第22話 計画
まあ、こいつが良い奴かどうかなんて一切興味なーし!
これまで俺は口を挟むことなく黙って聞いていたが、もう良いだろう。
「そろそろ本題に入れ」
「うん、そうだね⋯⋯」
オラシオンは頷くと、俺を誰かに紹介でもするように手を向けながら、またしてもロクサーヌとマウンへと話始めた。
「この人は既に知ってるけど⋯⋯実はこの街で、奴隷による武装蜂起の計画がある」
⋯⋯知らんが。
でも知ってる感出した方が、有能に見えそうだな。
もう少し黙って聞こう。
とりあえず、ウンウン頷いてみた。
オラシオンの言葉に、マウンは驚いた表情になり、ロクサーヌは首を傾げた。
お子様には武装蜂起ってのがピンと来ないようだ。
まあ、俺もよくわからんがな。
聞き返したのは、マウンだった。
「武装蜂起だと?」
「うん。そもそも話はバライアへの侵攻に遡るんだけど⋯⋯侵攻を計画したのはマーラン伯爵。教団の幹部で、魔族排斥派なんだ」
「聞いたことがある⋯⋯確かその立場を活かして奴隷売買で莫大な利益をあげているとか⋯⋯」
「そう。ただ現在では教団は魔族排斥派と融和派に揺れていてね」
融和派? 魔族は友達、怖くないよ! ってな感じか?
ふーん。
人間は皆魔族を奴隷にしようとしてるのかと思ったが、そうじゃない奴らもいるのか。
俺も『俺は悪い魔族じゃないぞ!』とか言った方がいいのかもな。
「バライア侵攻に際して、排斥派はマウン、君を騙して村に侵攻し、村の戦士を全て皆殺しにする予定だった⋯⋯その計画を知った私は、彼らより先に村へと侵攻し、できるだけ生かして奴隷船に乗せたんだ」
「そうか、それで⋯⋯ほとんど死者は出ず、捕虜としてこの街に連れてこられたと聞いてはいたが⋯⋯」
ああ、そのせいでくっさい船にパンパンに奴隷が積まれてたってことか。
「そう。それで、計画を挫かれた排斥派は、この倉庫に武器を集め、不満を溜めた奴隷を煽動し、武装蜂起させて今度こそ戦士を根絶やしにする予定だった。弱い女子供を従順な奴隷として売買し、利益を上げようとしてる、ってことさ。つまり君が生かされたのは、その武装蜂起の首領として先頭に立たせるためってこと」
しち面倒な事を考えるもんだ。
「でも、ここにこの人が来た。武装蜂起は成功するだろうね。でもそうなると人は『やっぱり魔族は恐ろしい』と排斥派に傾くかも知れない。結構難しい状況なのさ」
「お前はなぜこの街に派遣されたんだ?」
マウンの問いに、オラシオンは肩をすくめてから答えた。
「私は融和派一の実力者だからね。武装蜂起で死ねば御の字、もしかしたらどさくさに紛れて暗殺くらいは考えているかもね」
物騒なことだ。
でもわからん事が一つあるな。
「なぜ俺と戦うことにした?」
俺の疑問に、オラシオンはふっと笑みを浮かべた。
「わかってて聞いてるよね?」
「⋯⋯念のため、確認しておきたくてな」
「意地悪だなぁ」
そこからオラシオンが語ったのは⋯⋯。
オラシオンは結構坊ちゃんで、実家には奴隷が複数いたらしい。
その中に、オラシオンと同世代の少女がいた。
名はフェリス。
オラシオンは彼女と一緒になるために、人間と魔族、その両者が手を取り合える世界を目指そうと頑張った。
その為に勇者を目指し、魔王を倒して発言力を高め、人間と魔族、その二つの上にまずはオラシオンが立つ、と考えた。
だが、勇者認定戦の途中、自宅へと戻ったオラシオンが見たのは、フェリスを慰み物にした父だった。
激昂し、父親を殺害したオラシオンは認定から外され、フェリスはコイツの父親の行為と、それによってオラシオンの夢が破れた事、その二重のショックに耐えられず、自ら命を絶ったらしい。
「それ以来精神的に不安定で⋯⋯勇者のなり損ない、と言われると、彼女の無念が思い起こされて⋯⋯だから、さっきは本当にゴメンね」
オラシオンがマウンに頭を下げると⋯⋯。
「す、すまなかった! おまえがそんな奴とは知らず、失礼ばかりを⋯⋯おおお、俺は、俺はー!」
マウンが号泣しながら叫んでる。
暑苦しいな。
そんなマウンを苦笑いしながら見ていたオラシオンだったが、やがて俺の方を向いて言った。
「だいたい話すべき事は話した⋯⋯かな?」
いや。
勇者の話をせんかい!
と俺が思っていると、オラシオンは「あっ」と声を上げたあと、また話始めた。
「大事な事を忘れてたね」
思い出したか。
それまで横になっていたオラシオンは起き上がり、俺の前に跪くと⋯⋯。
「元勇者候補が一人、オラシオン。あなたの力、そして何より優しさ、それが胸に穿たれた楔となりました。彼女の無念を晴らすためにも、そしてなにより魔族と人間の融和、その為に粉骨砕身尽くします。是非あなたの旗下となることをお許し下さい」
いや⋯⋯どういうことだ?




