第十四話 這い寄る悪意
「最後の一人……ですか?」
「ああ」
手合わせを終えた後、焔さんから最後の仲間が戻ってくると伝えられた。なんでもこの支部の初期メンバーの一人らしく、戦闘においては焔さんに次ぐ実力者らしい。
名前は梶 迅太郎。歳は二十二歳で、焔さんの次に年長者だ。
「先程、迅さんから連絡がありまして。実家での手伝いが終わったので仕事に復帰する……と」
「実家、ですか」
一色さんは頷く。
「あの人にとって、実家での手伝いが最優先なので。夢の為にも、そこは譲れないとか。数週間から数ヶ月程、たまにですが実家に帰るんですよ。条件付きのメンバーと言えば、この間のお二人にも似てますね」
「お二人……あぁ、誠と静ですか」
「ええ。この支部に限らず、そういう人は多いみたいですよ? 時には命懸けの仕事もありますし、無理強いは出来ませんので」
と一色さんは話す。
誠達が珍しいのかと思ったが、案外そうでも無いんだな。
「ならまたシフトを変えないとだね。ジンタローは滅茶苦茶強いけど、組織とやらが彷徨いてるんなら一人でパトロールさせるのもあれだし」
「そうだな。それについては追って話すよ。さて、駅に着いた頃だろうし迎えに行くとするか。レイラ」
「あ、はい」
「君は初対面だし、自己紹介がてら迎えに付いてくると良い。アキラ、楓は待機。暫く待っていてくれ」
「了解だよ」
「分かりました」
二人は頷き、外に出ていく焔さんを追い掛けた。
俺以外の唯一の男性か。歳上だけど、仲良くやれたら幸いだな。
それにしても……実力者、か。どれ程のものなのだろう。
「……緊張するかい?」
「いえ、大丈夫です。少し楽しみなくらいで」
並んで歩いていると、焔さんからそう訪ねられた。
「フフ、唯一の男性だからかな?」
「そ、そんな事は……」
心を見透かされているように本音を当てられ、思わず目を反らす。その様子を見て焔さんは微笑んだ。
「図星の様だね。気にしなくても良いよ。君くらいの年頃だと、女性に囲まれるのは落ち着かないだろうからね」
「す、すいません……確かにそれはあります」
「いいさ。……迅太郎は少しクセはあるものの悪い人間ではない。きっと仲良くなれるさ。レイラは不思議と、人を惹き付ける何かを持っている様だからね」
「何か……?」
焔さんは笑みを浮かべたまま頷く。
「ああ。レイラがこの支部に来てから仲間が増え、組織の尻尾も掴むことが出来た。まるで君が運命を引っ張ってきたかの様に思えるんだ」
「うーん……そうなんですかね」
「少なくとも私はそう思っているよ」
意味深な言葉に思わず首を傾げる。
運命を引っ張ってきた、ねぇ。俺の方こそ、焔さんに引かれたように思っているけどな。
あの日、この人と出会わなかったら……どうなっていたのだろう。
「……にしても今日は暑いですね。秋になったと言うのに」
「そうなのかい? 暑さには疎くてね。能力が関係しているのかも」
「あ~……。炎の能力だから暑さに強いとかあるんですかね。だからいつも肌を一切出さない服装をしているんですか?」
以前から気になっていた服装について話すと、一瞬だが焔さんが険しい表情を浮かべた。
が、直ぐに戻ってまたしても薄く笑う。
「……いいや、ただの趣味だよ。リーダーとしてある程度、威厳のある服装のが良いかなと思ってね。それとも、私の肌が見たかったかい?」
「いや、そういう訳では……」
「はは、冗談さ。アキラの言うとおり、君をからかうと良い反応をするねぇ」
クスクスと笑う焔さんを見ながら、息をついた。
確かに一瞬、この人の別の服装を想像したけどさ。アキラめ、余計な事を教えやがって。
にしても、一瞬だけ浮かべたあの顔は……どういう事なのだろうか。
「━━ぎゃあああああ!!」
「!?」
雑談に花を咲かせていると、突然つんざくような悲鳴が聞こえた。
「……ただ事では無さそうだ。戦闘の準備をした方がいい」
「っはい!」
直ぐ様走り、声の聞こえた方へと向かう。
まばらだが人だかりも出来ていた。こんな真っ昼間からなんだってんだ?
「━━ん?」
人だかりを避けた先を見た焔さんが、不思議そうに首を傾げた。
俺も続いて見ると……形容しがたい光景が出来上がっていた。
「ご、ごめんなさ……!」
「謝ってんじゃねぇよ。俺を殺しに来たんだろ? あァ?」
「ひっ……!」
夥しい数の刃物らしき物体がそこらじゅうに突き刺さっており、二人の男が倒れたまま一人の男性に怯えた声を上げていた。
「……迅太郎、これはなんだい?」
「ん? あ、姉さん! お疲れ様です!!」
焔さんを見た瞬間に男は倒れた男を蹴飛ばしてこちらへと走ってきた。先程とはうって代わり、ニコニコと笑みを浮かべている。
それより……迅太郎、だって?
「迎えに来てくれたんですか? 光栄です!!」
「あぁ、いや……確かにそうだけど。まぁ良いや、事情は後で聞くよ。警察に連絡はしたかい?」
「はい! もうじき来ると思いますよ」
焔さんは呆れた表情を浮かべたまま、苦笑いをしていた。
この男の人が、梶さんだってのか……?
