第十三話 本気の手合わせ
「━━とんでも……ハァ……ないな……!」
「だから言ったろ、リョーコは強いって!」
その場から動きもせず、まるで嵐のように炎を放ち続ける焔さん。
なんとか能力で炎を防ぎながら、様子を見る。
「動かなければ勝てないが……どうかしたか?」
「良く言うよ、全く!」
挑発的に笑う焔さんを見て、隣にいるアキラが怒っていた。
動くと言われてもあれほどの弾幕の中、飛び出す勇気は流石に無い。
「レイラ、手を消さずに真っ直ぐリョーコのいる所まで移動させられる?」
痺れを切らしたのか、アキラがそう俺に提案をする。
「やったことは無いが……多分いける。そう意識すれば可能な筈だ」
「よし。なら近くまで手を盾にしながらリョーコまで近付こう! そこから、僕が飛び出して近接戦闘に持ち込む。リョーコはどの距離でも強いけど、僕の能力ならフィジカルで上回れる筈だからね」
「分かった。なら……行くぞ! 『勇気の手』!」
提案に乗り、手を消さずにそのまま焔さんへと飛ばす。その後ろで俺とアキラが同時に走っていく。
俺の能力が盾となり、無数の炎もこれでなんとか防げる。
「成る程、そう来たか。レイラの能力の防御力は凄まじいね。……でも、能力者としてはまだまだ未熟だな」
だが焔さんは炎を放つのを止めて、こちらへと接近し始めた。
「わざわざ突っ込んでくるなら好都合さ! 『狼女』!」
迎え撃つ様にアキラが変身をしながら飛び出し、焔さんへと接近していく。
「しゃあ!!」
アキラは走る勢いのまま跳び、右爪を焔さんへと振り下ろす。焔さんは微笑んだまま、指をならした。
「━━足下注意、だな。『地を這う炎』」
「っ!?」
合図と共に、アキラの足元から炎が上へと飛び出した。アキラは咄嗟に体を旋回させ、炎を弾く。
しかし、その隙に焔さんが目の前まで迫っていた。
「『赤砲波』」
「ぐっ!」
焔さんは両手を前に翳し、密度の濃い炎をアキラへと放った。当たると同時に爆発を起こし、アキラが俺の側まで吹き飛ばされた。
「アキラ!」
「大丈夫、だよ。まだ動けるさ。……くそっ、一枚も二枚も上手か。流石だね」
「……全く、だな」
痛みやダメージは無い様だが、アキラは悔しそうに牙を剥いていた。
あれが、焔さんか。リーダーと言うだけあり、ここまで強いなんて。俺が出来ることはあるのか……?
「アキラ。君の悪い癖だ。凄まじいフィジカルにかまけて、勢いのまま突進するな。あれで倒せる敵なら良いが、もう少し慎重に動くといい。それに、アキラが前に出過ぎるとパートナーも援護をしにくいだろう。視野を広く持て」
「う。わ、分かったよ」
「よし。……そして、レイラ! 君はその逆だ。防御力の高い能力を持っているからか、君は慎重すぎる。君の能力は咄嗟に出来る事が多い筈なのに、深読みし過ぎて全く攻撃に入ろうとしていない。戦闘経験が浅いのは理解しているが、今から直していかないとクセになるぞ」
「は、はい! 善処します!」
焔さんは顔色を変えずに、淡々と俺達に説教をしてきた。
……一応、本気で戦っているつもりなのに。焔さんからすれば指導の一環みたくなっていないか?
