。


「ちょっと待ってね」


 予備のゴムを取り出して、ささっと小春さんの髪を整える。


 うーん、上手になったもんだ、最初はあんなに苦労したのに。


 んで、こうして……こう。

 リボンを可愛く結んで……できあがり。


「はい、完成」


「ともかちゃん、鏡持ってない?」


「う、うん……あるよ、待ってね」


 うむうむ。

 2人ともよく似合っていて、とても可愛らしい。



 鏡を見た2人は、とてもとても喜んでくれて。


 喜んでくれて。



 僕は本当に――嬉しかったんだ。

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