*
「紹介するよ。彼が梶 迅太郎。随分インパクトのある出会いだったが……大丈夫かい? レイラ」
「は、はい……なんとか……」
人目を避けて、近くの適当な喫茶店に逃げ込んでから話をすることになった。
梶さんは咳払いをし、こちらを見る。
「おう、お前が新人の月星レイラって奴か。楓から話は聞いてるぜ。よろしくな」
「はい!」
手を差し出されたので、それに応えて握手をした。
……随分、鍛えられた身体だな。作業着みたいな服を着ているから分かりにくいが、俺よりも遥かにガタイが良い。
背も焔さんより高く、男らしい整った顔でかなりのイケメンだ。オールバックの黒髪で、見た目が少し怖いが。
「迅太郎は強い。これから先、教わることもあるだろう。仲良くするといいよ」
「はい! 梶さん、よろしくお願いします」
「おう。……しっかし、いい顔をしてんじゃねーか。流石、姉さんが認めただけはあるな」
「レイラは優秀だよ。戦闘はまだまだ荒削りだが、頭が切れる。迅太郎の能力と相性が良いかもね」
「そうなんですか? そりゃ楽しみだ」
梶さんは豪快に笑う。
この人の能力は何だろう。大量に落ちていた武器と、何か関係があるのだろうか。
「さて。迅太郎、何があった?」
焔さんは話を切り替え、真剣な表情で梶さんに質問をした。
梶さんは頭を少し掻いた後、話を始めた。
「駅に着いた途端、襲ってきたんですよ。片方は銃から特殊な弾を撃つ能力で、銃自体はただのモデルガンだった。もう片方は分かりません。使われる前にシバいたんで」
水を一口飲み、舌打ちをした後に更に話を続けた。
「多分組織でしょうね。まだ話は聞けてないが、見ず知らずの人間をいきなり襲うってのも変な話だし。支部の人間を、仲間が集まる前に消しときたかったとかじゃないですかね。ま、無駄だが」
「……成る程、ご苦労だった。随分大胆に動き始めたね。今までコソコソと動いていたというのに」
「支部を潰す準備でも出来た……のかもですね。何にせよ、あの二人は弱かったんでしたっぱでしょうが」
「だな」
と、二人して溜め息をつく。
しれっと話していたが、二人の感染者を相手にして無傷とは。話通りの実力ってことだな。
「……人数が欲しいところだな。遠阪に協力を仰いでも良いが……その前に、黒子を要請するか」
「あの、黒子って何ですか?」
聞きなれない言葉が出てきたので質問すると、梶さんが答えた。
「黒子ってのは、本部に所属している無能力者の人員だ。情報が必要な時とかに、町中に散開して情報を密かに探り、俺らに情報を送るのさ。黒子のリーダーは能力持ちだけどな」
「へぇ……私服警官みたいなものですかね」
「そんな感じのイメージで合ってるぜ。戦闘能力は流石に高くはないが、警察上がりの人が多いからそう簡単にはやられないしな」
梶さんからそう話され、納得した。
流石に、能力者だけだと人数が足りないしな。当然と言えば当然か。
緊急時にはその人達の助けを借りるということか。
「リーダーの忍足サンに連絡付けば良いですけどね。遠阪よりも忙しい人だし」
「そこはまぁ、根気よく連絡するさ。他の支部で組織の動きは確認されていないようだし、頼めば来てくれるだろう」
少々気難しい顔をしながら、スマホで電話を掛ける焔さん。だが、出てくれなかった様でまたしても溜め息をついていた。
「やはりか、仕方ない。……二人共、支部に戻るよ。街中でまたしても襲われると面倒だ。これからの方針を決めるとしようか」
「了解す!」
「わかりました」
*
「……フン。使えない雑魚共だな」
やはりしたっぱでは意味がない。梶という男、焔に勝るとも劣らない強さだ。
あんな奴等に期待などしていなかったが……せめてもう少し粘って見せろと言ってやりたい所だな。
「弓美さーん! どうでしたか?」
「……音羽。こんな場所とは言え、その金切り声を抑えろ。誰かに気付かれたらどうする」
「ご、ごめんよ風花ちゃん……」
背後からいつもの声が聞こえ、部下の音羽と風花が立っていた。ビルの屋上とは言え、確かに音羽の声は大きすぎる。
「で、どうでした?」
「駄目だった。予想通りだがな」
「でしょうね。リーダーも、私達に任してくれれば良かったんですが」
と風花が息をつく。ごもっともだが、そうも行かない。
「私達は私達の役割がある。梶を潰すのは私達の仕事じゃない。戦って負けるとは思わないが、我慢しろ」
「心得てます。私達の仕事は……」
「ああ。正直、梶を倒すよりも難しい話だがな。しかし、それでいい。最終的に勝者となるのは私達である必要はない」
そう。勝つのはリーダーだけでいい。
私達は駒。使い捨ての駒だ。だが、駒には駒なりのプライドがある。
「支部を潰すために、自分達の出来ることを成すだけだ」
「はい!」
「了解」
━━焔、束の間の安息を楽しむが良い。
我ら三人が貴様に、必ず痛みと傷を与えてやる。
リベレイションの名の元に。




