第10章 棄てられし淵の死闘
耳を刺すような破空音が突如として響き渡った!
アンバーが反応する間すらなく、ボロボロの服を纏い廃土の塵に塗れた一人のスカベンジャーが、影の中から猛然と飛び出してきた。
その両眼は血のように赤く染まり、右腕には冷たい寒光を放つ改造機械爪が装着されている。
「その子から離れろ!」
雷鳴のような怒号を上げ、スカベンジャーは地面を蹴って突進した。空気を切り裂く狂暴な強風を纏った機械爪が、アンバーの喉元という致命的な要害を直線的に狙う。
「嫌がってるのが聞こえなかったのか?!」
息を呑むほどに速い奇襲は、直撃すれば即死を免れない。
アンバーの瞳孔がわずかに収縮し、本能的に致命的な危機を察知した。
思考する余裕もなく、彼女は身体を限界まで後ろへ反らす「鉄板橋」の体勢をとり、寒光を放つ合金爪を危うくかわした。
「シュラッ!」
爪が衣類をかすめて通り抜け、火花が四散する。黒いスーツの胸元に三本の深い切り傷が瞬時に刻まれた。
一撃を外したスカベンジャーだったが、動きを止めることなく滑らかに旋回した。我が子を守る野獣の如く、崩れ落ちた龍芊芊の前に立ちはだかる。
背を丸め、薄暗い灯りの中で機械爪に危険な殺気を宿しながら、喉の奥で獣のような低吼を響かせ、押し戻されたアンバーを死死と睨みつけた。
「遅すぎるわ。」
アンバーの冷徹な声が幽幽と響いた。
声がまだその場に残響しているというのに、本尊はまるで鬼魅のようにスカベンジャーの背後にあっけなく出現していた。視覚の限界を超えるほどの速度であり、空気中には超高速によって引き裂かれた残像だけが残されていた。
スカベンジャーが首を回す猶予すらなく、全身の毛髪が根元から逆立った。
「ビュッ!」
アンバーは五指を爪の形に鋭く曲げ、袖の奥の筋肉を瞬時に爆発させた。
一撃の鋭い「豹爪」が狂暴な運動エネルギーを伴って横一閃に駆け抜ける。指先は鞘を払った合金の刃のようだ。
血光が炸裂した。
容赦のないその一撃は、スカベンジャーの喉元を瞬時に引き裂いた。
スカベンジャーの身体が猛然と硬直する。瞳に宿っていた怒りと警戒は、刹那の間に凍りついた。
彼は両手で強く喉を押さえたが、指の隙間から大量の温かい鮮血が狂ったように噴き出した。喉の奥からは「ゴボゴボ」と破裂する気泡の音しか漏れない。
やがて、その巨躯は重々しく前方へと倒れ込み、龍芊芊の足元に広がる血の海へと激しく崩れ落ち、二度と動かなくなった。
龍芊芊は血の海の中にへたり込んだまま、激しく息を乱していた。見ず知らずでありながら自分を背中に庇ってくれたスカベンジャーを呆然と見つめ、その瞳の奥には恐れだけでなく、言いようのない衝撃がこみ上げていた——誰かに何の説明もなく羽翼の下へ庇われたのは、彼女の人生でこれが初めてのことだった。
アンバーは静かに右手を引き戻し、指先に残った血の滴を優雅に払い落とした。その眼光は温度を一切感じさせないほどに冷たく、顔色を失った龍芊芊を上から見下ろし、残忍な笑みを浮かべた。
「本当に聞き分けのない良い子ね。そんなに言うことを聞かないなら、両手両足を全部切断して、組織へ持ち帰ることにするわ。」
言葉も言い終わらぬうちに、アンバーは再び五指を開いた。指先からは死の寒光が揺らめいている。今度の標的は、龍芊芊の華奢な四肢だ。
爪が振り下ろされようとした千鈞一髪のその時——
「ドォン——!」
甲高くて耳障りな金属の衝突音が突如として響き渡り、夜闇の中で火花が狂ったように飛び散った!
