第一話『初夢』
三階立ての塔の最上階。その一番奥に白い扉の部屋が一つ。その部屋には一人の少女が暮らしてい
る。
少女は決まった時間に起き、決まった時間に寝る。それを、ここ五年間毎日欠かしたことはなかっ
た。
少女が人生における初夢を見るその日までは。
「夢ってこんなにも疲れるものなのね」
少女はひとつ溜め息を付くと、ベッドから立ち上がり着替え始める。
白いシャツ、白いスカート、白いタイツ、白いローブ。
「うん。今日も問題ないわ」
少女は鏡で自分の姿を確認すると、最後に髪を整えていく。
闇のように黒く長い髪は、服装故により際立ち、『魔女』を思わせる印象である。
「姫様、おはようございます。起きていらっしゃいますか?」
扉をノックする音と共に、響く声。
聞き慣れたその声に安心しつつ、少女は扉の前まで歩いていく。
「やっと来たのね。……ええ、今起きて着替えたところよ」
「丁度ですね。では、失礼します」
静かに開かれる扉。そこには整った顔立ちで、すらっと背の高い青年が姿を見せる。
クリーム色の髪とその優しそうな表情から、『日向』を思わせる印象である。
「今日はタイミングが完璧だったわね」
「はい、今日は一六回目ですから」
「私は例外ではないということかしら」
「そうなります。ようこそ『夢の世界』へ」
夢は誰しもが見るもの。しかし見始める時期は一六歳からと決まっていて、そこを境に毎日必ず見る
ことになる。
「これでようやく、私も『夢』について知ることができるのね。明日から独りで頑張るわ」
「心の中で応援しています」
「そうね。……ありがとう。この五年間楽しかったし、感謝してる。だから――」
少女は言葉を詰まらせ、口元を手で塞ぐ。今日青年の顔を見た時から抑えていた感情を再度抑え込ん
だ。
青年は少女の様子を、微笑みながら温かく見守っていた。
少女はそんな青年に対して、ぎこちない笑顔で返すと、意を決して言葉を紡ぐ。
「だから、必ず戻して見せる。大切な人を二度も失うわけにはいかないから」
「信じています。……だから何年かかっても、お待ちしております」
青年は少女から少し距離を取ると、背を向け目を閉じた。
少女は青年の背に左手をかざし、呪文を唱える。
「我が、黒き血の盟約に従い、唱える力を可能にせよ。『相互召喚』」
少女の姿が白から黒へと変わる中、青年の足元には黒い謎の文字が書かれた陣が浮かび、辺りが
黒い霧で包まれていく。
少女は青年が見えなくなるまで一度も瞬きせず、目に焼き付けるように見つめていた。
「私の願いを叶えて……絶対に失敗はできないの」
黒い霧が完全に部屋を覆い、視界が完全に奪われる。
ドンッ。
その直後、何かが床に落ちる音がした。
「魔法は成功。でも消費が……全てなのが……難点よね」
少女は必死に堪えようとするが、耐えきれず床に倒れ込むと、同時に意識を手放した。




