第十五話 武器職人
「レイラは一度、迅太郎と組んで貰うよ」
梶さんを連れて事務所へと戻り、暫く話し合った後に焔さんはそう言った。
「俺と梶さんが……ですか?」
「うん。アキラは少しの間待機してもらうよ」
「えー?」
不満そうに声を上げるアキラ。
それを見て笑いながら、梶さんはアキラの髪をワシャワシャと触る。
「組織とやらが事務所を直接狙ってくる可能性もあるんだ。アキラが残ってくれると助かるんだよ」
「もーそれやめてよジンタロー! にしたって暇だよ」
「フフ、そう言うな。事務所には大事なデータも残してある。アキラがいると私達も動きやすくなる。頼むよ」
「むぅ……」
まだ不満げだが、アキラは渋々頷いた。
「では、アタシは焔さんと?」
「だね。もし誠達が来れる場合は楓も待機だ。その場合は私が誠達とパトロールに行くよ」
「了解しました。お二人は経験が浅いですし、焔さんと組めば安心ですね」
話は纏まった様で、少し休んでからパトロールをすることになった。昼過ぎだが、まだ食事を取れていない。コンビニでも行こうかな?
「レイラ。飯はまだ食ってねぇよな?」
そう考えていると、梶さんからそう聞かれた。
「はい。今からコンビニでも行こうかなと」
「なら丁度良いや。奢ってやるからよ、外に食いにいこうぜ」
「良いんですか?」
「遠慮すんなよ」
そのまま引っ張られ、外へと行くことになった。
*
「旨いラーメン屋があるんだ。歩いていける距離にあるからよ」
「ラーメンですか、それは楽しみです」
梶さんは上機嫌でそう言った。俺よりもこの街に詳しいみたいだな。
「……梶さんの能力ってどんなのですか?」
ただ歩くのも暇なので、試しに聞いてみた。梶さんは笑い、懐から手で覆えるくらいの大きさの鉄を取り出してこちらに見せた。
「鉄?」
「ああ。これに俺の能力を使うと……『武器生成』!」
能力名を言うと同時に、鉄の塊は形を変え……小型のナイフに変形した。
「こ、これは……!」
「驚いただろ? これが俺の能力さ」
作り出したナイフをくるくると得意気に回し、梶さんは笑う。
「鉄をナイフに変える能力……ですか?」
「ちょっと違うな。俺の能力は手で覆える大きさの物を、武器に変えるって能力さ」
そう答えると梶さんはナイフを上へ放り投げ、指を鳴らすとナイフは跡形もなく消え去った。
凄く便利な能力だな。使いこなせれば、相当強いだろう。
「ナイフ、刀、槍……刃物であろうと無かろうと、俺が知っている武器なら何でも創れる。鉄を持ち歩いているのは強度とか使い勝手が良いからだが、別に土とか砂とか水からでも創れるぜ。生き物以外で小さな物なら何でもいいのさ」
「凄いですね……焔さんの次に強いってのも納得出来ますよ」
「へへ、ありがとよ。レイラの能力は少しだけ聞いているけどよ、お前の能力も中々のモノだと思うぜ? パワーも硬さも備えてて、しかも出が速い。不意打ちならまず先手を取れる。……この仕事に慣れたらよ、お前と一回やりあってみたいもんだな」
「き、恐縮です。……梶さんの能力に対する策とか、特に思い付かないですけどね……」
ただでさえ戦闘慣れしてそうなこの人が、感染者の身体能力で大量の武器を出現させながら迫ってくるとか、下手なホラー映画よりも怖い。
寄られたらまず勝てないだろうな……。
「━━まァ、能力を使いこなすには随分時間が掛かったけどな。様々な武器の使い方や構造、それを覚えないと使い物にならない。ただ武器を振り回してるだけならガキでも出来るってな」
「なるほど……じゃあ、能力を得てから長いんですね?」
「あぁ。俺は『第一次世代』だしな」
「ファースト?」
聞きなれない単語が出てきたので訪ねると、梶さんは呆気に取られたような表情を浮かべた。
「あー、聞いてねぇか。感染者になった時期の事だよ。俺が能力を使えるようになったのは感染者が増え始めた初期の頃でな。そういう連中の事をファーストって呼ぶのさ。多分だけど、姉さんもそうじゃねぇかな。あの人はあんまり自分の話はしないけどよ」
「へぇ……」
なるほど、じゃあもう何年も感染者をやっているって訳だ。強さにも納得がいく。
「……ま、ファーストはあまり良く思われてねぇがな」
「何故ですか?」
梶さんはため息をつく。
「ファースト。つまり、初期段階の感染者だ。つーことはそれ以降の感染者にとっては感染源な訳さ。俺達が感染を拡げたんだってほざきやがる上の連中もいるのさ」
「あぁ、そういう事ですか……嫌な話ですね」
「全くだ。好きでなった訳じゃねーのによ。ムカつくぜ」
舌打ちと共に、梶さんはまたしてもため息をつく。
嫌な気分だろうな。勝手に悪者にされるというのは。
「さ、もうすぐ着くぜ。旨いラーメン食べて、午後から頑張ろうや」
「あ、はい! お願いしますね」
「おう!」
*
食事を終えて、事務所に戻った。
梶さんの言った通りで、凄く美味しいラーメンだったな。近くにあるし、また行こう。
「戻ったか。では、パトロールを始めるとしよう」
俺達が戻ったのを見て、早速焔さんはその場にいる全員を机の周りに集める。
