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まものたんていしゃ  作者: 星野翔


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第11章 事務所の錆色の朝焼け

「急いで!レイラ、高圧封印カプセルと、調達できる限りの錬金修復材料を準備してくれ!」


コルヴォスは千鳥足でミストクロウ街6番地の重く斑のある鉄のドアを押し開けた。バタンッ! と音を立てて閉ざされた扉の背後で、密道の出口は影の中に静かに閉じ合わされ、追撃を完全に隔絶した。


龍芊芊(ロン・チエンチエン)は今にも崩れ落ちそうな彼の身体を必死に支えていた。彼女自身も顔色を失い貧血を起こしていたが、契約の強行起動によって満たされた蒼く冷たい光が、依然としてその瞳の奥に揺らめいている。


「見捨てられし深淵」から命からがら逃げ延びてきた数人の失敗作たちが、ホールエントランスの隅で身を縮め、古書や薬瓶、精密な歯車が積み上げられたこの地下探偵事務所を恐怖の眼差しで見回していた。


地下室から駆け上がってきたレイラの手には、まだ油にまみれた重いレンチが固く握られていた。


また高価な魔導装置の何かを壊したのだろうとコルヴォスを面罵してやろうとした彼女だったが——血肉がぐちゃぐちゃに潰れ、激しく電磁スパークを散らしている彼の断ち切られた左肩を目にした瞬間、あらゆる小言が喉に詰まり、激しく震える深呼吸へと変わった。


「くそっ……またあの上級魔物による傷ね!」


レイラの顔色が底なしの暗闇へと沈む。一秒の猶予もなく、彼女はコルヴォスを作業台の横にある金属フレームに力任せを押さえつけた。


「芊芊、肩の神経叢(しんけいそう)を死に物狂いで押さえて! 劇痛で彼の体内の魔力が完全に暴走しないように!」


事務所内にギアが急速に噛み合う刺すような高鳴りが響き渡り、空気中には濃密な拒絶反応抑制剤の苦い匂いが立ち込める。


レイラの動きは電光石火であり、幾多の死線を潜り抜けてきた外科医のように正確だった。熟練の手つきで数本の高濃度錬金液をコルヴォスの切断端に注入し、同時に手近にあった予備の金属フレームを使って、緊急の応急支持構造を構築していく。


「これは中枢神経が『魔燼(まじん)』に完全に侵食されるのを防ぐためよ……気が狂うほどの激痛が走るけど、歯を食いしばって耐えなさい!」


レイラは奥歯を噛み締め、額から大粒の冷や汗を流していた。


コルヴォスは丸めた厚手のアサ布を全力で噛み締めた。左肩の引き裂かれるような劇痛に冷や汗が止まらなかったが、右目の青い水晶眼だけは流れる水のように静まり返り、忙しく動くレイラの姿と、その傍らで不安と自責に満ちた顔をする龍芊芊を映し出していた。


「レイラ……『見捨てられし深淵』の件だが……」


コルヴォスの声は擦れていた。強力な鎮静剤の薬効が効き始め、意識が制御を失って漂い始める。


「駆魔公安の内部は……すでに完全に腐敗し、侵食されている。」


レイラの手にあるレンチがピタリと止まった。彼女はゆっくりと体を起こし、部屋中に満ちる怯えた失敗作たちを見回し、最後に龍芊芊へと視線を落とした——その器には外傷こそなかったが、魂の奥底から発せられる魔力の波動は気味が悪いほど異様だった。


この瞬間になって初めて、彼女はなぜ普段は冷酷で理知的なコルヴォスが、命を賭してまで、いつ公安の殺意を引き寄せてもおかしくないこの「危険なゴミくず」たちを持ち帰ってきたのかを理解した。


