第23話 髪が伸びたころに
「そういうことかぁぁあああっ!」
オラシオンが跪くと、マウンが大声で叫んだ。
うるせーな。
「そんな大声だして、びっくりしちゃうじゃないのさ!」
ロクサーヌが注意している。
うん、もっともな指摘だ。
「いや、ウォーケン様の真意がそこにあったとは! なんという視野の広さ!」
「ど、どういうこと?」
「ウォーケン様は言っただろう?」
「な、何を?」
「『あいつはお前の仲間だろ?』と。狭い視野しか持たなかった俺には、オラシオンは敵としか思えなかった。しかし、全てを知るウォーケン様には見えていたのだ! オラシオンが我ら魔族の仲間だと!」
おおう⋯⋯。
めちゃくちゃ勘違いしてるじゃねーか。
これはさすがに⋯⋯。
俺はマウンの肩に手を置いて、訂正しようとしたが⋯⋯。
うわ。
めちゃくちゃ綺麗な目で俺を見てくる。
無理だ。
これは引き返せない。
「やっとわかってくれたか」
「やはりそうなのですね! 圧倒的な戦闘力だけではなく、広い視野、深謀遠慮! さすがは魔お⋯⋯っと、ウォーケン様! 俺はどこまでもあなたについて行きますよ!」
いいよ来なくて。
じっとしてて?
「なるほど、じゃあ私が仕えるのも問題はないですね、ウォーケン様⋯⋯とお呼びすればよろしいのですね」
オラシオンは跪いたままで言った。
うーん。
部下か。
めんどうだなぁ。
人手は欲しいが、仕えさせるとなると、あれだ、給料とか払わんといかんのだろ?
金なんて⋯⋯あ、まあ、あるか。
無くなれば払わなきゃ、こいつらも俺の部下なんて辞めるだろうし、いいか。
やっぱり出来る男ってのは、部下の一人や二人いないとな。
「よろしくな」
「はい、こちらこそ。⋯⋯そうだ、忠誠の証として、こちらを献上します。ニルニアス王国国王より直接下賜された物ですが、私の忠誠がどこにあるかという証を立てたいと思います、お受け取り下さい」
オラシオンはそう言うと、腕にはめていた黒いブレスレットを外して俺に差し出して来た。
なんか、小汚い品だな。
「これは⋯⋯貰ってもな」
「はい、もちろん『魔法返しの腕輪』など、ウォーケン様には不要でしょう。あくまでも私の忠誠⋯⋯」
えっ。
俺は途中からオラシオンの話など聞いていなかった。
これが、魔法返しの腕輪?
そういえばじいやが言ってたな、ニルニアス王国で、武功があった者に下賜されているって。
それがこの品ってことか?
やったぜ。
よくわからんが、ついに念願の魔法対策グッズを手に入れたぞ!
なら、もうこの街に用はない。
もっと言えば、この大陸にも、勇者にも用はない。
「⋯⋯で、船に積まれている者たちはどうしましょうか?」
おっと。
聞き流してたら、質問されてる。
あの臭い船にも、もう用はないな。
「奴隷として売りさばけばいい。安くすれば、すぐに買い手がつくだろう」
俺が言うと、マウンは表情を変えた。
が、特に何を言うでもなく黙りこんでいる。
対照的に、オラシオンは俺の言葉に頷いたあとで
「承知しました⋯⋯と言いたいところですが、それには資金が必要です、私の私財ではとても⋯⋯」
と言ってきた。
ふむ。
あ、そうだ。
もう任務なんてどうでもいいんだ、これも用済みだ。
俺は懐から袋を取り出し、オラシオンへと投げた。
「これを使え。もし余ったら、お前たちの給料にするがいい」
オラシオンが受け取った袋を開き、驚いた表情を浮かべて言った。
「何もかも⋯⋯お見通し、ってことですね? 改めて感服致しました」
ふふふ。
やはり給料が貰えると違うよな。
口では忠誠だなんだ言っても、給料が貰えないとなるとやる気なんて出ないもんだ。
「では、俺は一度魔王城に戻る⋯⋯じゃあな」
そうだ。
この魔法対策グッズがあれば、あの女をやっと俺のものにできる!
その喜びが抑えられず、立ち去ろうとしたら⋯⋯。
きゅっと袖を掴まれた。
ロクサーヌだ。
「旦那⋯⋯いっちゃうの⋯⋯?」
うーん、こうやって見ると、コイツも結構可愛らしい顔をしてるな。
髪を伸ばしたら似合いそうだ。
俺はロクサーヌの頭に、ポンと手を乗せて言った。
「ロクサーヌ、髪を伸ばせ。きっと似合う」
「えっ⋯⋯?」
「その髪が伸びたころ、また一緒にケーキを食おう。楽しみにしてるぞ」
「う、うん! 絶対だよ!」
「ああ」
きっとその頃には、またあのケーキが食べたくなる。
俺は確信していた。
こうして俺は三人と別れ⋯⋯。
最初に降り立った平原へと戻り、ペンダントを開いた。




