第百七話 姉妹
「始まったか……」
足から炎をジェット機のように噴射し、空中に留まる焔。
高い位置から戦況を冷静に確認していた。
━━遠阪と鋼が対峙したか。援護するべきなんだろうが……今はたった一人でも人数を割きたくない。他の場所でも戦いが始まっているし一対一はむしろ好都合だ。遠阪一人で能力を授かった鋼を倒せたら私達が一気に優勢になる。
今は、遠阪の勝利を信じるしかない。頼んだぞ。
「……ん?」
気が付くと、焔の髪を撫でる程度の微風が吹いていた。
普通ならば気にする必要はない。だが、ここは聖戦の舞台━━風など吹く筈が無かった。
「なるほど、君らか」
焔は辺りに風が吹いた理由を察し、後ろを振り向いた。そこには……風を纏い宙に浮かぶ少女が佇んでいた。
島崎風花。双子の妹である音羽と共に焔と戦った組織の能力者である。
「会うのは三度目だな、焔」
「そうだったね。……私の前に立つと言うことは、君も力を授かったのか?」
「さぁ、どうだろうな」
焔の問いに、はぐらかすように嘲笑を浮かべる風花。
力を授かれる能力者はたったの五人。誰が力を授かったのかを知れれば情報として大きなアドバンテージとなる。故に風花は余計な情報を与えようとはしなかった。
「ま、そう簡単に話してはくれないか。……言っておくが、私はまだ許したつもりはないからな」
焔は確かな怒りと共に、自身に纏う炎を強めた。
焔の周囲が乾燥し、風花の纏う風が熱風へと変わる。乾燥した空気が風花の唇を切るほどに。
「……こちらも、許したつもりはないッ!」
だが風花も負けじと風力を上げる。さながら台風かのような風が風花を包んでいく。
「━━それもそうか」
焔は目を静かに伏せるが、すぐに視線を戻す。
━━この双子は必ずセットで動く筈だ。片割れも何処かで私を見ている筈。
彼女の声は厄介だ、早いところ居場所を把握したい。そしてなにより、どちらが力を授かったのかも確かめたいな。どちらも、という可能性も考慮する必要もあるが。
「ハァッ!!」
風花は風力を更に上げ、高層ビルを激しく揺らし窓ガラスを風圧で叩き割る。
粉々になったガラス片やコンクリートを風で巻き込み、槍のような形に整え絶え間なく風力で回転させていく。
「……さながら鑿岩機、と言ったところか? 器用だな」
「ただのガラス片やコンクリートと言えど、当たれば痛いぞ。精々━━躱してみろ!!」
細く鋭く成型された風の鑿岩機を、風花は勢いよく焔へと発射させる。
その数、十と少し。まともに受ければ、防いだ部位が削られてしまうだろう。
「見くびられたものだ。『紅の拳』!!」
が、焔は意に介さず炎を纏った拳で殴り付けその全てを燃やし消滅させていく。
防ぐことが難しい攻撃であれど、そもそも触ることが出来なければ意味がなかった。
だが
「そう来ると━━思っていた!!」
「!」
一瞬にして焔の背後に回っていた風花は、焔目掛けて全力の風をぶつけていた。
さながら、巨大な何かに押し潰されるような風圧が焔の全身に重くのし掛かる。
「くっ!」
「墜ちろ、化物!」
地上であれば難なくいなすことが出来たであろう攻撃。だが焔は空中での移動や攻撃に慣れていなかった。それでも並大抵の攻撃ならどうにか出来てしまうのが焔だったが、相手が悪い。
風花の能力、『風を操る者』。空中戦ならば焔をも上回る。
「なんという風圧……!」
焔はダメージこそ受けていなかったものの、一気に地上近くまで叩き落とされてしまう。
制空権を取られてしまったこともまずいことだが、風花の狙いはそれだけではなかった。
「……私は風を操れるから飛ぶことは可能だ。だが、妹はそうもいかない。しかし私たちは二人で組んでこそ実力を発揮できるんだ。ならば、どうするか?」
再び上空へと上がろうとする焔の近くへと、物陰から迫る影が一つ。
「上下で挟んでしまえばいい」
「━━アッハハハハハハハァ!!!」
「っ!?」
壊れたような笑い声を上げながら、音羽が一瞬にして焔の眼前へと迫る。
遥かにスピードとパワーが増した自己暗示による強化は、地上にて焔以上の身体能力を発揮していた。
「上には私!」
「下には私ィ!!」
「━━抜け出してみろ!!」
「━━抜け出せないよォ!?」
勢いのまま放たれた音羽の拳が、焔の鳩尾を打ち抜いた。




