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まものたんていしゃ  作者: 星野翔


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第8章 棄てられた深淵

「師匠!」

コルヴォスは悪夢から跳ね起き、悲鳴のような叫び声を喉から絞り出した。


彼は勢いよく上半身を起こした。荒い呼吸には鉄くずのような血の味が混じり、胸が激しく上下する。冷や汗はすでに破れかけたトレンチコートの裏地をすっかり濡らしていた。


肩で息をつく彼の耳に届くのは、暗がりの中で水滴が石畳を叩く空虚な反響音だけだった。


先ほど見た十年前の凄惨な夢の熱量が今なお残る中、肌を刺す地下水の氷のような冷たさが強烈な対比を描き、彼は一瞬自分がどこにいるのかさえ見失いそうになる。


闇の中で微かに、そして孤独な幽光を放つ左肩の機械義手だけが、いまだに鈍い痛みを訴えていた。

少し離れた焚き火の脇に、一人の男が背を向けてかがみ込んでいる。


その背影にはどこか異様な雰囲気が漂っていた——くすんだ炎の明かりに照らし出された肩の後ろから、萎縮した黒い骨翼がうっすらと伸びており、脇に垂らした片手には濃い紫色の金属鱗がびっしりと覆い尽くしていたのだ。


男は振り返りもせず、極めて手慣れた手つきで、すり潰した緑色の薬草をコルヴォスの手負いの足首に塗りつけた。その力加減はあまりにも優しく、そのおぞましい外見とは激しいギャップを生んでいた。

「よう、お目覚めかい?」


男はゆっくりと振り向いた。暗赤色の瞳が火光の中で揶揄うような光を宿している。彼は手際よく綺麗な布切れを取り出すと、丁寧に傷口を巻き上げていった。


「大した生命力だな、これで死なねえとはよ。下水道をうろついてたら、お前の体から漂う猛烈な血の匂いに酔いそうになったぜ。それにその機械義手に残った魔力の波動だ、嫌でも気づくってんだろ」


コルヴォスは全身の筋肉を強張らせ、本能的に身構えようとしたが、指先さえ微かに震えるほど体が衰弱していることに気づいた。


しかし、左足首と右肩の傷口からはひんやりとした感覚が絶え間なく伝わり、激痛が驚くべき速さで引いていく。

「……感謝する」


コルヴォスは胸中に渦巻く驚愕と疑念を押し殺し、相手の不自然な黒い骨翼をじっと見つめた。


「だが……あんたは誰だ? ここは一体どこなんだ?」

男は自嘲気味に鼻で笑った。火光が鼻梁を横切る深い傷跡を浮かび上がらせる。


表情を歪めると同時に、その対の萎縮した骨翼も微かに震え、革が擦れるような乾いた音を立てた。

「俺が誰か、だと?」


男は立ち上がり、使い残した薬草のカスを燃えるゴミの山へ放り投げた。火柱が跳ね上がり、彼の背後に広がる底知れぬ闇の坑道を照らし出す。


「ここじゃ、名前なんて墓石に適当に刻むだけの文字に過ぎねえ。そうだな……『回収屋(スカベンジャー)』とでも呼んでもらおうか」


彼は闇の奥へと顎をしゃくり、コルヴォスに視線を向けるよう促した。


「で、ここがどこか……だが」回収屋の語調が低くなり、極めて微かな憐憫のの色が混じった。「ようこそ『棄絶の淵(リジェクト・アビス)』へ。ロンドン地下の最深部にある、超巨大ゴミ捨て場だ。


ここには、地上世界から無情にも捨て去られたあらゆる『余剰物』が集まってくる」


言い終えるや否や、重々しい引きずり音と不気味な低吟が、四方八方の配管から気味悪く伝わり、それまでの静寂を破った。


コルヴォスはボロボロの体を力任せに支え、微かな火光を頼りに坑道の奥を見つめた。


見れば影の中から、正視に耐えかねる容姿の数々の影が、ゆるやかに這い出てくるところだった。


先頭を歩く老人は、顔の半分が完全に半透明の結晶体へと変異しており、歩を進めるたびに結晶の内部で青白い電流が細かく弾けていた。その背後に続くのは、両腕を粗雑にも錆びついた巨大な産業用マジックハンドに置換された少女で、一歩踏み出すごとに機械の軸受が耳障りな金属の悲鳴を上げた。


闇の中から次々と集まってくる影たちは、例外なく異形かつ欠損した肉体をしていた。


ある者は肋骨が皮膚を突き破り、その内側で青光りを放つ魔物の臓器が脈動していた。またある者は下半身を歪にねじれた野獣の四肢と縫い合わされ、吐き気を催すような姿を晒していた。