「ミストクロウ街6番地に息のある人間が一人でもいる限り、依頼人を引き渡すことなんて絶対にあり得ないわ。」


レイラは低い声でつぶやいた。その語気には疑う余地のない排他性と、堅い決意が宿っていた。そしてすぐに背を向け、金属パーツが積み上げられた錬金炉へと歩き出した。


「それで、この壊れた腕のことだけど……」


「私の両親は生前、魔具の鋳造師でした。その影響を受けて、私も手入れや再構築の技術なら少し心得があります。」


声を上げたのはコゼット、「見捨てられし深淵」から生き延びてきた生存者の一人だった。目の前の破損を見つめる彼の瞳には、かすかな自信が光っていた。


「この程度の損傷なら修復できます。もしあなた方の錬金術と融合させることができれば、以前以上の性能に仕上げる自信があります。」


しかし——深遠なる闇の奥底において、コルヴォスに安らぎが訪れることはなかった。


破片となった意識の荒野の中で、契約が結ばれた際の魔力共感が一振りの錆びついた残酷な鍵となり、龍芊芊が封印していた過去の記憶の禁忌を強引にこじ開けたのだ。


それはもはや彼自身の悪夢ではなく、別の魂が煉獄の中で身悶えする真実の記憶だった。


彼には「見えて」いた。つぎはぎだらけの粗末な綿の服を着た幼い少女が、消毒液の匂いが立ち込める凍えるように冷たい執務室の前に、ぽつんと佇んでいる姿を。


彼女の実の両親——かつて公安の内部名簿で見かけたことのある名の持ち主たちが、白く清潔な制服を着て胸に「駆魔公安」のバッジをつけた男に対し、卑屈に腰をかがめて値切り交渉をしていた。


『十分な食料と次のシーズンの安全税さえ手に入るなら、この子をどう扱おうと好きにしてください……分かっています、この子はあの“あれ”との適合率が異常に高いんでしょう……?』


その声は軽々しく、あたかも価値のない安い品物を売り払うかのようだった。


少女は不安そうに母親の服の裾を掴もうとしたが、嫌悪感を露わに振り払われた。

助けを求めるように顔を上げた彼女の純粋だった瞳に、最後に映ったのは、冷たい鉄格子と冷酷な数値が並ぶ計測器だけだった。


光景は唐突に粉々に砕け散り、さらに深い闇へと落ちていく。


彼女は乱暴に噂の地下三層へと押し込まれ、初期型の魔核(コア)がその幼い体に無理やり植え付けられた。

それは力を授ける恩寵などではなく、煮えたぎる鉄の湯を骨髄に直接流し込むかのような酷刑だった。


研究員たちの冷酷無情な機械的記録声が響く。


『被験体・龍芊芊。赤龍魔核との適合率98%。初期魔物化プロセスを開始……』


「あぁぁぁぁぁ——ッ!」


少女の引き裂かれるような泣き叫びと悲鳴が悪夢の中で反響し続け、その一声一聲が毒を塗った鋼の針のように、コルヴォスの魂の奥深くに深く突き刺さった。


彼は、彼女が冷たい実験台の上で何度も痙攣し、異形へと変貌していく姿を、その幼い瞳が魔核の侵食によって一寸ずつ血に飢えた猩紅(しょうこう)色に呑み込まれていく様を、ただ見ていることしかできなかった。


解剖され、縫合され、無数の殺戮本能を強制的に叩き込まれ——あのかわいらしく天真爛漫だった少女が完全に死に果て、残されたのが組織から「龍芊芊」と呼ばれる精巧な殺人兵器となるまで。


『なんで……なんで私を捨てたの? なんで私を売ったの……!?』


血の海の中に立つ幻影の少女は、空虚で絶望に満ちた瞳でコルヴォスをじっと見つめていた。

それは実の両親への問いかけではなく、この歪んで残酷な世界に対する、血を吐くような告発だった。


「奴らにとって、生き残るための駒が必要だったからだ。弱者には、死ぬ権利すら選ぶことはできない……」


コルヴォスは闇の中で跳ね起きるように目を開けた。


冷や汗でシャツはぐっしょりと濡れており、胸を大きく上下させながら荒い息を吐き出した。


ベッドの脇では、レイラが真剣な表情で新しい魔導パイプの溶接を行っていた。そして部屋の薄暗い隅では、龍芊芊が両腕で膝を固く抱え、まるで魂を失った精巧な磁器の人形のように、空虚な瞳で丸まっていた。


