第百一話:勇者 日向咲と、懐かしい部屋
『パラッパッパー!』
『パラッパッパー!』
レベルが上がった。それも2個。
おまけに、目の前には『虹色の宝箱』まで出現した。唐突に。
こんなのは初めてで、少し驚いたけど……今はどうでもよかった。
「ねぇ。本当に例外はないの? あなたを手放した後で……とか」
『ありません。過去の全ての勇者が、その天寿を全うするまで神剣ラルクスを手放しませんでした』
つまり、過去の勇者は全員、この世界で死んだってことか。
『その通りです、勇者よ。彼らは世界に光をもたらし、栄光の中でその生涯を終えました』
栄光?
そんなの、いらないよ。
私は家に帰りたい。
お父さんに会いたい。
澪ちゃんに会いたい。
『神剣ラルクス』の言葉は、本当は少しだけ、そうじゃないかなと思っていて。
でもそんなわけないって、心の中で必死に打ち消していた可能性そのものだった。
そう――元の世界には帰れない。
魔王を倒したって、帰れない。
世界中のどこを探したって、帰る方法は『無かった』
過去の『勇者』が世界中を隅々まで探しても、無かったんだってさ。
――ここは、『私の世界』に作り出した、私の家。私の部屋。
古ぼけた蛍光灯に、日焼けした畳。
脚の折り畳みがスムーズにできなくなった小さなテーブル。
押し入れにしまわれた――2人分の布団。
お父さんと2人で住んでいたアパートを思い出して、できる限り再現した、部屋。
目をつぶっていても思い出せる、部屋。
いつの日か、きっと。
そう思って、大切な人たちの部屋も作ったんだよ。
気に入ってくれたら、いいなって。
たどり着くべき未来を、見失いたくなくて。
でもその部屋は――永遠に使われることがない。
『勇者よ。あなたの活躍により、魔王軍は人類に対して劣勢を強いられています』
それが、なに?
『今こそあなたが先頭に立ち、人類を勝利へ導くのです』
そんなことに、なんの意味があるの?
『それこそが神より賜りし、あなたの使命。世界に光をもたらすのです』
……くだらない。
『勇者よ』
「くだらない!」
『神剣ラルクス』を無造作に掴んで立ち上がる。
そのまま部屋を出て、扉を閉めた。
金属が擦れる、甲高い音。
出かけるたびに、家に帰るたびに、何度も聞いた――懐かしい音。
そんなに言うなら、魔王を倒してあげる。
人類を勝利に導けばいいんでしょ?
でも、神様なんて関係ない。
ただの憂さ晴らしで、世界とやらを救ってあげる。
私は強い。
すごくすごく、強いから。
ねぇ、助けて。
お父さん。




