第92話 悪役なら王族の依頼を断る
王城。
謁見の間。
国王から告げられた依頼。
『王国北部の問題を解決してほしい』
その言葉を聞いた瞬間。
「断る。」
俺は即答した。
「……。」
謁見の間が静まり返る。
貴族たちがざわめく。
「またか……。」
「陛下の頼みを……。」
「男爵なのに……。」
だが。
俺は気にしない。
面倒なものは面倒だ。
「理由を聞いてもいいか?」
国王は怒ることなく尋ねた。
「興味がない。」
再びざわめき。
リリアが小声で呟く。
「男爵様……。」
王女は少し困ったように微笑む。
「相変わらずですね。」
「……。」
国王はしばらく俺を見る。
そして。
「そうか。」
意外にも。
笑った。
「やはり君は変わっている。」
「褒めていない。」
「褒めている。」
「違う。」
国王は立ち上がる。
「だが。」
「君が断る理由も分かる。」
「……。」
「多くの者は。」
「王から頼まれれば。」
「名誉や地位のために受ける。」
「しかし君は。」
「自分の意思で判断している。」
「違う。」
また勘違いだ。
その時。
「陛下。」
一人の貴族が前へ出た。
豪華な服。
細い目。
「このような者に任せるのは危険では?」
「……。」
「いくら演習で結果を残したとはいえ。」
「所詮は若い男爵です。」
「北部の問題は簡単ではありません。」
なるほど。
敵役。
なら。
悪役らしく。
さらに嫌われる発言をする。
「安心しろ。」
俺は貴族を見る。
「お前よりは役に立つ。」
空気が凍る。
「なっ……!」
貴族が顔を赤くする。
よし。
これだ。
嫌われた。
しかし。
国王は。
「ははは。」
笑った。
「正直だな。」
「違う。」
「彼の言うことも一理ある。」
貴族は少し得意そうになる。
「ですが。」
国王は続けた。
「君が北部へ行く理由は。」
「彼を見返すためではないだろう。」
「……。」
違う。
「なら。」
「一つだけ聞かせてくれ。」
「北部には。」
「魔物被害に苦しむ村がある。」
「もし。」
「そこに住む民を救える可能性があるなら。」
「それでも断るか?」
「……。」
卑怯だ。
そういう言い方は。
俺は悪役だ。
人助けなんて。
するつもりはない。
だが。
頭に浮かぶ。
交流祭の後輩。
宿場町の親子。
演習で助けた生徒。
「……。」
ため息。
「条件がある。」
国王が頷く。
「言ってみよ。」
「俺の好きにする。」
「命令されるのは嫌いだ。」
「構わない。」
「なら。」
俺は書類を見る。
「行く。」
貴族たちがざわつく。
リリアが嬉しそうに笑う。
「やっぱり。」
「?」
「なんでもありません。」
セレナが小さく呟く。
「断ると思っていました。」
「……。」
「でも。」
少しだけ笑う。
「結局、行くんですね。」
「必要だからだ。」
「はい。」
その返事は。
なぜか嬉しそうだった。
こうして。
王国北部。
新たな問題解決へ向けて。
悪役男爵の旅が始まる。
本人だけは。
最後まで。
「嫌々行くだけだ。」
そう思っていた。
第92話を読んでいただきありがとうございます!
王城編、最初の依頼が決まりました。
アルベルトは断ろうとしましたが、結局は北部の問題解決へ向かうことになります。
王都とは違う場所で、また新たな出会いと騒動が待っています。




