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第11話 密会からの密着からの〜 後編

倉庫の安っぽいドア越しに声が届く——


(あんっ、カズ君強引なんだから……もうっ)

(いいだろ?誰もいないんだしキスくらい)

(しょうがないなぁ……ちょっとだけだよ?)

(……んっ♡)


……おいコイツら……マジか。


真っ昼間の学校の屋上には似つかわしくない、カップルの甘すぎる会話。

まあ、誰も来ない施錠された屋上というまるでエロゲのようなロケーション故に、そういうスポットになる事は確かに予想できるのだが。しかし、今それは困る。


俺は耀と密着壁ドンして倉庫に隠れているんだから。


(あんっ♡どこ触ってんの?そこあたし弱いんだよ?)

(知ってるよ……だから触ってるんだって)

(もうっ、もしかしてカズ君……エッチしたいの?)


……おい……おいおいおい待てって!?勘弁してくれマジでっ?!ここでおっぱじめんの?!


他人の生々しすぎるやり取りに耳をそばだてていると、健康な男子高校生としてはどうにも下半身が落ち着かない。ていうか、気まずすぎる。


そう思いながら冷や汗を流していた矢先、俺の耳元に外のバカップルよりもさらに熱を持った吐息が飛び込んできた。


「……護ぅ……なんか外の雰囲気、やばくない?」

「ああ……間違いなくヤバいな……」


そう言って耀の方を見ると、そこには息を荒くして、濡れたような艶やかな表情を浮かべた耀がいた。


……って、こっちもなんかヤバくないっ!?


「はぁ、はぁ、はぁ……まっ、まもるぅ……なんかウチもドキドキしてきちゃったんだけどぉ。なんか熱いし。この体制の……ううん、護のせいで……」

「おっ、俺?え、はあ?!」


……コイツなに急にエロがってんだよ?!今はそれどころじゃないんだって!


密室の中、至近距離で国民的ヒロインにエロがられるこっちの身にもなってほしい。

なにより、もしこんな状況で見つかったらマジで耀の女優人生が完全に終わるぞ?!


(あっ♡んっ♡カズ君ダメッ……あたしヤバいかも……)

(俺も……なぁ……いいだろ)

(……しょうがないなもう……)


……いやいや、良くないだろ全然?!どういう思考だよ?!万年発情期ですか?!ここ神聖なる学び舎ですけどぉ?!


カチャカチャという、ベルトのバックルを外す生々しい音を風が運んでくる。

まさに外でなにかがおっぱじまりそうな雰囲気の中……なぜか目の前の耀も完全にそれに当てられて、なにかおっぱじめそうな空気を醸し出している。


「ねぇ、まもるぅ……ウチさ……その……えっちな気分になってきちゃったんだが?」


……『えっちな気分になってきちゃったんだが?』じゃないんだが?てかその口癖のせいで妙に腹立つなコイツ。


「……なに言ってんだよバカ?!静かにしろって!見つかったらどうすんだよ?!」

「じゃあさ……ウチの口塞いだら?そしたら静かになるかもよ?」

「塞ぐってこんな狭い所で動けるはずないだろ?!音出たらどうすんだよ!?冗談よせって?!」

「ん?……塞げるが?……その……ちゅーなら……」


……正気かコイツ?こんなヤバい隠れんぼの最中でも、隙あらば俺をおちょくってくんのか?!


鼻腔をくすぐる甘い誘惑の香り、胸に押し付けられるおっぱい、耳を撫でる荒い吐息、そして暗闇の中で俺を見つめて唇をモニュモニュといじらしく動かす、世界一綺麗な顔。


……まずい、これ理性が持たん。だめだ……きばれ俺……。


俺はあくまで彼女のサポーターであり幼馴染であり親友。

耀を守る存在であり……決して彼女のキャリアを脅かすリスクになってはいけない。

それにコイツだって俺の事は親友でありメンケア係という認識で、本気で一線を超える気なんてないはずだ……だって今までずっとそうだったんだから。


……仕事命でそれ意外興味ないって自分で言ってたんだぞ?!コイツほんとなんなんだよ!?


ある意味、絶対絶命のピンチ。

倉庫内の気温が急激に上がり、冷や汗ならぬ別の汗が流れ始め、俺の脳内が煙を上げて目まぐるしく回転する。


このまま外のバカップルの一戦が始まると、下手したらそのあまりに生々しい音などに脳が焼かれ、正常な判断を失い、こっちまでその場の流れで一線超えさせられそうだ。


……どうすればいいの神様。助けてっ……!


そう心の中で十字を切って祈った瞬間——



    ガチャ……。



遠くから屋上へと続く扉が開く音が響き、次いで俺たちの頭上に落ちてきたのは天啓……ならぬ、清らかな聖女の声だった。


「あら?ここ鍵が空いていたのですね。不用心なこと……あとで用務員さんに言っておかなきゃ。それより護くんはいったいどこに行ったんでしょう?みんな階段を登っていったと言っていましたけど、流石にこんなところまでは…………きゃ!?」


((あ゛っ!!))


確実にそれは聖女——深月さんの声であり……信じられないものを見た悲鳴だった。

それに反応して聞こえる、発情期を邪魔されたバカップルの驚愕の叫び。


「あっ……あなた達こんな所でなにを……ってちょっと?!やっ……ヤッてません?!なんてことっ?!」


((あのっ……!あのっ……))


「お二人ともすぐに下を履いてわたくしと職員室へ来なさいっ!こんな所でなんて事をしているんですか?!限度というものがあるでしょう!?」


外で響き渡る聖女の烈火のごとき怒声。

その恐ろしいまでの空気感が、倉庫の中にまでビリビリと伝わってくるやいなや、すぐに三人の足音と声が遠ざかり去ってゆく。


まあ、色々と謎な所はある。

なぜ深月さんがここにいるのか、というか、なぜ強依存ヤンデレみたいに俺を探して追ってきたのか……でも、それはこの際は不問としよう。


マジで助かったから。


……でも冷静に考えるとマジで怖い。俺、完全にストーキングされてない?


この感じだと、今後は耀との学内での密会もよほどの事がない限りは避けなければ……。


完全に外の気配が消え静寂が戻った事を確認した俺は、そっと倉庫の扉を開け外に足を踏み出す。

眩しい太陽の光が目に突き刺さり、ゆっくり目が慣れてゆくと、そこには何もない平穏な屋上が広がっていた。


「ふぅぅぅぅ……あっぶねぇぇぇ……」


思わず肺の底から安堵の息が漏れだし、反射で大きく新鮮な空気を吸い込んでから、俺は後ろを振り返り耀を呼ぼうと顔を向けると——


「……チッ……む〜、護のばか……」


舌打ち交じりに文句を言って腕を組み、不機嫌そうに口を尖らせて拗ねた様子の国民的ヒロインがそこに立っていた——



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