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第12話 聖女を襲う思わぬトラブルと、無意識ぽんぽん 前編

それは、あの張り紙が掲示板に貼られてから数日後。

すっかり俺の周辺からノイズが消え失せ、静寂が戻り始めた時に起こった——


俺はあの日を境に、学内において完全な腫れ物となっていた。

まあ、下手に俺に触れたり関わったりすれば聖女の逆鱗に触れ、過保護な正義の鉄槌が下される可能性があるのだから、誰も寄り付かなくなるのは当たり前だ。


そして、今日も深月さんからの重たい保護を一身に浴び続けて迎えた放課後。

俺は帰宅するために教室を出たのだが、急にもよおしてしまい廊下のトイレに寄ることにした。


その時も例に漏れず俺の隣には深月さんがいて、この後はあの黒塗りの送迎車で送迎される運命にあることから……俺は彼女にトイレ前で待っていてもらい、すぐに用を済ませて外に出たのだが……。


「あれ?深月さんは……?」


外に出て辺りを見渡すも、どこにも彼女の白銀の髪は見当たらない。

しかし、タイミング的に彼女も隣の女子トイレに行っている可能性は十分にあるわけで。俺はなんとも思わず、その場で彼女が出てくるのを壁に寄りかかって待っていた——


時間にして五分ほど。

女の子だから色々あるとは思うが……流石に少し遅い気がする。


「どこ行ったんだろう?流石に先に帰るわけにもいかないし……一応連絡入れてみるか……」


そう思い立ち、俺はスマホを取り出し『今どこにいるの?』という短いテキストを送信してみたが、数分経ってもそれは既読にすらならない。


不思議に思った俺は、なんとなくトイレの周辺をウロウロと探し回っていると、いつの間にかトイレからだいぶ離れた所まで来ていた。

その時、微かに俺の耳を掠めた声が一つ——


「ですからっ……あなた達は何が言いたいんですかっ?!」


その声は聞き間違う訳もなく、明らかに深月さんのものだった。

それも、普段のどこか余裕のある温厚なトーンではなく、明確な焦りが混じった切羽詰まった声。


それが鼓膜を揺らした途端、俺の心臓がドクンと嫌な音を立て、額に冷ややかな汗が伝ってゆく。


……深月さん?!どこにいるんだよ?!


俺は足音を殺し、壁伝いにその声の出所を追ってゆく。

その途中、粗野で低い男の声が聞こえてきた。


(だからよぉ?お嬢様はなんであの御子柴ってやつの肩もってんだよって話よ?まさか付き合ってるとかそんなワケないよなぁ?なんか財閥の令嬢だからって調子乗ってない?聖女とか言われて……つけあがるのもいい加減にしろよ?)

(マジでそれな……健太郎も香織も俺たちのダチだったんだよ。あいつらのこと嗅ぎ回ってチクったのあんただろ?……流石にやりすぎだろ退学は。考え直すように上に言ってくれないか?)


「肩を持つもなにも……あんな酷いことをしたんですから当然の結果じゃないですか!自業自得です!あれは悪戯だと言って許されるものでは決してありません!度を超えているのはあなた達もわかるでしょう?!」


声の元が近づくにつれ、密室でのやり取りが明確に俺の鼓膜を叩き始める。

どうやら状況は全く穏やかではないらしい……というか、明らかに俺が火種となった会話の展開に背筋が凍りついてゆく。


……香織……健太郎……?!


その名前に直接の面識はない……しかし記憶の片隅に見覚えがあった。

それは忘れもしない。あの張り紙に書かれていた退学処分を受けた2年生の名前。


(おい、このお嬢様一切謝んねーし交渉も出来ねーじゃねぇか?マジで調子乗ってんな……なんか腹たってきたわ。なぁ、こいつヤッちまわね?)

(おい……俺達は話に来たんだぞ?!流石にそれはまずいだろ?)


どんな学校にも不良というのは一定数存在する。権力の恐ろしさを想像できない、後先を考えないバカ達だが、この高校も例外ではないようだ。


あまりにも物騒でラインを越えようとしているそのやり取りに、俺は必死になってその声の大元を探した。


……マジかよ……こんな事になるなんて、深月さんまで危険に晒すなんて……俺は本当になんてことをしちゃったんだよ……。


本当に自分の考えの至らなさに、情けなくなる。


漏れ聞こえてくる会話の文脈から推測するに、どうやらあの停学になった二人組はこの不良風の奴らの仲間なのだろう。

そんな彼らは仲間の報復なのか、あろうことか深月さんに今まさに危害を加えようとしているようだ。


焦燥感がピークに達した時——俺はついにその現場の教室を見つけた。


そこは廊下の最奥にある無名の空き教室。

薄汚れた覗き窓越しに中を覗くと、黒板に背を向け、退路を断たれて追い詰められている深月さんと、その前に立ち塞がる二人の男の背中が見えた。


(どうせコイツに俺達もチクられるかもしれねぇなら、コイツのエロい身体くらい見ときてぇだろ?もうひん剥いちまおうぜ?それか写真撮って脅すとか……)

(おいっ?!バカやめろって、話すだけって言ってたろ?!やり過ぎだ!!)


次に俺の目に映ったのは、片方の粗暴そうな男が急に動きだし、あろうことか深月さんの細い腕を掴もうと手を伸ばし始める所で——


「きゃっ?!……ちょっと!?なにするんですか?!触らないでっ!イヤっ!」


……深月さんっ?!


響く深月さんの悲痛な声に視界が揺らぐ。

刹那、俺の中で何かが切れる音がした——



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