第百六話 力比べ
「私達が与える力は、大きな変化をもたらすような物ではないんだ」
コーヒーを一口のみ、焔はそう言った。
「例えばアキラの能力に私の力を渡したとしよう。そうするとアキラが持つ狼の力は強化され、より速く強靭になり能力の理解が深まるのは間違いない。が、私の力を与えたからといって発火能力などが新たに目覚めるような事はない、というわけだ」
「感覚としては……そうだな。もう一段階能力が進化する。うん、それが一番近い表現かな。従来の進化能力のように抱いた欲や願いに応じた新しい力が目覚めることはあるかもしれないな」
カップに入ったコーヒーを机に置き、腕を組む。
「力を与えた皆がどのように進化するかは流石に私にも分からない。分かっているのは━━」
「━━遥かに強くなる。それだけだ」
焔は優しく、微笑んだ。
※
「一体、どうなってやがる!?」
鋼が連続で繰り出す斧での攻撃を遠阪は生身で防ぎ、躱し、反撃をする。
本来の力量差ならば防ぐことは不可能な威力であるが、遠阪は難なく防ぎきっていた。
鋼は大振りで遠阪を吹き飛ばし、一息付く。
「パワーが上がっている、それは別に良い。力を貰った以上、身体能力は跳ね上がるからな。だが……上がりすぎだ! しかもお前……」
「能力を使ってないのにってか? さーて、どういうことだろうな?」
遠阪はニタニタと笑う。
遠阪の能力、『十把一絡げ』は自身のコピーを十体作り、操る能力。
能力発動時、本体の装備や服装を参照とするので多角的な攻撃を得意とする万能型の能力だ。
代わりにコピーを破壊すれば一体につき死に至る十分の一ダメージが本体へと返るデメリットがある。つまりはコピーを全員破壊されれば確実に死ぬ。
前回も戦ったことから、鋼は遠阪の能力を良く知っていた。
勝負さえ急がなければ負けることはないと考えていたのだが……今の状況は想定外だ。
「……ふー」
しかし。一見優位に立っているように見えていた遠阪は、ギリギリの戦いを強いられていた。
鋼のパワーは想定以上に上がっており、防げているから良いもののまだ身体能力は鋼のが上だ。まともに喰らえば形勢はひっくり返る。
加えて、鋼は一つ勘違いをしていた。
遠阪は能力を使用しているからだ。
━━多分鋼は、オレが能力を使わずに戦ってると勘違いしてんだろうな。好都合だがよ。
遠阪の能力は、蒼貞から貰った力で進化していた。だがその力は、強大なメリットと同時に致命的なデメリットもあるものだった。
※
「なるほどな、この能力は……」
決戦の少し前。支部の訓練場にて、蒼貞と遠阪は模擬戦を繰り返していた。
新しく得た力に振り回され、まともに戦えていない遠阪だったが、蒼貞は遠阪の力の正体について感づいてる様子だ。
「ぜぇ……何が……分かったんですかい……?」
寝そべり、荒い呼吸を繰り返しながら遠阪は蒼貞に聞いた。
「お前の能力だよ。遠阪、お前の能力はコピーを十体作り出すモノ。そうだな?」
「はい……コピーを作り出して操る感じですね」
遠阪は呼吸を整え、起き上がる。
「なるほど……ならお前の新しい力はその真逆だな」
「真逆?」
「ああ。数の力の逆……個の力だ」
「!?」
伝えられた事実に、遠阪の脳裏は嫌な記憶が甦る。
数の力によってもたらされた、自身にとってのトラウマを。
「お前の能力は自分自身を強化せず、数を増やすことで戦力を増やすのが主な目的だと思うが、新しく授かった力は全くの逆。数を増やさないことで己を強化するんだろうな」
「……ただの身体強化って事ですか?」
「いや、少し違う。本体に自分の分身を重ねる能力だ。ちょっとややこしいが……お前なら使いこなせるだろ」
蒼貞は笑い、腕を組みながら遠阪の方へと近付く。
「そら、続きやるぞ。新しい力……使いこなせよ?」
「……へっ。分かりましたよ!」
※
━━自分に分身を重ねる。そうすることで身体能力はおおよそ十倍近く跳ね上がる。
加えて分身を破壊されダメージを負うデメリットは無くなるが……それはつまり。
分身を身代わりにする戦法は使えないということだ。策を労し、撹乱するオレのスタイルとは真逆。真っ向からの勝負になる。
繰り返される鋼の攻撃を捌き、跳躍して鋼の腹を蹴り付け、その勢いで後ろへと飛ぶ。
「ぐっ! ちょこまかと!」
━━しかも、だ。この状態のオレは分身を重ねているからかダメージが倍増するデメリットまである。
高い身体能力の代わりにダメージを受けやすい状態になっているということ。……全く、扱いにくい力だ。
「ま、オレらしいかもな」
皮肉混じりに遠阪は呟き、空手のような構えで鋼の動向を見る。
強化された能力、積んだ研鑽が遠阪の身体を支えるかのような安定感だ。
「けっ。お前は本当に面倒な相手だよ。お前をぶっとばさねぇと俺もここを離れられない事はよーく分かったぜ」
「当たり前だ。オレもお前を野放しにしたくはないからよ」
「……お互い、利害は一致したってか?」
「そうかもな?」
漢達は再び笑う。
友としてではなく、仲間としてでもなく。
ただただ純粋に、強敵との力比べをする喜びを感じながら。




