小さな仲間と新しい挑戦
翌朝、僕はいつもより少し早く目を覚まし、窓から差し込む朝日を浴びながらベッドを抜け出すと、身支度を整えて一階へと降りた。
今日も《ソルシエール》はいつもと変わらず静かだったけれど、作業場に足を踏み入れた途端、どこか物足りなさを感じてしまう。
「やっぱり、ゴレムたちがいないと寂しいよ……」
魔物との戦いでゴレムたちのほとんどが壊されてしまい、今はわずかな数しか残っていない。
薬草の世話や材料の運搬、それから店の掃除まで、いつも一生懸命に働いてくれていた小さな仲間たちの姿を思い浮かべると、胸の奥が寂しくなった。
「よし、また新しいゴレムを作ろう!」
気持ちを切り替えた僕は、さっそく必要な材料を用意し、《ドール・マスター》の能力を使ってゴレムの製作に取りかかった。
今ではすっかり慣れた作業なので、完成形を思い浮かべながら次々と部品を作り出し、それらを組み合わせていく。
最後に銘を刻めば、新しいゴレムの完成だ。
「――これからよろしくね」
声を掛けると、ゴレムはぴょこんと頭を下げて挨拶を返してくれた。
その愛らしい仕草に思わず頬を緩ませながらも、僕は次のゴレムの製作に取りかかる。
そうして何体かのゴレムを完成させたところで、ひとまず作業の手を止めた。
新しく仲間に加わったゴレムたちは、さっそく作業場の掃除や材料の整理を始めており、そのうちの一体が僕の足元までやってきたので、しゃがんで頭を撫でてあげると、嬉しそうに両手を上げた。
「みんな、ありがとう。頼りにしてるね」
元気いっぱいに働くゴレムたちを眺めていると、自然と笑顔がこぼれてくる。
これで《ソルシエール》も、また以前のように賑やかになりそうだ。
ゴレムの製作も一段落したことだし、これからのお店のことも考えなくちゃ。
今までどおりポーションの販売は続けるとして、そろそろ新しい商品も増やしていきたい。
――僕はふとエルムに目を向ける。
魔術師にとってマナは欠かせないものだ。
もし《ソルシエール》でマナポーションを販売していたら、《銀の牙》の皆さんもあれほど危険な目に遭わずに済んだかもしれない。
マナポーション、か。
ただ、商品として販売するには材料となるネフィラ草を安定して手に入れる必要があるのが、山で採取したものは全て使い切ってしまい、今は一株も残っていない。
また採りに行けばいいとはいえ、なくなるたびに山へ足を運ぶわけにもいかないし、何よりあの山には危険な魔物が生息している。
「うーん……やっぱり、自分で育てられるようにするのが一番かな」
幸い、《ソルシエール》の裏には薬草を育てるための畑があるので、ネフィラ草もそこで栽培できれば、材料を安全に、安定して確保できる。
もちろん、普通の薬草と同じように育つとは限らないけれど、何もしなければ分からないままだ。
「まずは栽培できるか試してみないと」
そう呟きながら窓の外へ目を向けると、先日《銀の牙》の皆さんと訪れた裏山が見えた。
その山を眺めているうちに、別れ際にギルさんから言われた言葉が脳裏によみがえる。
――しばらく山には近づかない方がいい。
あのとき襲ってきた魔物たちの姿を思い出すと、今でも怖くなるが、ネフィラ草を採ってこなければ栽培を始めることもできない。
幸い、生えていた場所は覚えているので、あの崖まで行って必要な分だけ採ってくればいいはずだ。
翌日、まだ空が白み始めたばかりの頃、僕はゴレムたちを連れて《ソルシエール》を出発し、裏山へと向かった。
暗くなる前には帰ってきたいので、なるべく早く目的の崖までたどり着けるように山道を進んでいく。
ただ、先日のこともあるので油断はせず、ゴレムたちにも周囲の様子を確かめてもらいながら、慎重に足を運ぶ。
途中、木々の間から物音が聞こえるたびに立ち止まって様子をうかがったものの、幸い魔物と遭遇することはなく、しばらく歩いていると、やがて木々の向こうに見覚えのある崖が姿を現した。
「あっ、あった!」
あの時ネフィラ草を見つけた岩肌の隙間に目を凝らすと、そこには見覚えのある葉がいくつも生えていた。
よかった。
まだ、残っていたんだ。
今回は栽培するために持ち帰るので、葉だけではなく根も必要になる。
そこで、根を傷つけないよう周囲の土ごと慎重に掘り出し、ゴレムたちにも手伝ってもらいながら、いくつかの株を採取していく。
「これだけあれば、何とかなるかな」
もう少し採っておきたい気持ちもあったが、あまり長居して魔物に遭遇するのも怖いので、採取したネフィラ草を大切にしまい、来た道を引き返すことにした。
帰り道も周囲に気を配りながら慎重に進んだおかげで、魔物に遭遇することなく山を抜け、《ソルシエール》に戻ってきた頃には、空が夕暮れの色に染まり始めていた。
「ふぅ……なんとか無事に帰ってこられた」
全員無事に帰ってこられたことにほっとしながら、僕は早速採取したネフィラ草を作業場へ運んだ。
山歩きで少し疲れていたが、せっかく持ち帰ったネフィラ草を弱らせてしまっては意味がないので、すぐさま鉢と土を用意して植え替えの準備を始める。
採取したネフィラ草の根元を確かめてみると、一つの株からいくつもの芽が伸びていて、それぞれに根がついているようだった。
これなら、株分けで増やせるかもしれない。
「うん、まずはこれで試してみよう」
僕は根を傷つけないよう慎重に株を分けると、それぞれを用意した鉢に植えていった。
すべて植え終えたところで土を軽く押さえて水を与え、日当たりのよい場所に並べておく。
これでひとまず準備は整ったけれど、無事に根づいてくれるかどうかは、もう少し様子を見ないと分からない。
「元気に育ってくれるといいなぁ……」
僕は並んだ鉢を眺めながら、ネフィラ草が無事に育ってくれることを願い、その日の作業を終えることにした。