「奴らは……」


コルヴォスの瞳孔が驚愕で激しく収縮し、機械義手が本能的に胸元を庇った。


「こいつらは一体何なんだ!?」


「実験の失敗作、戦争の廃棄物……それと、魔核器官を無理やり移植された結果、拒絶反応を起こして肉体が異形化したり鋼鉄化したりしてな、駆魔組織から『不可幸因子』として見捨てられ、ここで死を待つだけの生ける屍どもさ」


回収屋は淡々と語り、麻痺して空洞になった顔立ちの数々を見渡した。「地上じゃ悪魔の標本扱いだが……ここじゃ、完全に腐りきる前にかろうじて生を貪る同類に過ぎねえ」


顔面に精密な機械メーターが埋め込まれた男がコルヴォスの脇を通り過ぎた際、メーターの赤ランプが激しく二度点滅し、掠れた冷たい電子合成音を漏らした。


「ま……また……上の……奴らが捨てた……ゴミか……」


まるで歩く屍のような住人たちの姿を目の当たりにし、コルヴォスの心底に刺すような冷気が吹き抜けた。

ここは地下の避難所などではない。絶望と腐臭に満ちた「生き埋めの墓場」だ。


そして彼自身もまた、あの凄惨な死闘によって、神にさえ見捨てられたこの暗黒の隅へと無情にも引きずり込まれてしまったらしい。


重々しい引きずり音が次第に鮮明になり、坑道の奥から人が次々と群がり始め、まるで「棄絶の淵」全体が今この瞬間に目を覚ましたかのようだった。


コルヴォスは湿り気のある冷たい煉瓦壁に背を預け、機械義手を硬く構え直した。体力の限界で右目の水晶義眼が不規則に点滅を繰り返す中、それでも迫り来る群衆を鋭く見据え続けた。


突然、群衆の中から破れた包帯を巻き、身をかがめた女が焚き火の前へ転がり込むように躍り出た。


その両手は激しく震えており、爪はとっくに剥がれ落ち、下から痛々しくめくれた暗赤色の肉芽が露わになっていた。


「私たち……私たちは駆魔公安の研究所から逃げ出してきたんです……!」


その声はかすれ、まるで喉に砂利でも詰まっているかのように途切れ途切れだった。


「お願いです……私たちを連れ戻さないで……あそこは保護施設なんかじゃない……あそこは……!」


咽び泣き、言葉が続かなくなった。ただ激しい咳き込みとともに、濁った血の混じる唾液が頬を伝ってこぼれ落ちるだけだった。


回収屋の顔から戯言めいた笑みが瞬時に消え去った。彼はかがみ込むと、暗紫色の鱗に覆われた異形の利爪で女の背中をやさしく叩いた。その仕草には、恐ろしい外見とは裏腹な温もりが宿っていた。


「わかってる、わかってるさ。ここじゃ、お前らを突き返す奴なんて誰もいねえよ」彼は低く宥めるように言ったが、その声の底には冷徹な怒りが渦巻いていた。「駆魔公安の研究所、ね……ハッ、見せられない汚物を隠すには、お誂え向きの場所を選んだもんだ」


その言葉はコルヴォスの耳元で雷鳴のごとく轟き、彼の瞳孔を急激に収縮させた。


駆魔公安——長年彼が忠誠を尽くし、死の淵から引き揚げてくれたはずのあの組織が、このような非人道的な実験を行っていたというのか?


口を開こうとしたが、乾き切った喉からは声一筋さえ出ない。


彼にできるのはただ、研究所から逃げ出してきた「失敗作」たちが次々と姿を現すのを呆然と見つめることだけだった。脳裏に刻まれた冷酷な依頼契約と、「お願い、私たちを連れ戻さないで」という悲痛な哀願が激しく激突し、正義と闇の境目さえ見失いそうになる。


その時、群衆の拍子抜けしたような静寂の向こうから、細身の人影がゆるやかに姿を現した。


薄っぺらな病衣を纏った少女だった。裸足のまま、烏黒の長い髪を乱雑に肩へ散らし、清秀な顔立ちの大部分を覆い隠している。


その足取りは恐ろしいほど静かで、周囲のボロボロの身体を引きずる住民たちとは明らかに一線を画していた。

コルヴォスの息が、この一瞬で完全に止まった。


少女はゆっくりと顔を上げた。揺らめく火光が乱れ髪を透かし、青白くも繊細で整った顔立ちを照らし出す——僅かに上を向いた鼻先、薄桃色の唇、そして今まさに、不安げに彼を見つめているその潤んだ大きな瞳。

「龍……芊芊(ロン・チエンチエン)……?」

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