アンバーの確実と思われた致命の一撃が、なんと横から投げつけられた重厚な金属物体によって力任せに弾かれたのだ。凄まじい反動が彼女を襲い、思わずよろめいて半歩後退した。
「ずいぶんと躾のなってない大猫だな……他人の縄張りに乗り込んできて荒らし回るとは。」
しわがれ、疲弊しきった低音の声が暗がりから伝わってきた。
コルヴォスが片膝をつき、大剣一本で傷だらけの身体をどうにか支えながら、肩で大きく息をついていた。龍芊芊の前に横たわっていたのは、彼が持つ冷たい光沢を放つ金属義手だった——まさにこの腕が、生死の瞬間にアンバーの殺招を強引に遮断したのだ。
限界を超えた負傷を負いながらも、コルヴォスは依然として龍芊芊を背後に死守していた。水晶眼でアンバーを捉え続け、口元には挑発的な冷笑を浮かべ、百戦錬磨の獰猛さを放っている。
アンバーは少し痺れた掌を振り、途中で割り込んできたこの邪魔者を陰鬱な目つきで見定めると、危険そうに目を細めた。
「あらあら、探偵さん。ヒーロー気取りで女の子を助けるのは格好いいけれど……」
ねっとりとした残忍な笑い声が空気に響く。アンバーはその場に立ち尽くしたまま、一歩足を進めることすらしていなかった。
「あいにく、それも遅すぎるのよ。」
コルヴォスが強引に立ち上がって迎え撃とうとしたその時、左肩に突如として異様な虚無感が走り、続いて押し寄せるような激痛が襲いかかった。本能的に横目を向けると、彼の瞳孔は一瞬で針の穴ほどに収縮した。
アンバーの太い豹爪の中には、複雑な歯車と暗金の模様が組み込まれた金属の物体が弄ばれており、明滅しながら怪しい光を放っていた。
「それは——?!」
コルヴォスは驚愕のあまり、絶望的な叫び声をあげた。
いつの間に壊されたのか。彼が誇りとし、先ほど致命的な一撃を防いだばかりの「暗金の手」が、アンバーの想像を絶する速度によって、彼の左肩から力任せに引きちぎられていたのだ! 切断面からは電磁火花がバチバチと跳ね、破損した配線と機械油が噴水のように狂い散っていた。
「探偵さん、このおもちゃでサプライズ脱出なんて、もうできないわよ?」
アンバーは意地悪く笑い、まるで戦利品を見せつけるかのように、その暗金の義手をコルヴォスの目の前に掲げて見せた。
言葉が落ちると同時に、彼女の五指が急激に収縮し、強大な爪の力が耳障りな金属の悲鳴を爆発させた。
「ガギャッ——ドカァンッ!」
金属が歪み砕ける重厚な音とともに、コアパーツが殉爆を起こし、強固極まりなくコルヴォスの数々の戦力を支えてきた暗金の義手は、一瞬にしてくず鉄とパーツの破片へと変わり、血の海の中へパラパラと散らばった。
バランスを失ったコルヴォスは地面へ重々と崩れ落ち、顔色は紙のように白く染まった。残された右手で火花を吹き出し続ける左肩の切断面を強く押さえる。局勢は、この瞬間に完全なる絶望へと転落した。
その光景を目撃した龍芊芊の精神線は完全に崩壊した。彼女はドサッと血の泥濘の中にへたり込み、涙が溢れ出し、極度の恐怖によって華奢な身体を激しく震わせた。
アンバーは愉悦に満ちた軽い笑声を漏らし、腕を組んで、猫がネズミを弄ぶかのように二人の絶望的なあがきを鑑賞していた。彼女の世界において、これは獲物が臨終の際に上げる無意味な悲鳴に過ぎないのだ。
その時、片膝をついたコルヴォスは左肩の激痛に耐えながら、残された右手で龍芊芊の震える手首を強く掴んだ。その表情は鉄のように冷徹で、低く重い声には疑いようのない決意が込められていた。
「聞け、生きて帰りたくば俺の言う通りにしろ。」
龍芊芊は涙に濡れた瞳で彼を見つめた。
「俺と魔力契約を結べ……お前の右手を、俺の水晶眼に重ねろ!」
龍芊芊の視線は、幽暗な冷光を放つその異形のマジックアイへと落ちた。
強い生存本能に突き動かされ、彼女はもう迷わなかった。震える右手を伸ばし、掌を冷たく刺すような水晶の球体にぴったりと押し当てた。
「ヴヴヴン——!」
低く長い魂の共鳴音とともに、元々魔鴉クロードと繋がれていた共感が強引に断ち切られた。虚空の中で不可思議な跳躍が行われ——魔力共感は、正式に龍芊芊へと移行した!
「魔力連結、起動!」
古く広大な魔力の濁流が掌から脳裏へと直行し、一瞬にして恐怖を焼き尽くした。龍芊芊の眼光が激変する。弱さと動揺はことごとく消え去り、代わりに契約の力を宿した幽藍の光が揺らめいた。アンバーの呆然とした視線の中で、彼女はなんと静かに立ち上がり、その身に息を呑むような魔力の波動を昂ぶらせたのだった。
傍らのコルヴォスはよろめいて半歩後退し、右手を自身の右眼へと重ねた。
激痛によって顔を歪ませながらも、彼は固く歯を食いしばり、体内に残された最後の魔力を惜しみなく水晶眼へと注入し、龍芊芊へ途切れることのないエネルギーを供給し続けた。
「ゲームオーバーよ。」
言葉が終わる前に、アンバーの姿はすでに曖昧な金色の残像と化していた。耳をつんざく音爆と鋼鉄を引き裂く狂暴な強風を伴い、彼女は肉眼では捉えきれない速度で、膝をつくコルヴォスと立ち上がったばかりの龍芊芊へと突進した。
この生意気な二匹の羽虫を、同時に握り潰してやるつもりなのだ!
