第百三話:お揃いのリボン
「ひよりちゃん……ほんとにもう大丈夫なの?」
「うん、大丈夫。心配かけてごめんね」
「ともかちゃんは心配しすぎだよ、ひよりちゃんだって風邪ぐらい引くんだから」
「そうだけど……」
ううむ、成瀬さんに心配をかけてしまった。
結局、『口裂け女』討伐の翌日は学校を休むことになり、そして今は金曜日の放課後。
明後日の地区大会に向けて、成瀬さんが『卓也』のために作るお弁当の材料を、いつもの3人で買いに行くのだ。
しかもお弁当は僕の分も作ってくれるというのだから、これは嬉しい。
それにしても、気合い入ってるなぁ。
こんなに応援してくれてるんだ。一次予選ぐらいで敗退することは許されないぞ、原口くん。
まぁ、今朝の『秘密特訓』での様子を見る限り、そこらの小学生が今の原口くんに勝つのはなかなか難しいはずだ。
『成瀬さんへの告白』を成功させるためにも、まずは1歩前進することを祈る。
「で、なに買うんだっけ?」
「卓也はお肉が好きだから、お肉をたくさんと……ひよりちゃんの好きな食べ物、教えて?」
「確か、すあまって言ってたよね?」
う、その設定覚えてたのか。
さすが小春さんと言わざるを得ないが、お弁当にすあまは普通入れないと思う。
「すあまは……さすがにお弁当にはね」
「そ、そうだよね……他に好きな食べ物は?」
本当に好きな食べ物は、焼き魚だ。
特に、焼いたサンマは最高だと思う。
「焼き魚かなぁ、サンマとか」
「サンマは……この時期は売ってないかも。他の魚じゃだめかな?」
さすが成瀬さんは魚に詳しい。
そもそも、お弁当に焼いたサンマは微妙な気もするし……
「うーん、焼き鮭とか」
「うん。それなら大丈夫だと思う」
「わあい」
「いいなー。ともかちゃんがお弁当作ってくれるなら、私も応援行きたかった」
心底残念そうに、小春さんが言う。
残念ながら明後日は用事があるとかで、応援には参加できないらしい。
もちろん――『なにか』が起きるとすれば、小春さんが現場にいないこと自体は歓迎するべきことなのだけど。
「小春さんは、お弁当が目当てなの?」
「うん。ひよりちゃんが試合に出るなら別だけど」
「あはは……それは次の大会に期待してね。レギュラー入りできるかはわからないけどさ」
「ひ、ひよりちゃんがレギュラー入りできないなんて……絶対ないよ!」
「そうそう。なんでそんなに自己評価低いかなぁ」
「そうかな?」
「そうだよ……!」
そんなことを言われても、まぁ……
自分の実力だとはいまだに思えないから、どうしても自信満々とはいかないんだよな。
「……ところで、ひよりちゃん」
「ん? どうしたの、小春さん」
「そのリボン、どこで買ったの?」
「あ、私も気になってた……すごく綺麗だよね……」
リボンというのは、僕のポニーテールに結ばれている物のことだ。
その正体は『蒼穹のリボン』
効果はというと……『すべての状態異常に耐性を持ち、身に着けた者を徐々に回復させる』
もちろん、口裂け女を倒した後で現れた、『虹色の宝箱』から出現した品だ。
まるで蒼穹をそのまま編み込んだような幻想的な色合いで、見る者の目を嫌でも惹きつける。
要するにものすごく目立つわけだけど、性能が性能だから、身につけざるを得ない。
これがあれば、月城さんに迷惑をかけることも減るだろう。
そう思ったのだけど、どういうわけか月城さんは少し残念そうにしていた。
……いずれにせよ、『これ』の効果を一昨日のうちに知っていれば、昨日学校を休む必要もなかったんだよな……
本当に、タイミングが悪い。
次からはさっさと開けた方がいいのかなぁ。
でも、伊吹さんに鑑定してもらわないと、結局なんなのかはわからないから……うーん。
「これは、海外のお土産にもらった物だから……どこで売ってるかは知らないんだよね」
「そうなんだ。いいなぁ、海外かぁ」
小春さんには『青』が似合う。
魔法少女としての姿も青が基調のものだったし、活発で爽やかな印象の彼女がこのリボンをつければ、それはもうたいへんな可愛さだろうと思う。
「お揃いにしたかったな……」
「ごめんね、成瀬さん」
「あ、謝ることないよ……!」
成瀬さんが慌てたように両手を振る。
お揃いのリボンか……
もちろん同じ物は用意できないけど、似たような品ぐらいは探せば手に入るかもしれない。
いつもお世話になっていることだし、小春さんと成瀬さんに、それぐらいはしてもバチは当たらないよな。
……少しばかり、照れくさいけども。