いつもは現場に出る人任せだが、今回は事前に何処をパトロールするか決めるらしい。
「迅太郎とレイラは商店街の方へ。あの辺りで一度組織の連中と会ったからね。そこから遠回りをしながら事務所へと戻ってくれ。大柄な男を見掛けたらマークしておくこと」
「了解す。と、なると姉さん達は……」
「あぁ。誠の高校周辺を探る。手掛かりがあれば上々だが、いつも通りの仕事をこなしてくれれば良い」
「わかりました」
「良し。……それともう一つ。楓」
「はい」
楓さんは何枚かの書類を棚から出し、机に拡げた。
そこには、男と女の顔が描かれていた。
「これは……?」
「私と遠阪君で戦った二人組の顔だ。私の記憶頼りだが、一応覚えておいてくれ」
「なるほど……」
この二人が焔さん達を襲い、静を苦しめた奴か。
許せない、が……出会ったとしても先走らないようにしよう。焔さんと直接戦ってよく分かった。
こいつらは、相当強いのだと。
「男の方の能力は筋力の操作。それにより凄まじい膂力とスピード、硬さを自在に使い分けられる。女の方は瞬間移動だ。もし見掛けても慎重に頼むよ」
「うす!」
「はい!」
「良し、では仕事を始めよう。夕方にここに戻り結果の報告。気を引き締めて行こうか」
焔さんと楓さんは先に外へ出て行った。俺達も後へと続く。
「レイラ、頑張ってねー」
「ありがとうアキラ。お前も留守番サボんなよ?」
「先輩に向かって生意気だぞーレイラのくせに。ま、任せといて?」
「ははは」
得意気に笑うアキラを尻目に、外へと出た。
*
「……ここには、随分と縁があるな」
商店街へとたどり着き、辺りを見渡す。
昼過ぎということもあり、人は多い。爆発騒ぎがあった後だから人は多少少ないと思っていたが、そうでもないみたいだな。
「ここで、アキラと一緒に感染者と戦ったんだっけ?」
そう梶さんに聞かれたので、頷く。
「はい。アキラのおかげでなんとか勝てました」
「やるな、アキラ。昔はもっと危なっかしい所があったからなぁ」
「長い付き合いなんですか?」
梶さんは笑う。
「俺は楓と同じように、支部の立ち上げメンバーだからな。田舎で能力が発現しちまった俺を支部へと誘ってくれたのが姉さんだ。で、後からスカウトしたアキラを鍛えたのが俺さ。あの頃は支部ってもんが全然無かったから、姉さんはあちこちを回って感染者を捕まえたり、助けたりしてたらしいぜ」
「へぇ……大変だったでしょうね」
「そりゃそうさ。だから今は支部を全国各地に設置して狭い範囲で感染者の対策をしてんのさ」
「なるほど……」
今よりもよっぽど厳しい条件で、焔さんは頑張っていたんだな。
益々、役にたてるようにやらないとだ。
「さ、テキトーにぶらつこうぜ。店員にさっきの似顔絵を見せて、見掛けた人がいないか聞いてみよう。……なるべく離れないように、二手に別れるか。もしなにかあればちゃんと連絡をしようや」
「了解です!」
インカムの位置を整え、頷く。
特殊なインカムらしく、激しい戦闘になってもそう簡単には壊れないらしい。これで、安心して行動に移せる。
件の連中じゃなくとも、感染者に出会う可能性は十分あるからな。どんな相手にせよ、連絡は怠らないようにするか。
「じゃ、入り口の方から出口まで歩いていくからよ、レイラは商店街の周りで聞き込みをしてくれ。それなりに広い商店街だから大変だろうが、頑張ろうぜ」
「はい!」
すぐに梶さんが商店街へと入っていき、俺も外側へと歩く。
何か、分かれば良いが。
*
「……どうだった?」
「駄目でした……」
数時間後、広場にあるイスに座りながら互いの成果を報告した。
が、何も得るものは無かった。
ちなみに俺の方は話好きなおばさんの世間話に付き合わされたくらいだ。
「俺もだ。まー深夜に戦ったみたいだしなァ……見てる人なんかいやしねぇ。感染者も特に無し。平和なのは良いことだけどよ」
「ですね……。もう時間も遅いですし、自分達は戻りますか?」
梶さんは椅子に深く腰掛け、息をついた。
「だな。姉さん達が何か掴んだかもしれんし、このまま戻ろ━━」
その時。梶さんの顔が真剣になり、立ち上がって何かを蹴り飛ばした。
「か、梶さん!?」
「レイラ、戦闘準備! 何か飛んできたやがった。攻撃だ!」
すぐに体勢を整え、周りを見渡す。
敵は、すぐに見付かった。
「伊藤達をやったのはこのオールバックか?」
「あぁ。ま、大した奴じゃねぇだろ」
柄の悪い男の二人組が、武器を構えながらこちらへと歩いてきた。
飛ばしたのは、クロスボウの矢のようだ。
「あぁ、あの雑魚のお仲間か? 懲りないな」
「うるせぇ。俺達を伊藤達と同じ雑魚と思うなよ」
「口だけなら何とでも言えるわな。レイラ、行くぜ。相手は二人、場所は商店街。被害が出る前に速攻で片付ける。俺が前衛、レイラは後衛で連携してくぞ。ぶっつけ本番だが……何とかなるだろ」
「は、はい!」
緩んでいた気持ちを引き締め、戦いの準備をする。
相手は恐らく組織のメンバー。今まで出会った感染者よりも強いかもしれない。
「姉さん達に良い土産が出来る、勝とうぜ!」
「はい!!」