生死の境目、アンバーの爪が龍芊芊の喉元まであと数センチに迫り、吹き荒れる風が髪の毛を数本切り裂いたその瞬間——
龍芊芊の瞳は刀のように鋭くなった。水晶眼がもたらす絶大な魔力の加護により、彼女の動態視力と神経反射は不可思議な領域へと押し上げられていた。電光石火の突撃が、今の彼女の目にははっきりと映っていた。
彼女は軽やかに身体をひねって致命的な要害をかわすと、しなやかな腰を回転させ、幽藍の光を纏ったすらりとした右脚を、雷の如く横蹴りで放った!
「ドドォン——!!」
その強烈な蹴りは、正確かつ容赦なくアンバーの腹部を捉えた。重苦しい炸裂音が響き渡り、肉眼で見えるほどの環状の魔力衝撃波が周囲を薙ぎ払う。
アンバーは驚愕の表情を浮かべる猶予すら与えられず、全速力で走行するリニアモーターカーに正面から衝突されたかのように、来時を遥かに超える速度で弾き飛ばされ、遠くの灰白色のコンクリート壁へと激しく激突した!
蜘蛛の巣のように狂ったように広がる亀裂と、空中に舞い散る砕石と煙塵を伴い、アンバーは壁の奥深くに深く埋め込まれた。一方的だった血生臭い狩りは、この一脚によって完全に逆転したのだった。
「フン、野良猫がお手玉にされる気分はどうだ?」
コルヴォスは右眼を強く押さえつけ、枯れ果てた魔力を絞り出しながら、口元を吊り上げて快意の冷笑を浮かべた。
「光栄に思え……お前はこの女に蹴り飛ばされた最初のヤツじゃないんだからな。」
龍芊芊は優雅に右脚を引き戻した。幽藍の魔力の炎が、彼女のスカートの裾と指先で明滅しながら揺らめいている。彼女は崩落して凹み、石が落ち続けている壁を冷たく見つめていた。
しかし、立ち込める土煙が強風に吹き飛ばされた時、目の前に広がった光景に二人の笑顔は瞬時に凍りついた。
壁の奥深くに埋まっているはずのアンバーが、跡形もなく消え去っていたのだ。
壁面には巨大な「大」の字型の亀裂と深い窪みだけが残り、数本の血のついた金色の獣毛が風に舞っていた。砕石が転がる音のほかは、周囲は息が詰まるほどの静寂に包まれていた。
「逃げたの……?」
龍芊芊は眉をひそめ、警戒しながら周囲を見回した。水晶眼がもたらす強力な感知力を全面的に広げ、空気中に残る野獣の気配を捉えようとしたが、相手の速度があまりにも速く、周りの影のすべてが天然の保護色となっているかのようだった。
コルヴォスも顔を曇らせ、左肩からバチバチと弾け続ける火花を無視して、残された視覚で強行に瓦礫をスキャンした。アンバーの残忍さと狡猾さを熟知している彼は、あのプライドの塊のような女が、たった一蹴り食らっただけで無様に逃げ出すはずがないと分かっていた。
この不気味な静けさこそが、嵐の前の最も致命的なシグナルなのだ。
「長居は無用だ。」
コルヴォスは左肩の激痛に耐えながら、重々しく血の混じった唾を吐き捨てた。アンバーの気配は消えたものの、胸がむかつくような危険な空気はいまだに背中に突き刺さっていた。
一行は神経を張り詰めさせ、背中合わせになりながら、深底知れぬ闇を警戒した。
「俺の探偵事務所へ来い。」
コルヴォスは水晶眼への魔力供給を維持しながら、歯を食いしばって龍芊芊に提案した。
「あそこなら拠点があるし、腕のいい錬金術師もいる。二人とも……怪我の手当てができるはずだ。」
龍芊芊は、自分を救ってくれたコルヴォスと、機械油と火花を散らし続ける彼の左肩を一瞥し、さらに地上で惨殺されたスカベンジャーを見つめた。ここに留まることが死を待つに等しいこと、そして相手の拠点が唯一の生路であることを痛感していた。
「分かったわ、行きましょう。」
龍芊芊はきっぱりとうなずいた。重傷を負ったコルヴォスを慎重に支え、体内に宿ったばかりの契約魔力で周囲の風の動きを感じ取りながら、一行を護衛して薄暗い密道へ身を隠し、迅速に撤退を開始した。




