表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/18

第3章 海月精霊は仕掛ける。①

その日。

ナジュムは、港近くの市場に足を運んでいた。

ここしばらく、ピラールは屋敷の奥にこもっている。

不夜祭の計画のため、とは言っているが、どうも元気がない。

迷宮書楼にも、珍しく顔を出していない。住処なのか、と言いたくなるほど、入り浸っていたのに。


あのユスフも、顔がくもりがちだ。

ああ見えて、気を使う所は間違えない。

そのユスフが、口をつぐんでいる。

だから、ナジュムも余計なことはきかない。

……が、気にならないわけではない。


ナジュムの亡き母は、世話焼きで、陽気な港の女だった。

ぼんぼん育ちのろくでなしの父親に引っかかって、ナジュムを未婚のまま、産んで育てた。

だが、ナジュムには、笑っていた母の思い出しかない。

病で亡くなる寸前まで、幼かったナジュムに笑顔を残していった母だった。


それを強い、とナジュムは思う。

そうありたい、と。


アル=アインの女たちは、大抵たくましい。

男たちは、一攫千金を夢見て、博打のように大海に乗り出す。

運を掴む者もいる。

かたや、そのまま帰らなかったりも、珍しくはない。

だから、女たちは男をあてにしない。  

自分で稼いで、家族を養う。


――女が強い国は、明るい。

船団を率いて、諸国をまわったラシードの言葉だ。


ピラールも、あれでれっきとしたアル=アインの女だ。  

でなければ、海に飛び込むなんて無茶はしない。


なにか、うまいものでも食わせてやれば、元気になるだろう――

そう思うナジュムは、間違いなく、母の子だった。


――市場の店先を覗いていたナジュムの耳に、ふと、不穏なざわめきが届いた。

通りの片隅で、数人の男が集まっている。

小競り合いか、と流しかけたところで、その隙間に小柄な影が見えた。


いくら世話焼きの血筋でも、見かけたもめ事すべてに首をつっこむほど、ナジュムも物好きではない。

だが、このときは、違和感がナジュムの気をひいた。


足音もなく、男たちの背後をとる。

ナジュムの“祝別”は、その俊敏さだ。

物心つく前から、ナジュムの俊敏さは際立っていた。

亡き母の自慢のたねだった。


母亡きあと、ナジュムはアル=ナシーム家にひきとられた。

その目の色から父の子だと認められたのだ。

当の父は、とっくに行方知れずになっていたが。

――放蕩者の庶子など、ひきとられただけありがたい。

ひそひそと囁かれる言葉に、孤児になったナジュムは打ちのめされた。

あのとき、手をさしのべたのは、無邪気なラシードだった。

嬉しくなかったわけではない。

だが、引け目を感じたのも事実だ。

だから、磨いた。生まれつき授けられた“祝別”を。


――あのじいさんには、通じなかったけど、な……。

先日の苦さを思い返した、そのとき。

信じられないものを見つけた。


マントを頭からかぶっている。

それでも隠せない品の良い顔立ちは――


王太孫、その人だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