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公爵家を勘当された僕は薬屋ソルシエールで働きます  作者: 雪下月華


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ひらめき



 その日の夕方、僕は「黄金の麦穂亭」を訪れていた。


 夕食には少し早い時間だったからか、店内にお客さんの姿はまだ少ない。


 空いている席に腰を下ろすと、厨房からおばさんが顔を出した。


 「あら、ルーク。いらっしゃい。今日は早いのね」


 「こんにちは。少しお腹が空いてしまって」


 「ふふっ。じゃあ、いつもののでいいかい?」


 「はい。お願いします」


 おばさんは笑顔で頷くと、厨房へ戻っていった。


 僕は椅子に座ったまま、何となく窓の外を眺めた。


 通りを歩く村の人たちの姿が見える。


 今日もソルシエールは暇だった。


 もともとお客さんが多いお店ではないし、一日に誰も来ないことだって珍しくない。


 それでも、薬が必要になったときにお店が閉まっていたら、困る人がいるかもしれない。


 そう考えると、やっぱり簡単には留守にできなかった。


 「……はぁ」


 思わずため息が漏れた。


 「どうしたんだい? ずいぶん難しい顔をしてるじゃないか」


 顔を上げると、料理を運んできたおばさんが不思議そうに僕を見ていた。


 「あ……そんな顔をしてましたか?」


 「してたよ。何か悩み事でもあるのかい?」


 「はい。実は、ちょっと……」


 僕が曖昧に答えると、おばさんは料理をテーブルに置いた。


 「よかったら話してごらん。聞くくらいならできるよ」


 「ありがとうございます」


 ちょうど店内も落ち着いていたので、僕は思い切って相談してみることにした。


 「実は、バザルタに行きたいと思っているんです」


 「バザルタに?」


 「はい。ちょっと調べたいことがあって。でも、何日かお店を留守にしなくちゃいけないので、どうしようかなって……」


 「ああ、なるほどねぇ」


 おばさんは納得したように頷いた。


 「ソルシエールを閉めていくわけにはいかないってことかい?」


 「はい。普段はあまりお客さんが来ないんですけど、薬が必要な人が来るかもしれませんし……。誰かにお願いしようにも、薬のことを覚えてもらわなくちゃいけないので」


 「そりゃそうだね。薬は間違えて渡したら大変だもの」


 「そうなんです……」


 僕は小さく頷いた。


 おばさんは少し考えるように腕を組んだ。


 「だったら、誰にでも分かるようなメニュー表を作ってみたらどうだい? それなら簡単な受け渡しだけで済むだろ?」


 「メニュー表、ですか?」


 「そうさ。薬の種類や効能、値段なんかを書いておくんだよ」


 そう言って、おばさんはテーブルに置かれたメニュー表を指さした。


 「うちだって、これがあるから、お客さんが自分で料理を選べるんだからね」


 「……自分で選んでもらう?」


 僕は目の前のメニュー表を見つめた。


 確かに、ここではお客さんがメニュー表を見て、食べたい料理を選んでいる。


 薬屋だって同じだ。薬の効能や値段が分かれば、お客さん自身で必要なものを選べるはず。


 そうなれば、薬に詳しい人に店番を頼む必要はなくなる。


 ……いや、そもそも店番をする人自体が必要なんだろうか。


 「……そうか」


 思わず声が漏れた。


 「どうしたんだい?」


 「あ、いえ」


 僕は頭の中で考えを巡らせた。


 ソルシエールに来るお客さんは、ほとんどが顔なじみの人たちだ。


 いつも買っていく薬もだいたい決まっているから、必要なものをあらかじめ用意しておけばいい。


 それに、ポーションやマナポーションなら、欲しいものを自分で選んでもらえば済む。


 あとは、お金を払ってもらって、商品を渡すだけ。


 ……それなら。


 わざわざ人に店番を頼まなくても、ゴレムたちに任せられるんじゃないだろうか。


 例えば、ポーションを種類ごとに並べた大きな箱を用意して、お客さんが自分で商品を選べるようにする。


 お金を入れると、ゴレムが選ばれたポーションを取り出し口まで運んでくれる。そんな仕組みにすればいい。


 ゴレムたちに難しいことはできないけれど、決められた物を運ぶくらいなら簡単だ。


 それなら、僕がいなくてもお店を開けておけるかもしれない。


 そう考えると、自然と笑みがこぼれた。


 「ルーク?」


 おばさんの声に、僕ははっと顔を上げた。


 「あ、すみません。ちょっと考え事をしてました」


 「何だか、いいことを思いついたみたいだね」


 「はい! おばさんのおかげです!」


 「私は大したこと言ってないけどねぇ」


 「そんなことないです。ずっと悩んでいたので、すごく助かりました!」


 そう言うと、おばさんは嬉しそうに笑った。


 「それならよかったよ。でも、まずはご飯を食べな。冷めちまうよ」


 「あっ、そうでした」


 目の前には、まだ手をつけていない料理が置かれていた。


 僕は慌ててスプーンを手に取る。


 「いただきます!」


 温かい料理を口に運びながらも、頭の中ではさっき思いついた仕組みのことが気になって仕方がなかった。


 常連さんたちの薬は、前もって用意しておけばいい。


 ポーションやマナポーションも、ゴレムたちに販売を任せられそうだ。


 でも、僕が留守にしている間に、ポーションがなくなってしまったらどうするんだろう。


 せっかく薬草を育てられるようになったのに、僕がいなければ新しいポーションを作ることができない。


 「作る方も考えなくちゃ」


 思わず小さく呟いた。


 新しい課題は見つかったけれど、不思議と何とかできそうな気がしていた。


 ゴレムたちにできることは限られているが、工夫すれば、僕がいなくてもポーションを作れるようになるかもしれない。


 まずは、帰ったら試してみよう。


 僕はそんなことを考えながら、いつもより少し急いで夕食を食べ進めた。



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