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第44話
試合が始まると、その意味はすぐにわかった。ボールが、ぜんぜんこちらに渡らない。パスの速さも、体の強さも、何もかもが違う。前半だけで二点を奪われて、スタンドの応援には、だんだん祈るような響きが混じっていった。
それでも、桜井くんは走るのをやめなかった。奪われても奪われても、また追いかける。そして後半、彼の必死の守備からボールを奪い返し、味方へつないで、ついに一点をもぎ取った。スタンドが爆発したように沸く。私も、喉が痛くなるくらい声を出していた。いける。追いつける。その場の誰もが、そう信じた。
けれど、試合終了の間際だった。力尽きかけた守備の一瞬の隙を突かれて、三点目を決められる。直後に、長い笛が鳴り響いた。一対三。敗退だった。
ピッチの上で、桜井くんは膝に手をついたまま、しばらく動かなかった。整列のとき、彼が乱暴に目元をぬぐったのが、遠いスタンドからでも、はっきりわかった。頑張ったよ、すごかったよ。伝えたい言葉はあふれるのに、どれもいまの彼には届かない気がして、私はただ、手が痛くなるほどの拍手を送ることしか、できなかった。




