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第13話 聖女を襲う思わぬトラブルと、無意識ぽんぽん 後編

激しい怒り。

そして何より、自分の身勝手な行動で彼女をこんな危険に巻き込んでしまったという自責の念が襲い、俺の思考は真っ白に染まっていた——



  ガタンッ!!



「ちょっと待ってくれ!やめてくれ!!」


気づいた時には、俺はなりふり構わずその空き教室の引き戸を派手に蹴り開け、中に飛び込んでいた。



((っ!?))


「護くんっ?!」



一斉に振り向く三人。

男たちの顔には驚愕が、深月さんの顔には信じられないものを見たような驚きが浮かんでいる。


その一瞬の空白を縫うように、俺は全力で床を蹴って駆け出し、深月さんと不良二人の間に強引に割り込んでゆくと、深月さんは俺の背中の後ろへと怯えたように駆け寄ってきた。


(はっ?おまえ御子柴じゃねぇか?なにしてんだよ……あ?)


深月さんの腕を掴もうとしていた男が、舌打ちをして俺を凄みのある目で睨みつけてくる。

一方でその後ろにいるもう一人の男は、焦ったように前の男の肩を抑えて制止しようとしていた。まるで仲間割れしているようだ。



何もかも、俺のせいだ。全ての責任は俺が取るべきだ……だから俺は——



「深月さんは何も悪くないだろ!?全部俺が悪いんだ!俺がバカをやったから!……痛めつけたいなら俺にしてくれっ!!俺なら蹴ろうが殴ろうが構わない!手も出さない!!だから彼女だけには手を出さないでくれっ!!お願いだっ、この通り!!頼むっ!!」


視界には埃まみれの薄汚れた教室の床が映る。

俺はその男たちに向かって腰を曲げ、深く深く頭を下げていた。


漫画の主人公みたいに相手を鮮やかにぶっ飛ばすような、かっこいい救出劇なんて俺には出来ない。俺は喧嘩なんてしたこともない非力な人間なのだ。


だから、どれだけ無様で惨めだろうともプライドを捨てて頭を下げて、彼らの情けに訴えかけるしかなかった。


後は好きなだけこの身体を痛めつければいい。

そのくらいの痛み、いくらでも背負ってやる。俺にはその責任があるんだから。


「まっ、護くん!?何をしてっ!?」


背後から深月さんが俺の肩に震える手を乗せて、悲痛な声で呼びかけてくる。

そんな中、俺はただひたすらに石のように頭を下げ続けた。


(おいっ……もういいだろ?!御子柴が代わりに頭下げてんだからよ?なっ?!いこうぜっ?!流石にヤバいって……)

(…………)


数秒の重苦しい沈黙の後。

目の前から刺すような暴力のプレッシャーがふと消えたのが分かった。

そして男の舌打ちと共に、声のトーンが露骨に落ちた。


(なんだこのヘタレストーカー野郎……だっせー……もういいわ、なんか冷めたし……行くか……)


その吐き捨てるような声のあと、床を乱暴に踏み鳴らす足音が俺の目の前から遠ざかっていく気配がした。


「ちょっとあなた達っ——」

「深月さんっ!!」


深月さんが怒りに任せてその二人に何か言い返そうとしたのを、俺は慌てて顔を上げて手で制止した。俺のその声色に驚いたのか、深月さんがピタリと声を止める。


「お願い深月さん……今はやめて……」

「護くん……どうして?」


どうしてか……そんなの考えるまでもない。


今、せっかく戦意を喪失した二人を下手に刺激してまた逆上させたら、それこそ本当に深月さんが危ないからだ。

俺の腕力では、本気になった不良二人から彼女を守り切ることはできない。

情けないけれど、それが現実だ。


教室の扉が乱暴に閉められ、二人の男が完全に立ち去ったのを見送ってから、俺はゆっくりと深月さんの方へ振り返った。


そこには学園の聖女としての虚勢を張りながらも、恐怖を必死に堪えていた彼女の脆く青ざめた顔があった。


「ごめんね深月さん。俺のせいでこんな目に合わせて……怖かったよね?本当にごめん……」


微かに華奢な肩を震わせる彼女に、俺はできるだけ優しい声をかけようとした。

たとえ財閥のご令嬢であろうと、圧倒的な権力を持っていようと、彼女もまた一人のか弱い女の子に変わりない……その事実が今更ながら痛いほどよくわかった。


俺が申し訳なさで目を伏せ、彼女に向けたただ純粋な気遣いの言葉。

それに、彼女が泣き出しそうな優しい微笑みを向けた次の瞬間だった。



    きゅ……。



俺の胸に倒れ込むようにして深月さんの身体が重なり、細い両腕が俺の肩に回る。


次いで頬に彼女のひんやりとした頬が触れ、胸には……あまりにも柔らかく、暴力的な質量を持ったそれが、むにゅりと押し付けられて。


「ちょっ?!深月さんっ?!いきなりなにを……」


……まさかの……そうくる?!

流石に予想外すぎるハグの直撃に驚き、俺の全身は再び石のように硬直。

そんな若干パニック状態の俺の耳元で、深月さんが微かに熱を帯びた声で囁いてくる。


「ごめんなさい、胸を借りて……ああいうのは慣れているつもりでしたが、やっぱり少し怖かったです…………護くんは、なんでここがわかったんですか?」

「それは……トイレから出たらどこにもいなかったから、探したんだよ……」

「うふふっ……そうですか……」


その甘い囁きに乗って、彼女の高貴な香りが俺の肺の奥底まで満たしてゆく。

密着した柔らかな身体からダイレクトに伝わってくる、確かな鼓動と温かい体温に、これ以上声が出せない。


「ありがとう護くん……わたくしを守ってくれて……」


そう口にした彼女の身体は、まだ微かに小刻みに震えていた。

それに気づいた俺は、いつもの耀を慰めている時のクセなのか、無意識に深月さんの華奢な背中に腕を回し、優しくポンポンと叩いてなだめていた。


こうして、意図せず無人の空き教室で、俺は深月さんとしっかりと抱き合う形となってしまい……。

俺の肩に顔を埋める彼女はどこか嬉しそうに、俺の背中に回した腕に力を込めていたことに、この時の俺は全く気づいていなかった。


この事件から数日後、この二人の男の退学処分が決まったのは言うまでもないだろう——



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