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第2章 海月精霊は企む。②

 ユスフが、ラシードに明るく報告した。

「叔父上。

ちょうど今、殿下に、姉さまのあの話をお話ししてさし上げてたんだ。」


 ――ユスフ。頼む、そこから離れてくれ――


 あいにくとナーディルの願いは届かないようだった。実は、お気に入りなのか、その話題が。


 ラシードは苦笑交じりに

「ああ。我が姪ながら、突飛な行動で…

溺れた子どもを救うためとはいえ、向こう見ず過ぎる、と兄が頭を抱えておりました。


 まあ、それでこの」


 目線でナジュムを指した。

「ナジュムをお目付け役にしたのですが。

 ……聞けば、今日は殿下にお助けいただいたとか。」


 ラシードは、次にピラールへ眉をしかめてみせた。

「今に、お前の父親が、ひっくり返るぞ。あまり、騒動を起こすな。

 不夜祭も近いというのに。」

 大げさな仕草で首を振る。

 ピラールの方はといえば、しれっとした顔で

「――海月精霊の噂を、これ幸いと利用している叔父様に言われても……」

と呟いていた。


 ラシードは、聞こえないふりをすることにしたらしい。

「このような有様にて、殿下にも、海月精霊をお目にかけたという次第ですが。

 お礼と申し上げるもおこがましくはありますが――」


 そう言いつつ、部屋の外からなにかを運び入れさせた。

 そこにかけられた覆いをめくると、台一杯に並べられた品物――


 海月精霊の品物だった。


「市場に出回っているめぼしい品の他、我が商会謹製の品もございます。

 特に、この髪飾りは」

 ラシードの合図で、ふっと室内の照明が暗くなった。

――すると、ラシードの手の中で、海月精霊を模した飾りが、光を放った。

 淡い、緑色の光だ。

 それは、深い海の底を思わせた。


「これは、浴びた光を蓄える働きがあるのです。

 光り続けるのは、浴びた時間と、ほぼ同じ程でしょうか……」


 心なしか、語る声は静かだった。

 あまりに、それが淡く、はかない光に思えたからか。


 ナーディルは納得した。

 ――なるほど、これなら姉王女らしい。


 これだ、と顔をあげたナーディルは息を飲んだ。


 彼を囲んでいたアル=ナシーム家の面々――その黒い髪と浅黒い肌は、薄闇に沈み、紫の眼だけが、光ってみえた。

 そして、その中で、ピラールの白い姿が、ひときわ輝くように浮き上がって――


 この世のものとは、思えなかった。


 ――ナーディルは、その時の情景を思い返しながら、手の中の飾りを眺めた。

「――アル=ナシームの者は、みな、あの眼をしているのだろうか……」


 ふと漏れた呟きをビーナームが拾った。

「直系に近いほど、現れやすくはあるとのことですが――特に、今日の面々は紫が濃い者たちのようですな。

 あれも、“祝別”の類いでしょうか。」


「“祝別”――」


「お気づきでございましょう。

 ナジュムとユスフという者たちは、“祝別”を授かっておりましたな。」


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