第20話 紛らわしい男
え? また接近戦?
学習能力ないな、接近戦だと駆け引きもクソもないからつまらねぇんだよなぁ。
お、さっきより速いな⋯⋯これは魔将軍でも見たことのないレベルだな。
あ、剣に松明の光が反射した、眩しっ!
一瞬、目を瞑っちゃったよ。
んじゃとりあえずパンチ⋯⋯っと、あっぶね、死んじゃうじゃん。
寸止めしたものの、どうしよっかな。
⋯⋯なんか、動き止まったな。
とりあえず、デコピンでもするか。
流石に死なんだろう。
えい、ペチィ!
⋯⋯って感じで、戦いは終わった。
いや、戦いでもないか。
んじゃ、あとはコイツが目を覚ましたら、勇者の居所でも聞き出そう。
「だ、旦那⋯⋯大丈夫かい?」
ロクサーヌが心配そうに話しかけてきた。
「ああ。大丈夫だ。こいつはちゃんと生きてる、殺しちゃいない」
「そうじゃないけど⋯⋯大丈夫そうだね」
ロクサーヌがほっと胸を撫でおろすような仕草をしていると、鎖巻かれ男⋯⋯マウンだったか? が話しかけてきた。
「お前⋯⋯いや、あんた何者だ? あのオラシオンをあっさりと⋯⋯」
「ん? 俺か? 俺は魔王⋯⋯」
そこまで言って考える。
『魔王直属軍、魔将軍のウォーケン』
これが俺の自己紹介の作法だと、じいやと魔王様に叩き込まれている。
でも、ここは敵地で、勇者探しは一応極秘任務だ。
なので言い直すことにした。
「いや⋯⋯とりあえず、ただのウォーケンってことで」
すると──少しの間固まったのち、突然マウンは跪いた。
「わかりました、ウォーケン様。命を救っていただき感謝致します。私は魔族たちの村、バライアが戦士長マウン。これまでの数々の非礼ご容赦頂きたい。これからはウォーケン様の手足として、この身をいかようにもお使い下さい」
急に畏まったな。
ははーん、あれだ。
村の掟で、命を救われたらその借りを返すまでは頑張る、みたいなやつだな。
まぁ、人手があったほうが勇者探しも楽だろう。
「わかった。力を借りることもあるだろう。まぁ、困ったらお互い様ってことで、あんま恩に着せる気もないからな?」
そもそも、コイツのことなんてここに来るまで一切知らなかったし。
だけど、利用できるなら利用する。
それができる男って奴だ。
できる男に俺はなる!
「おお⋯⋯なんという懐の深さ⋯⋯ありがとうございます!」
何かすごい感謝された。
それに、なんか、こいつの態度気持ちいいな。
あのいけ好かないグルゲニカに追従する時の参考になりそうだ。
俺はどんな事からも学べる男でありたい。
そんな事を考えていると⋯⋯。
「う、うーん⋯⋯ここは⋯⋯あ、そうか⋯⋯」
うめき声を上げたのち、オラシオンが目を覚ました。
まだ戦う気だとしても、この距離なら必勝だ。
「よぉ。じゃあ話してもらおうか」
すでに勇者に用があることは伝えている。
それはこいつも分かっているだろう。
「⋯⋯全てお見通し、いや、そうか、そこの二人は何も知らないもんね、わかったよ。敗者は勝者に従う、それがルールだよね」
こいつ、ものわかりがいいな。
そう思って眺めていると、オラシオンはロクサーヌの方を向いた。
「君を助けるためとはいえ、怖い思いをさせたね、ごめん」
「ど、どういうことさ!」
「君と一緒に暮してるおばあさん、あの人は変態貴族に、少女奴隷を斡旋しているんだ。ある程度の年齢まで育てて、そのあとで高値で売る、調べた限り、もう何人もそうしている」
⋯⋯なんか、全然興味ない話始まったな。
でも、『人の話はちゃんと聞け』って教育されているからな、黙っとこう。
「う、嘘だ!」
「残念だけど、本当だよ。私が若い女奴隷を買い集めているのは知っているだろう? 昔⋯⋯とても世話になった人がいてね、見ていられないんだ、若い女奴隷が、不幸になるのは⋯⋯」
「じゃ、じゃあ、若い女奴隷を買うたびに、しばらくして『壊れちゃった』とか言ってるのは、なんなのさ!」
「ん? ああ、なんでかわからないけど、最初私はとても怖がられてしまうんだ⋯⋯すごく壁を感じるんだよね、その壁が壊れる時、それが嬉しくてたまらないんだ⋯⋯あとマウン」
「なんだ?」
「さっきはごめんね、私は勇者の出来損ないって言われると、頭に血がのぼって⋯⋯あと、昼間の話の続きだけど、奥さんと娘さんから伝言があるよ」
「そんなこと言ってたな、なんだ?」
「『最近良いものを食べ過ぎて太りました』だって」
「は?」
「いやぁ、二人はなんとか奴隷にならないように、村で保護して、私が匿ったんだけどね。それでうちで面倒をみているんだけど⋯⋯ちょっと食費が凄いから、できれば早く連れて帰って欲しい」
「⋯⋯ダメになっちゃった、ってのはなんだ?」
「なんか私は奴隷を甘やかしすぎるみたいでねぇ。みんな最初は遠慮するんだけど、すぐ『こんな生活してたら、ダメになっちゃうー』って言って、実際ダメになっちゃうんだ」
「あんた紛らわしすぎるわぁあああああ!」
ロクサーヌが叫んだ。
何かよくわからんが。
ここまでの話からすると、コイツそこまで悪いやつではないっぽいな。




