第2章 海月精霊は企む。④
ラシードはナジュムに向き直った。
「なんだ。いつものお前らしくない。
なにが気がかりだ?」
ナジュムは手の中の茶器に目を落としていた。
「――さっき、若が俺を叱ったのは、
俺が警戒心を隠せてなかったからだろ」
「――俺は、殺気は消せてるつもり、だった。」
ユスフが口をはさんだ。
「隊長は、最初から、ずっと警戒してた。」
「殿下のことじゃないよね。」
ナジュムは苦笑した。
「――市場で、殿下をとらえようとしたとき、俺は指一本、触れられなかった。」
「……あの侍従に妨げられた。」
ラシードが腕を組んで、宙を睨んだ。
「……侍従?
ビーナーム殿か?
古くから王家に仕える家系だが…。」
「あの杖を見たろう?
昔、陛下の狩りのお供で傷を負ったという話だ。」
「……だが、杖を振り回されて、俺は近づけなかった。」
ナジュムは唇をかみしめた。
ラシードが息をついた。
「……辛口でいえば」
「相手がどうだろうと、油断したお前の失点だが……」
ナジュムは眦をとがらせた。
「違う。――言い訳じゃない。
なにか、違ったんだ。
――うまく、言えないが……」
その傍らで、ユスフが腕を組んで、宙を睨む。――ラシードの真似らしい。
「くえない、ジジィだ!……て、こと?」
ピラールが、ぷっと吹き出した。
ナジュムの肩から、力が抜けた。
唇をゆるめてみせる。――少し、ぎこちなかったが。
「――次は、くってみせるさ――」
どうやら和んだ空気に、ラシードが切り込んだ。
「――で?
王太孫殿下を巻き込んだことを、ファーリス殿にどう話す気だ?
ピラール」
――ピラールは、即答しなかった。
ゆっくりと茶器を持ち上げ、しずかに茶を注ぎ足す。
誰も、答えを急かなかった。
――経験で、知っている。
こういうときの、ピラールの答えは――
――大体、とんでもないのだ。
長い沈黙のあと、ピラールはようやく口を開いた。
「――殿下には」
「お師匠様を葬っていただきます。」
「――死者は、死ななければなりませんから」