にしても……攻撃、か。確かにここ最近、攻撃ではなく防御や捕獲に能力を使ってばかりだな。
大型トラックをも止めることの出来るパワーを、攻撃に使えていない。
試してみるか。
「……アキラ、一つ試したいことがある」
「へぇ? 聞かせてよ」
「ああ。それは━━」
アキラに作戦を教えると、驚きの表情を浮かべた。
「それ、僕も結構危なくない? 最悪、僕だけリタイアしそうなんだけど」
「わ、分かってるさ。でも、生半可な手は通じないんだ。失敗しても死にはしないんだし、協力してくれないか?」
「……良いよ。面白いじゃん。ただし、きっちり決めてよ!」
「勿論だ!」
話を終え、能力の準備をする。
賭けだが、決まれば焔さんでも一撃で倒せるかもしれない。
「何か、作戦会議をしていた様だね。見せてごらん」
「ええ、お見せします。……『勇気の手』! アキラをぶん投げろ!」
「━━!?」
出現した白い手が、アキラを優しく握り……焔さんの上を目掛けて思い切り投げた。
「ぐぐぐぐ……! 凄いね、これ!」
投げられた勢いに驚きながらも、アキラはしっかりと体勢を整えて焔さんへと迫る。
焔さんは驚いていたが、笑った。
「ハハ、中々に奇抜だ。だが……それだけでは勝てないぞ!『赤の━━』!」
「━━今だ、レイラァ!」
焔さんの攻撃対象がアキラに移った瞬間、アキラが大声で叫んだ。
それが聞こえたと同時に能力を再び発動させる。
「『勇気の手』! 焔さんを思い切り殴れ!!」
「なっ!?」
合図と共に白い手が焔さんの目の前に出現し、アキラに気をとられていた焔さんを思い切り殴り抜いた。
防御が間に合わなかった様で、焔さんは部屋の端まで吹き飛ばされていく。
直撃すれば、巨人すら倒せる拳だ。倒せたかどうかは分からないが、かなりのダメージの筈だ。
「上手くいったね、レイラ!」
「ああ! 囮にして悪かった!」
「良いさ、チームプレーだよ!」
着地したアキラが大声でこちらに話し掛けてきた。加減無しで投げたものの、ダメージは無いみたいだな。
作戦は成功した。だが……本当にこれで焔さんを倒せたのか? 強さを知っているからこそ、不安が拭えない。
「……良い連携だった。二人とも」
「!!」
嫌な予感が的中し、焔さんは平然と立ち上がってこちらへ歩いてきた。確実に命中した筈なのに、何故だ?
「あれ喰らって立つのか。何したのさ、リョーコ」
「ん? ああ。拳を受ける寸前に自ら後ろへ跳んだだけだよ。威力は殺げたけど、ダメージは入っているさ。にしても、良い作戦だな。私の能力は基本的に自分が向いている方向にしか攻撃が出来ない。そこでアキラを囮に使ってその隙を突いた訳だ。やるね」
「……ありがとうございます」
パチパチと余裕の表情を浮かべながら拍手をする焔さん。
くそ、あれで倒せないなんて。予想外だ。
「でも、やはり勝ちは譲れない。君たちを過小評価しているつもりは無いが、譲れないんだ。分かってくれ」
「……それは、戦いが終わってから言いなよ」
「ふ、その通りだな。ならば終わらせよう。私の全力……その片鱗をお見せする」
焔さんは真剣な表情に変わり、両手に炎を集めて上空へと放つ。
放たれた炎は、信じられない程の大きさに拡がり……鳥のような姿へ変化していく。
「な!?」
アキラも初めて見るようで、大粒の汗をかいていた。
「━━『紅蓮朱雀』。さぁ……凌いで見せろ!!」
巨大な火の鳥は、巨躯に見合わぬスピードで俺達の方へと飛んできた。どう考えても、まともに受ければそれで終わりだ。なら……!