事務所の中は死んだように静まり返り、地下室の換気扇が重く疲弊したブゥゥン……という音を立てているだけだった。まるでこの腐敗した都市の息絶え絶えの呼吸のように。


龍芊芊の身体は、極限の精神的摩耗によって絶え間なく震えていた。

澄んでいながらも血の色の魔力が残る彼女の瞳は焦点を結ばず、悪夢の惨烈な記憶と目の前の現実が激しく引き裂き合っていた。


その時——彼女は突如として温かく乾燥した感触を覚えた。


コルヴォスの手のひらが、確かな力強さを伴って、彼女の冷たくなった指先にそっと重ねられたのだ。


それは彼女が両親によってあの人間地獄へと売られて以来、二度と触れることのなかった、本物の「人間」の温もりだった。


「わたし……わたしは一体誰なの……?」


彼女は死にかけた小動物のような細いすすり泣きを漏らし、熱い涙がポロリと溢れ出して、コルヴォスの包帯だらけの手背にこぼれ落ちた。


「わたしの中にいた殺戮の化け物は、あなたに引きちぎられた……でも残されたこの空っぽの魂は、一体何なの? わたしは自分が誰なのかすら、もう分からないの……」


この長く暗い拷問の中で、生き残るために彼女は精神と魔力を強引に引き裂き——狂暴な魔龍の記憶と、本来の純粋な少女の魂の破片を無理やり引きはがしてきたのだ。


記憶さえ消し去れば、再び昔の普通の女の子に戻れると信じていた。だが魔龍の本体が完全に滅ぼされた今、残されたのは虚無の中で風に漂い、途方に暮れる欠陥だらけの意識だけだった。


コルヴォスは彼女の極限まで絶望した瞳を見つめた。復讐によって氷結していた彼の心の奥底が、鉄のように重い痛みに押し潰され、打ち砕かれた。


十年前のあの血塗られた夜、両親が血の海に倒れていた冷たさ、そして自分がこの機械義肢を無理やり付けられた時の絶望が蘇る。自分たちは本質的に、この終わりのない魔物戦争と権力闘争の構図の中で、踏みにじられた犠牲者に過ぎないのだ。


彼はもう躊躇わなかった。キュッ……と少し力を込め、彼女の冷たく細く震える指を、自分の掌の中に固く包み込んだ。その動きは静かで、揺るぎなかった。


「お前は誰の魔物の器でもないし、使い捨ての実験体でもない。」


コルヴォスの声は低く擦れていたが、その一語一語は地面に打ち込まれる鋼の杭のように、事務所の冷たい石床に響き渡った。


彼は少し身を乗り出し、青い水晶眼で彼女の迷い傷ついた瞳を直視した。そこには拒絶を許さない守護の意志が宿っていた。


「今日から、お前は俺の家族だ。俺がお前の兄だ。過去にあの日獄がお前から何を奪おうと、誰にお前が捨てられようと……俺の命がある限り、俺が息をしている限り、俺がお前の兄だ。」


龍芊芊は息をのんだ。彼女の荒廃した視界の中で、涙がコルヴォスの傷だらけだが凛々しい顔を滲ませていく。


その瞬間——彼女は自分の魂の奥底にあった巨大な亀裂が、温かく無骨な力によって優しく撫でられ、ゆっくりと縫い合わされていくのをはっきりと感じた。


彼女を呑み込もうとしていたあの「虚無」が初めて、「血縁」と「庇護」という重みのある言葉によって完全に満たされていく。


「お兄ちゃん……」


彼女はその見慣れない、けれど途方もなく温かい呼び名を呟き、冷たくこわばっていた指先で、ついにコルヴォスの手を握り返した。


それはもはや契約を維持するための魔力の接続ではなく、この世界に対して宣誓するためだった——彼女はついに、この霧と血煙に包まれた廃墟の中で、真の帰るべき場所を見つけたのだと。

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