第百二話:行かなきゃ
――夢を、見た。
目を開けると、そこは僕の部屋の、僕のベッドだった。
「よかった、日向さん……」
「月城さん……いつもすみません」
「……これぐらいしか、できませんから」
僕の右手は月城さんに握られていて、左手はグリーマルに握られていた。
2人とも心配してくれていたみたいで、ほっとした表情で僕の顔を覗き込んでいる。
「つっ……」
少し身体を動かすと、脇腹に鋭い痛みが走る。
「あっ……まだ、動かないでくださいね」
傷は、まだ完治していないみたいだ。
――でも、行かなきゃ。
「グリーマル、大切な話があるんだ」
「大切な話? どうしたの?」
「僕の話」
「うん。聞かせて」
――僕のこと、咲のこと。一番、大切な人のこと。
なにが起きたのか、どうして、こうなったのか。
全部――
「そうなんだ」
「…………」
全部話しても、反応は薄かった。
んー。聞いてたよね?
「……そうなんだ。だけなの?」
「あなたはあなたでしょ?」
「そっか」
なんだか、少しだけ肩の力が抜けた。
心配して損した。
「不安だったのに、どうして話したの?」
「……お願いがあるんだ」
「うん。なんでも言って」
「僕は、咲の――娘のいる世界に行きたい。別の世界に移動する方法を知っていたら、教えてほしい」
「……ごめんなさい。私には、わからない」
「そっか……」
「でも、パパなら……別世界への扉を開くことができる。私たちがこの世界に来るための扉も、パパが作ったから」
『邪界大帝バーダス』
邪界の支配者で――邪界人の、神。
「お父さんに会うのって……難しいかな?」
「パパとは喧嘩してるけど、大丈夫だよ。でも……咲さんのいる『世界』の座標がわからないと……」
「前にも言ってたよね、座標って?」
グリーマルが、少しだけ考えるような……
なにかを思い出すようなそぶりをして、口を開く。
「『世界』というのは、『無限』の空から覗き込んだ、『窓』の奥に広がる夢のようなもの。パパがそう言ってた」
「……わかんないよ」
「うん、私にもわからない。でも大事なのは、『窓の位置』だよ。それが『座標』」
「なら……それさえわかれば?」
「絶対とは言えないけど、パパなら力になってくれると思う。私が頼んであげる」
「……ありがとう」
「いいんだよ。ひよりちゃんのためだったら、なんだってするよ」
「そこまではしなくて……いいんだけどね」
グリーマルは、僕の敵で……『邪界大帝』は、敵のボスなんだけど。
もう、なんだかわからなくなってきた。
僕の左手を強く握っている、この手を。
『敵』だなんて思い続けるのは、とてもじゃないけどできそうにない。
「日向さん。なにか……あったんですか?」
月城さんが僕の右手を握ったまま、心配そうに言う。
グリーマルに全部話したのは、正直、賭けだった。
無茶をした自覚はあるけれど、でも――
「夢を、見たんです。咲が……泣いていて。『助けて、お父さん』って」
「はい……」
「だから、行かなきゃ。少しぐらい、無茶だって……」
「……ええ。必ず、あなたを咲の元に。この私が……命に代えても」
「命だなんて……大げさすぎますよ」
2人とも、『なんでもする』とか、『命に代えても』だとか。
受け取れないよ。
そんなにしてもらうほど、僕は彼女たちに……なにもしてあげられていないのに。
そんなことを考えているうちに、少しずつ眠く――
「はい、ドーン!!!」
――扉が、勢いよく開いた。
バーンと、ドーンと。
「あーれーだーけー言ったのにー! 大怪我して帰ってきた人のお部屋はこちらですかぁー!?」
「え、あ、はい……」
びっくりした……
心臓が早鐘みたいに鳴っている。ああもう……なんなんだ。
「……ごめんなさい」
「そうやって、あやまりゃいいと思ってさぁー!」
ほんとに、騒々しいなぁ。
まぁ、心配してくれてるんだろうけどさ。