「掻き消せ、『勇気の手』!」
攻撃がこちらに到達する前に、空中で消し去ってやる。命令を受けた白い手が火の鳥の前に出現し、払うようにして火の鳥へと攻撃を仕掛けた。だが
「無駄だ」
焔さんの言葉の通り、火の鳥は手が当たる瞬間に分裂し……二体の火の鳥となって俺とアキラへと急接近してきた。
「くっ!」
火の鳥はもう目の前まで迫っており、能力で俺を投げさせようとするが……間に合わなかった。
「『紅蓮朱雀』。爆ぜろ!!」
火の鳥は俺達の目の前で爆発し、無数の羽が銃弾のように辺りへと飛び散った。防ぐ手段など無く……羽を全身に浴びた。
痛みこそ無かったが、指一つ動かせなくなる。
「ぐ……動け……ない……!!」
「終わりだな」
焔さんは倒れた俺達の元へ歩き、見下ろす様に顔を見てきた。
強い。これが、支部のリーダー。同じ能力者でもここまで違うなんて。
「あー……くっそぉ。まだ勝てないのか。参ったね」
「前回よりは動きが良くなっているよ。ただ、さっきも言ったように悪い癖が直ってない。精進するといい」
「……ぐうの音も出ないや。悪かったよ、生意気言ってさ」
「いや、こちらこそ謝らないといけない」
先程の発言に対してアキラが謝ると、焔さんも同じように謝った。
「私も焦っていたのかな。アキラの提案を頭ごなしに否定してしまった。効率で言えばアキラの提案は正しいからね。悪かった」
「良いよ、もう。リョーコやカゲが苦戦する相手なら、そりゃ心配もするよね。これからはリョーコの指示に従うさ」
「助かるよ。……レイラもそれで良いか?」
「あ、はい。自分はむしろ始めから焔さんの指示に従うつもりだったので」
そうか、と呟いて焔さんは息をついた。
程なくして、一色さんがこちらへと歩いてくる。
「一件落着、ですかね? たまにはこうやってぶつかるのも悪くはないと思いますよ。でも……アキラちゃんも焔さんもちょっと短気ですよ。それに振り回されるのはアタシなんですからね?」
「う。わ、悪かったよ。楓」
「ご、ごめん……」
「はは……」
呆れたように笑う一色さんに、焔さんとアキラは気まずそうに苦笑いをしていて……その光景に思わず笑みが溢れた。
何だかんだ、良いチームなんだな。
*
「あぁー……疲れたな」
久しぶりに支部へと戻るため、この街に戻ってきた。都会よりは騒がしくないが、故郷と比べてしまえば人が多くて疲れる。
長い事電車に揺られていたので、予想以上に疲れてしまった。
「行くか。アキラの奴、ちったぁ強くなったかな」
姉さんは心配無いだろうが、アキラはまだまだ若い。強力な能力とは言え、まだまだ未熟だからな。また稽古を付けてやらねぇと。
「━━おい」
「あぁ?」
すると突然背後から声を掛けられ、振り向く。そこには二人の男が立っていた。明らかに敵意を向けてやがる、何のつもりだ?
「お前、梶 迅太郎だな?」
「……だったらどうした? 今忙しいんだが何か用か?」
「心配しなくとも直ぐに済むさ。……死ね!」
いきなり二人がこちらへ接近し、片方の男が大振りの刃物を振り回してきた。
咄嗟に足元へ能力を発動させ、上に跳ぶ。
「おーおー、とんだ挨拶じゃねぇか。てめェら、組織かよ?」
「答える必要はねぇな! おら!」
もう片方の男が拳銃を構え、撃ってきた。だが銃声が聞こえない。
能力か。
「ふっ!」
能力で小型のナイフを出現させ、刃の腹を使って銃弾を弾く。
弾いた銃弾は空中で消え去った。銃は本物だが、弾丸は能力ってワケか。暗殺向けの能力か?
にしても、銃かよ。ムカつくなァ……!
少し距離を置いた場所に着地し、体勢を整える。
「━━雑魚が、あんまり調子に乗るんじゃねぇぞ」
怒りに身を任せ、能力を発動させる。
こいつら倒せば、組織について何か話すだろ。丁度良い土産になるってもんだ。
「ちょっと痛いが、我慢しろよ! 雑魚ども!!」
姉さん、アキラ、楓。ちょいと待ってな。さっさと片付けるからよ━━!




