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次は戦場で会おう  作者: 成瀬丈二


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3/5

石造りの猟犬

ウィンが水筒から最後の一口を飲みくだそうとした時、林の外れの方から、大地から天へと、女性が叫ぶような声がつんざいた。もちろん、本物の女性ではない。本隊からの「敵軍ト遭遇セリ」との鏑矢だ。

「だから、戦術予想はアテにならないんだよ」

ウォーン・バウルの操縦槽に身体を滑り込ませると、簡素な座席に腰をおちつける。安全ベルトで半身を固定し、周囲のメーターをざっと確認すると、DLとケーブルで接続された騎界眼鏡(トンボメガネ)を装着し、DLの頭部の視界と自分のそれを一致させる。

まさにウォーン・バウルと一体化し、自身が巨人になったような万能感がウィンを支配した。

視界の隅に虹石の活性化情況を示す棒グラフを確認し、仲間と合流すべく、ウィンはアイリスドライブを起動する。

刹那、ウォーン・バウルから虹が立った。

虹石がアイリスドライブと共鳴したことに伴う放光現象だ。

この隠密性の欠如こそが、素材のゴーレムの枯渇の次にDLが戦場の徒花とした大きな要因であった。

ウィンの属する小隊は、ナテプス型石級DL三騎の強襲を受けていた。

この鎚矛を主武装としたDLは対人殲滅を目的とした汎用DLとは決定的に運用構想が異なり、複数騎で単騎のDLを包囲して、戦場から追い立てることを旨として、アイリスドライブを騎体のサイズより、ふたランク余裕のあるものを装備している。コストを度外視しても、大出力による長時間の運用は、騎体フレームを歪ませ、整備の余計な手間を呼ぶのだ。

勝って整備できなければ足手まとい。まさに戦争で勝つことを前提とした騎種である。

ウィンは溜息をつき、シートの背もたれに深く体重を預けた。アイリスドライブが稼働する微かな振動が、背骨を通じて全身に伝わってくる。機体と神経を直結したような、この感覚は、何度味わっても慣れるものではない。それは、まるで他人の肉体を借りて歩くような、奇妙な浮遊感と圧迫感が同居した心地だ。

言葉を紡ぐ前に一度、コックピット内の空気を深く吸い込む。金属の臭いと、潤滑油の匂い。この窮屈な鉄の箱こそが、今の彼の世界のすべてだった。

整備兵たちが顔を曇らせる光景が脳裏に浮かぶ。過剰出力で駆動するDLを、彼らは常に「整備泣かせの怪物」と呼んでいた。どれほど華やかに戦場を虹色に染め上げたところで、戻った先でフレームが歪んでいれば、次回の出撃はままならない。彼らにとって戦果は誇りだが、整備班にとっては日々の蓄積を台無しにする、終わりのない苦役の象徴なのだ。騎界メガネに広がる戦場の光景は、どこか現実味を欠いている。虹石が空気に触れて拡散する光の粒が、霧のように林間を覆い始めている。この美しい光景が、何百というコストを消費し、多くの人の労働を浪費した末の産物であるという事実に、ウィンは微かな自嘲を覚えた。戦争という巨大な機構の中で、彼はただの歯車の一つとして、この非効率な贅沢品を動かし続けている。

無線機から入るノイズ混じりの報告を聞き流しながら、ウィンはふと、自分が乗っているウォーン・バウルのフレームに意識を向けた。酷使され、継ぎ接ぎだらけのこの機体もまた、ある意味では自分と同じく、時代という名の歪みの中で擦り減らされているのかもしれない。

「帰ったら、まず整備だな」

独りごちて、アイリスドライブの出力調整は既に終わっている。あとは命令を待つだけだ。窓越しに見える灰色の空の下、虹色の残光が薄れゆくのを見つめながら、彼は静かに、しかし確かな意思を持って、アイリスドライブの出力を微調整する回転ノブに指をかけた。この一瞬の静寂を享受することこそが、次なる消耗へのささやかな抵抗であるかのように。



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